OPINION

バイデン氏が抱える「ケネディ問題」

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ケネディ氏の立候補により、バイデン氏の選挙戦に問題が生じる可能性がある/Lisa Lake/Getty Images for SiriusXM/TNS

ケネディ氏の立候補により、バイデン氏の選挙戦に問題が生じる可能性がある/Lisa Lake/Getty Images for SiriusXM/TNS

(CNN) バイデン米大統領は「ケネディ問題」を抱える恐れがある。数カ月前にロバート・ケネディ・ジュニア氏(69)が、2024年の大統領選に向けた民主党予備選への出馬を表明した。同氏の父はニューヨーク州選出の著名な上院議員だったが、1968年の暗殺で悲劇的な死を遂げた。専門家らは当初こそケネディ氏の出馬にさほど注意を払っていなかったが、ここ数週間でその話題を耳にする機会は増え続けている。

環境問題に携わる弁護士から反ワクチンを掲げる陰謀論者に転じたケネディ氏の全米での支持率は、現在10~20%。メディアからの注目度は高まり続け、ニューヨーク・マガジン誌が長い特集記事を組む一方、本人はジョー・ローガン氏が司会を務める人気のポッドキャスト番組に出演した。

ケネディ氏がバイデン氏に悩みの種をもたらしかねない理由はいくつもある。環境や企業に対するケネディ氏の左派寄りの立ち位置は、右派から多大な人気を博する陰謀論と相まって、一部の有権者をバイデン氏から剥ぎ取る可能性がある。加えて当然ながら、ケネディ家の知名度も物を言う。それは民主党の政界の中で最も認知され、かつ愛される家名の一つだ。

しかしながら最大の問題は、予備選の日程に絡むものとなるに違いない。昨年末、バイデン氏は民主党の予備選の日程を変更し、サウスカロライナ州を最初の開催州とした。ところがニューハンプシャー州が歴史ある1番目の州の地位を譲り渡すのを拒否。州法の規定の下、自分たちの州が他のあらゆる州より1週間早く予備選を開催しなくてはならないことになっていると主張した。

結果として、バイデン氏の名がニューハンプシャー州の予備選の候補者名簿に載らない恐れもある。その場合は実質的に、同州をケネディ氏と作家で言論人のマリアン・ウィリアムソン氏に譲る形になる。

仮にケネディ氏が首尾よく勝利するなら、それがもたらす影響は68年に当時のジョンソン大統領が直面したのと似たものになるかもしれない。この時はミネソタ州選出のユージーン・マッカーシー上院議員がニューハンプシャー州の予備選でジョンソン氏に迫る2位につけた。マッカーシー氏の成功が部分的な要因となり、ジョンソン氏は数週間後、事実上再選を目指さないとする衝撃の発表を行うに至った。

とはいえ、ケネディ氏が目標を達成する望みは依然として薄い。ニューハンプシャー州を除いては、どの州でも勝てる見込みがほとんどないからだ。同氏にかつてのレーガン大統領さながらの追い込みを成し遂げる力があることを示す証拠は何もない。76年大統領選で共和党の指名獲得を目指したレーガン氏は、あと一歩で現職のフォード大統領に勝利できるところまで迫った。

予備選で現職大統領に挑む他のケースと同様、ケネディ氏のもたらす主要な脅威は、バイデン氏に与え得る負の影響、並びに自身の立候補が大統領の立場を弱体化させる可能性だ。相手は既に、低い支持率と年齢を巡る懸念に苦慮している。

共和党による攻撃とは異なり、ケネディ氏の批判は民主党の内側から発せられるものとなるため、より高い正当性を党内で獲得するかもしれない(ただ同氏への支持は右派の他、バイデン氏の妨害を図っているとみられる人々からも寄せられている)。またこれまでのところケネディ氏はバイデン氏に対する直接的な攻撃を避けているが、選挙戦の成り行き次第ではそれも変わる可能性がある。

我々は、こうした動きがもたらし得るダメージを既に目の当たりにしている。マッカーシー氏がジョンソン氏を敗北寸前まで追い込んだ際に走った激震さながらに、テネシー州選出のエステス・キーフォーバー上院議員は、苦境にあった52年のトルーマン大統領に対して同様の衝撃を与えた。キーフォーバー氏がニューハンプシャー州の予備選を制した直後、トルーマン氏は大統領選への不出馬を表明した。

80年には、マサチューセッツ州選出のテッド・ケネディ上院議員が強力な対立候補として現職のカーター大統領に挑んだ。テッド・ケネディ氏はカーター氏を弱い指導者だと激しく非難。民主党の中核となる支持者や理念を捨て去っていると批判した。

実際に民主党の候補指名を獲得したのはカーター氏だったが選挙戦は大激戦の様相を呈し、本人の能力を巡ってより多くの疑問が噴出。この影響が明らかに痛手となり、カーター氏はレーガン氏との対決となった本選で敗北を喫した。

92年には元スピーチライターでテレビ番組のコメンテーター、パトリック・ブキャナン氏が共和党のジョージ・H・W・ブッシュ大統領と争った。ブキャナン氏に対する評価は物議を醸すものであり、偏狭な見解を振りまいてきた経歴があるにもかかわらず、大衆迎合的で既得権益層に反発するその主張は多くの保守派の気持ちをかき立てた。

ブキャナン氏の「キング・ジョージ」に対する攻撃のいくつかは効果を発揮した。その中でブッシュ氏は、米国の労働者の懸念に理解のない大統領として描かれた。ブキャナン氏による激烈な「文化戦争(訳注:80年代以降の米国で起きている文化的争点をめぐる価値観やイデオロギーの違いに基づく対立を指す言葉) 」にまつわる演説も、文化的な保守派を活気づけた。これらの層は現職の大統領をあまり評価していなかった(ただブキャナン氏は最終的にはブッシュ氏を支持することになるのだが)。ここでのダメージは尾を引き、ブッシュ氏の任期が1期のみで幕切れとなる要因になった。

支持率こそ芳しくないが、それでもバイデン氏はカーター氏やブッシュ氏に比べれば格段に有利な立場にいる。現職の大統領として、手堅い立法上の業績を挙げてみせることができるからだ。インフレが和らぐ中で、強い経済を誇示してもよい。雇用は十分にあり、物価は安定している。トランプ大統領の再来に対する不安があるのも、バイデン氏にとって追い風だ。その不安は民主党を結束させ、有権者に恐怖を抱かせるほど大きい。これがなければそうした有権者らは、ケネディ氏のような対立候補になびいてしまうかもしれない。

ただ、ケネディ氏がマッカーシー氏やキーフォーバー氏など、他の歴史に残る候補者に現状の訴求力で及ばないとはいえ、予備選の戦い並びにそれが引き起こし得るあらゆる潜在的な問題は過小評価するべきではない。2020年にバイデン氏を支持した多くの人々は、現在の大統領に対して失望感を覚えている。ケネディ氏が今後放ついかなる攻撃も、バイデン氏にとっては痛手になる可能性がある。共和党に選挙戦で付け入る根拠を与える事態にもなりかねない。

現政権はニューハンプシャー州での予備選への対応と、ケネディ氏に反撃する最適の方法について、何らかの戦略的な決断を下さなくてはならなくなるだろう。24年の大統領選は、いよいよその方向性が定まりつつある。

ジュリアン・ゼリザー氏はCNNの政治担当アナリストで、プリンストン大学の教授を務める。専攻は歴史学と公共政策。著者・編者としてこれまで25冊の書籍に携わった。このうち「Myth America: Historians Take on the Biggest Lies and Legends About Our Past」は米紙ニューヨーク・タイムズのベストセラーに選ばれた。記事の内容は同氏個人の見解です。

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