ベートーベンの毛髪を新たに分析、謎の病は鉛中毒が原因か 研究者

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1805年のベートーベンを描いた版画/Hulton Archive/Getty Images

1805年のベートーベンを描いた版画/Hulton Archive/Getty Images

(CNN) クラシック音楽の大家、ベートーベンの髪の毛から高レベルの鉛が検出され、本人が鉛中毒にかかっていたとみられることが新たな研究で分かった。難聴を含め、ベートーベンが人生の中で苦しんだ病気の原因になった可能性があるという。

聴覚の喪失以外にも、ベートーベンは生涯を通じて胃腸の病気に悩まされ、黄疸(おうだん)や重い肝臓病も患った。

ベートーベンは肝臓と腎臓の疾患により56歳で亡くなったとされる。しかしこれらの数多い健康問題の原因を把握するのは極めて困難な作業であり、ベートーベン自身もいつか医師の手でそれを解明してほしいと望んでいた。

国際的な研究者のチームは、10年近く前からベートーベンの願いを果たすべく本人の毛髪の束の研究に取り組んできた。

学術誌クリニカル・ケミストリーに6日に発表された研究結果によれば、高濃度の鉛に加え、ベートーベンの毛髪にはヒ素と水銀も含まれていることが最新の分析から明らかになった。

研究チームは異なる二つの方法を用いてベートーベンの毛髪の束2組から鉛の証拠を突き止めた。2組の毛髪は1820年後半から27年3月の間に切られたと推定されるものと、ベートーベン自身が26年4月にピアニストのアントン・ハルムに手渡したもの。

ベートーベンの生きた時代には、人々が愛する人や有名人の頭髪を切って収集、保管するのはごく一般的な行為だった。ベートーベン研究家で最新の研究論文の共著者を務めたウィリアム・メレディス氏はそう説明する。

研究では両方のサンプルから想定を超えるレベルの鉛が検出された。20~27年に切られたとみられる毛髪には想定の64倍、26年に手渡されたという毛髪には想定の95倍の鉛がそれぞれ含まれていた。

ハーバード大学医学大学院の病理学教授で論文の筆頭著者、ネーダー・リファイ氏は「この水準なら鉛中毒と見なされる」「この水準で米国の緊急治療室に入れば、どこでも即入院だ。キレート療法を施されるだろう」と述べた。

鉛のレベルがベートーベンの毛髪に見られるような検出量にまで上昇すると、胃腸や腎臓に関連する疾患並びに聴力の低下と結びつくのが一般的だという。ただ単独の死因と考えられるほどには高くないと、論文著者らは述べている。

研究者らはより若い時期のベートーベンの毛髪サンプルを入手していないため、いつ鉛中毒が始まったのかは把握できていない。ただリファイ氏によれば、ベートーベンは生涯を通じて鉛中毒の兆候を経験している。そこには聴力の喪失、筋肉の痙攣(けいれん)、腎臓の異常などが含まれるという。

それにしてもベートーベンはどのようにしてこれほどの鉛、さらにはヒ素や水銀を体内に取り込むに至ったのだろうか。こうした物質は数十年にわたって食物や飲料の摂取を通して蓄積された公算が大きいと、リファイ氏は指摘する。

ベートーベンはワイン好きで知られ、時には1日でボトル1本を空けることもあった。また鉛入りのワインも飲んでいた。リファイ氏によるとワインに甘味料、保存料として酢酸鉛を加える習慣は少なくとも2000年前から存在した。鉛はまた、ガラス製品の透明度を高めるために製造工程で使用されてもいた。

ベートーベンは大の魚好きでもあった。当時ドナウ川は産業の源で廃棄物が流れ込んでいたが、その同じ川で捕れた魚が消費に回っていた。魚にはヒ素や水銀が含まれていた公算が大きいとリファイ氏は述べた。

鉛中毒は、ベートーベンの肝疾患を引き起こした四つ目の要因のようだ。前出のメレディス氏はこの他に遺伝的要因、 B型肝炎感染症、アルコール好きの傾向を挙げている。

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