OPINION

バイデン氏次男の司法取引不成立、共和党の正当性を証明

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ハンター・バイデン氏の司法取引がまさかの不成立に。共和党支持者らの反応は?/Jonathan Ernst/Reuters

ハンター・バイデン氏の司法取引がまさかの不成立に。共和党支持者らの反応は?/Jonathan Ernst/Reuters

(CNN) 共和党有権者の目の前には、二つにくっきりと分かれた映像が流れる強力なスクリーンが存在する。それが彼らの2024年大統領選に対する捉え方に拍車をかけている。そして26日、バイデン米大統領の次男、ハンター・バイデン氏の司法取引が失敗に終わったときほど、その違いが鮮明に見えた日はなかった。

W・ジェームズ・アントル3世氏
W・ジェームズ・アントル3世氏

共和党支持者は長い間、ハンター氏が検察から特別な扱いを受けていると主張してきた。検察はハンター氏のビジネス慣行並びに税金と銃に絡む犯罪の疑惑を調査している。対照的にトランプ前大統領はこれ以上なく厳しい法律上の精査に直面し、ありとあらゆる潜在的違法行為について取り沙汰されているというのが、共和党支持者の見方だ。26日、ハンター氏を巡る共和党の立ち位置に対し、東部デラウェア州連邦地裁のマリエレン・ノレイカ判事がお墨付きを与えた。同判事は、司法省がハンター氏に持ち掛けた「普通ではない」司法取引を退けた。

ノレイカ氏が承認を求められた司法取引により、ハンター氏は実刑を免れるはずだった。6月にまとめられたその司法取引はノレイカ氏に正式に示されたものの、内国歳入庁(IRS)の複数の内部告発者が先週、連邦議会で証言。ハンター氏を通常の捜査対象のように扱うことができず、同氏の家族にまつわる手掛かりも追及できなかったと主張した。その上で、実際よりも格段に厳しい罪状で告発すべきだとの勧告を行っていた(ジョー・バイデン氏は、息子のビジネス上の取引には関与していないと発言している)。

トランプ前大統領から任命され、デラウェア州選出の民主党上院議員のどちらからも支持を受けたノレイカ氏は、当事者らに対し司法取引を承認するつもりはないと異例の通知をした。同氏によれば、ハンター氏の銃の違法購入に関する司法取引は「普通ではない」ものであり、「標準から外れた条項」を含んでいた。具体的には他の潜在的告発からの「広範な免責」などだ。また当該の司法取引については「合憲性に関する懸念」もあると指摘。権力の分立に違反しかねないとの危惧を明らかにした。

司法取引は現在停止状態にあり、ノレイカ氏は双方に対して30日以内にさらなる情報を提示するよう求めた。この日の公判は、ハンター氏が連邦税未払いの軽罪2件について無罪を主張して幕を閉じた。検察はハンター氏が110万ドル(現在のレートで約1億5500万円)から150万ドルの税金を期限までに納めなかったと主張している(その後納付済み)。これとは別にハンター氏には、銃を購入する際に当時薬物の使用者だったことを認めず虚偽の申告をした疑いもかかっている。

今週マッカーシー下院議長は大統領及びその家族のビジネス上の取引に対する弾劾(だんがい)調査の見通しを示したが、これらの問題について司法省が適切な圧力をかけていなかった事実を考慮すれば驚く話ではない。前出の内部告発者が突き付けた非難の他、ハンター氏と共にビジネスに携わっていた元関係者の証言開示が必要だとの指摘もある。

これと同時に、2度にわたり弾劾訴追されたトランプ氏は、3度目となる起訴の見通しに直面する。本人が今月、ジャック・スミス特別検察官から大陪審の捜査対象になっていることを通告する書面を受け取ったと発表。書面は20年の大統領選の結果を覆そうとする同氏の取り組みに関する内容だとした。ここに至るまで、既に奇抜な法理論を用い、前大統領に対する複数の訴追がニューヨーク州の大陪審によって行われてきた。同氏と不倫関係にあったと主張するポルノ女優に支払われた口止め料を巡る訴訟だ。もう一つは連邦政府からの訴訟で、機密書類の不適切な扱いを対象とする(トランプ氏はこれら3件について、いかなる違法行為も否定している)。

それでも同氏は、全国の共和党支持者のうち5割を超える支持率を獲得し、24年大統領選での共和党からの指名獲得に向け優位に立つ。ある最近の世論調査が示すところによれば、トランプ氏のアイオワ州での支持率は最も近い位置につける対立候補であるフロリダ州のデサンティス知事を30ポイント上回っている。支持率が最も低いニューハンプシャー州での調査でも、2位に対して14ポイントの差をつける。

ハンター氏はトランプ氏の生き残りを可能にしている理由の一つに他ならない。実際のところトランプ氏は、生き残るどころか成功を収めてさえいる。他の候補者であればほぼ全員打ちのめされているであろう状況で。一般共和党員は、大統領の息子をダブルスタンダード(二重基準)の最高の事例と見なしている。

彼らの考えではトランプ氏は不当な仕打ちを受けており、本人の破滅を目論(もくろ)む執拗(しつよう)なキャンペーンの標的にされている。共和党の支持基盤は、トランプ氏に対する刑事訴追に政治的な動機があると睨(にら)む。同氏へのこれまでの扱いは、ハンター氏のみならずバイデン大統領や16年の対立候補のヒラリー・クリントン氏とも異なっているというのが、支持者らの思いだ。

恐らく最大の証拠となるのが、元検事として名高いジョン・ダーラム氏の報告書だろう。司法省の特別検察官を務める同氏は、連邦捜査局(FBI)によるトランプ氏の捜査を調べた。その捜査とは、トランプ氏がロシアと共謀したとの疑惑を巡るものだった。

ダーラム氏は4年近くをかけてロシア疑惑の捜査を検証。ハンター氏に甘いと非難される同じ司法省が、根拠の薄弱なままトランプ氏のロシア疑惑を捜査していたと結論づけた。一方で外国による選挙介入の主張がヒラリー氏に関して持ち上がった際、FBIが目の色を変えてこれを捜査することはなかった。

「基になる証拠は、数々の徹底した捜査を通じて集めた。連邦政府はこれらの問題について、多大な犠牲を払いながら捜査を進めてきた」と、ダーラム氏は記した。そうした証拠に基づき、「米国の法執行機関も諜報(ちょうほう)機関も、見たところ実際の共謀の証拠を一切所持してはいなかった。いかなる証拠も『クロスファイア・ハリケーン』捜査の開始時点で、彼らの手中にはなかった」とした。「クロスファイア・ハリケーン 」とは、トランプ氏のロシア疑惑捜査につけられた名称だ。FBIは報告書への返答として、「既に数十の是正措置を実行している」との声明を発表した。

司法省と主流メディアが当時の捜査の一環で徹底的な調査活動を繰り広げるのと時を同じくして、複数の権力者がハンター氏のノートパソコンから見つかった証拠を退けていた。これらの証拠は、同氏のビジネス活動への疑問を浮かび上がらせるものだった。20年の大統領選が盛り上がる中、民主党の任命した人物が多数を占める元諜報当局者らが、当該のノートパソコンについて、ロシアによる偽情報の結果だとの見解を述べた。これを受けてメディアはこの件の報道を躊躇(ちゅうちょ)するようになり、ソーシャルメディア企業は、既に発表された内容の共有を制限した。

それが間違いだと証明され、司法省によるハンター氏への捜査が過熱しても、IRSの内部告発者は通常なら実施するであろう複数の聞き取りを妨害されたと証言。さらなる訴追の勧告も拒絶されたとした。IRSのキャリア組で民主党員を自認するジョセフ・ジーグラー氏の証言によれば、「検察は捜査のペースを落とし、不必要な承認を設定した。本件を効果的かつ効率的に処理するのを妨害した。事実をたどっていけないことが何度もあった」。

(司法省とホワイトハウスはこうした主張を否定している。民主党は捜査を進めているのがトランプ政権時代の特別捜査官、デービッド・ワイス連邦検事だと指摘した上で、複雑な案件の捜査では立場の異なる人々の間で意見の不一致が生じるのは普通のことだとの認識を示している。ワイス氏も内部告発者の糾弾を否定し、自身の独立性を擁護した)

恐らく、トランプ氏とハンター氏を巡る捜査で扱いに差異が生じるのには、党派的な先入観以上の正当な理由がある。確かにトランプ氏にかけられた罪状の一部は、機密文書の問題や連邦議会議事堂襲撃事件にまつわる内容であり、国家及び国内の安全保障に与える影響の深刻さでハンター氏に対する罪状を格段に上回る。ハンター氏は政治指導者になったこともない。

しかし、次の共和党大統領候補者を決めるであろう有権者が、ハンター氏の扱いには何か納得しかねるものがあると考えるのは間違ったことではない。この考えを受けて、トランプ氏に対する訴訟への疑念が生まれても驚きはない。

トランプ氏が常に清廉潔白な犠牲者というわけではないが、共和党を支持する多くの有権者は司法省の言うことを真に受けない傾向にある。バイデン氏の任命した人物に率いられた同省がトランプ氏について何を言おうと、その信憑(しんぴょう)性は彼らが反トランプと見なすマスコミの言説と大差ない。リベラル系メディアのバイアスに対する懸念は、共和党支持者の間に共通のものであり続けている。それは少なくとも、ニクソン政権にまで遡(さかのぼ)る。

共和党を支持する有権者は、ハンター氏が軽い処罰で済む一方、自分たちが好意を寄せる候補者には厳しい追及が行われていることを確信している。26日の出来事も、彼らの怒りをさらに激しくするだけだろう。

W・ジェームズ・アントル3世氏はニュースメディア「ワシントン・エグザミナー」の政治担当編集委員を務める。著書に「Devouring Freedom: Can Big Government Ever Be Stopped?(仮題『自由を貪る:巨大な政府を止めることは果たして可能か?』)」

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