OPINION

米ジョージア州のトランプ氏裁判、地方検事が挑む大きな賭け

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トランプ前米大統領(左)とジョージア州フルトン郡のファニ・ウィリス地方検事/Doug Mills/The New York Times/Redux/AP

トランプ前米大統領(左)とジョージア州フルトン郡のファニ・ウィリス地方検事/Doug Mills/The New York Times/Redux/AP

(CNN) 米ジョージア州フルトン郡地方検事局のファニ・ウィリス検事(民主党)は、14日夜遅くの記者会見を終える際、トランプ前大統領と18人の共同被告人に対して25日までに出頭する必要があると述べた。彼らには、2020年大統領選で同州の結果を覆そうとする役割を果たしたとの疑いがかかる。これまでコメントを出した被告人は、トランプ氏を含め全員が不正行為を否定している。

トランプ氏はウィリス氏の要請に従う公算が大きい。他の三つの刑事裁判でも、トランプ氏は自主的に出頭していた。しかしそれは、ウィリス氏がジョージア州の州民の正義を追求する中で向き合う最も容易なハードルになるとみられる。

初めに、ウィリス氏と裁判を担当する判事は、迅速な裁判の日程を決めるのに苦慮するだろう。ウィリス氏は判事に対し、公判日を24年3月4日に設定するよう求めたが、その期日はトランプ氏の非常に過密な裁判日程の中に配置しなくてはならない。同氏は多忙な大統領選の真っ最中であり、24年に入ればその忙しさに拍車がかかるだろう。またウィリス氏が裁判に手を付けず、全ての被告人を一度に裁きたい考えだと踏まえるなら、本人はそうする意図を口にしているが、トランプ氏が出廷できない状況は裁判全体に影響を及ぼすだろう。

加えて、各被告が公判に至るまでにかかる時間、そして公判を実施するのにかかる時間は増えていく。なぜならどの被告も自分たちの申し立てを行い、数限りない事柄について問題を提起するはずだからだ。そしてこの裁判に関わる被告側の弁護士が増えれば増えるほど、彼ら及び被告の全員がそろうスケジュールの調整はそれだけ困難になるだろう。

事実、19人の被告というのは厄介だ。論理的に言ってそれほど多くの人間を対象にした裁判など不可能に近いだろう。たとえ大半の被告が有罪を認めたとしても、それは収監される実質的なリスクを避けるための行動かもしれない。被告の数が多い組織犯罪処罰法(RICO法)の裁判は、何カ月もかかる公算が大きい。

トランプ氏のチームは間違いなく、こうした訴訟手続きは大統領選後に延期するべきという見解に向かう。他の裁判でそうしたように、トランプ氏は公判前手続きを可能な限り引き延ばそうとするだろう。その際選挙運動と他の裁判の存在が、公判日を24年大統領選より後に設定する理由となるはずだ。

この議論は、フロリダ州連邦地裁のアイリーン・キャノン判事に対して部分的に成功した。機密文書持ち出しに関する裁判においてだ。キャノン氏は先ごろ、公判日を24年5月に定めた。トランプ氏の希望よりも早かったが、検察が求める期日を半年遅らせる形となった。3人目の被告人の起訴が追加されたことを考慮すると、キャノン氏が公判日をさらに繰り下げる可能性もある。

ジョージア州の裁判を担当する判事が公判日を遅らせる議論を受け入れるかどうかは判然としない。フルトン郡上位裁判所のスコット・マカフィー判事は、今年の2月に判事になったばかりだ。従って、このような要望にこれまでどう応じてきたのかは明らかではない。

筆者の予想では、トランプ氏は自身への訴訟を連邦裁判所に移送しようとする。 ニューヨーク州ではそうしたが、同州の判事は先ごろそのような申し立てを退けた。元大統領首席補佐官でジョージア州での訴訟の共同被告人となったマーク・メドウズ氏は既にそうした申し立てを提出した。連邦裁判所は弁護側にとってより好ましい法廷に思えるかもしれない。保守的傾向の強い陪審員団がそろう可能性がより高く、トランプ氏が任命した判事が裁判を担当する可能性もあるからだ。

トランプ氏はジョージア州の裁判を連邦裁判所に移送することについて、ニューヨーク州の場合より成功する可能性が高いと考えているかもしれない。なぜなら表面上、選挙介入の犯罪容疑が大統領の職務とより関係が深いとする議論には一段の説得力があるからだ。これに対しニューヨーク州で起こされた口止め料にまつわる訴訟の場合、当該の行為が発生したのはトランプ氏が大統領に就任する前だった。とはいえ、依然として苦しい戦いであることに変わりはない。訴訟を連邦裁判所に移すことは刑事裁判では異例で、限られた状況でしか適用されないからだ。

トランプ氏が援用する公算が最も大きい法規は合衆国法典第28編第1442項(a)(1)で、これによると国家公務員が本人の公務に関係する行動で訴追されていれば連邦裁判所への移送が認められる。この法規はトランプ氏に対し、ジョージア州の当局者らへ選挙に絡む圧力をかけていた当時、自身が「公務員」として自らの職業的責任の範囲内で行動していたことを立証するよう求める。

しかしながらジョージア州の州務長官に「票を見つけて」選挙結果を変えるよう頼むことは、20年大統領選の同州の選挙に対して完全性の確保を試みるのと正反対の行動に思える。さらに重要なことに、選挙の完全性の確保は大統領の仕事ではない。それはトランプ氏が弱体化を図ったまさにその当局者たちの仕事だ。

トランプ氏と他の被告たちは、裁判地の変更も要求するかもしれない。弁護側はより都合のいい陪審員団をジョージア州の一部の地域でなら見つける可能性がある。そこでは20年の投票でトランプ氏がバイデン氏を上回った。ジョージア州で最も人口の多いフルトン郡は、断然バイデン氏を支持したが、トランプ氏は州内のほとんどの郡を制した。

弁護側は、次のように主張する公算が大きい。つまり捜査に関する相当な量の宣伝により、リベラルに傾いたフルトン郡の陪審員団は既に影響を受けていると。恐らく証拠として引き合いに出すのは、大陪審員長によるメディアツアーだろう。この大陪審員長の発言は、大陪審の規定違反だったようには見えない。それでもツアーの実施によって弁護側の主張の量が増えることは予想できる。この裁判に対する世間の関心が極度に高いため、フルトン郡では公正な裁判が受けられないというのがその内容だ。

とはいえ、裁判地を変更する申し立ては実現が難しい。これらの事件や裁判について周知されている地域は(郡庁所在地の)アトランタ周辺に限られているわけでもないため、裁判地を変えたところで陪審員が訴訟の報道に触れているかどうかには事実上差がないだろう。問題は判事が慎重に陪審員を選定するかどうかに懸かってくる。陪審には捜査に関する知識の有無にかかわらず、訴訟を公平に検証する能力が求められるだろう。またフルトン郡が刑事訴訟の中心地として他のどの地域をも上回っているという点だけでなく、設備や安全性の見地からもアトランタはより妥当な選択肢だ。小規模かつ地方色の強い地域に比べて、裁判地にふさわしい。

こうした早期の申し立てに加え、トランプ氏並びに関連のある共同被告人は、長々と列挙された実質的な弁護や論拠を強く主張するだろう。その訴訟手続きは、ワシントンで起訴された連邦議会議事堂襲撃事件を巡る裁判のそれと酷似したものになる公算が大きい。

そこには大統領の権限の範囲内で取った行動に対する刑事免責の主張や、弁護士の助言に従ったとの訴えが含まれるとみられる。ジョージア州のブラッド・ラフェンスパーガー州務長官との電話については、憲法で保障された言論の自由によって訴追から守られていると主張しそうだ。トランプ氏と他の被告には訴追に必要不可欠な罪を犯す意図が欠けていたとも主張する公算が大きい。トランプ氏こそが大統領選の正当な勝者だと、心から信じていたというのがその理由だ。

上記の主張の中に、現時点で通用しそうなものは一つもないように思える。また全ての主張は、他の裁判所で争われた後にジョージア州で決着を見ることになりそうだ。他の裁判所での判断にジョージア州の判事が拘束されることはないかもしれないが、問題点を考察する上でそれらの判断の内容は伝えられるはずだ。

もしトランプ氏と共同被告人らがこの裁判を来年の大統領選の後にまで遅らせることが出来るなら、トランプ氏の当選確率は高まり、一連の裁判が同氏にもたらす脅威は減退するかもしれない。大統領になれば、同氏は連邦裁判所が管轄する訴訟を断念させる権力を手にする。州の裁判で責任を回避する能力も増大するだろう。

トランプ氏に大統領として州の裁判を直接制御する権限はないが、連邦裁判所が州レベルの起訴に対して、現職の大統領を相手取って手続きを進めることは出来ないと見なす可能性は小さくない。仮にトランプ氏が有罪となって禁錮刑を言い渡されても、大統領の職責を果たす必要性を理由に釈放の申し立てを認めることはあり得る。

言い換えれば、ウィリス判事にとって有罪判決を勝ち取り、それをきっちり機能させる可能性が最も高いのは、出来る限り迅速に訴訟を進めることだが、本人は別の方向に向かう決断を下したように見える。つまり、ありとあらゆる罪状で、起訴されるべき全ての人間を起訴するという手法だ。たとえ結果がどうなろうとも。

確実に分かっているのは、この裁判では向こう数週間で多くの動きがあるだろうということだ。19人被告がいれば、有罪を認めて協力しない人物が何人か出るのはほぼ間違いないだろうが、少なくとも数人は当局に協力するはずだ。それが裁判の向かう道筋をがらりと変える可能性はある。

ウィリス氏の決めた裁判手法(起訴したいと思った全員を、使いたいと思った法律で起訴した)は、検事として訴訟に臨む上で最も純粋なやり方だ。その点で筆者は同氏を称賛する。ただその決定がどう展開していくかは、今後注視する必要がある。政治運動のシーズンの最中に、複数の被告と他の三つの刑事問題を扱う現実をひしひしと思い知る時、果たしてどのような結果がもたらされるだろうか。

ジェニファー・ロジャース氏は元連邦検事で、ニューヨーク大学ロースクールの非常勤教授並びにコロンビア大学ロースクールの法学講師を務める。CNNの法律担当アナリストでもある。記事の内容は同氏個人の見解です。

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