OPINION

プーチン氏が「永遠の戦争」を望む理由

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ロシアのプーチン大統領にとって「永遠の戦争」を語ることの利点とは

ロシアのプーチン大統領にとって「永遠の戦争」を語ることの利点とは

(CNN) 西側の人間がウクライナでの紛争について「永遠の戦争」になりつつあると語るとき、たいていは悪いことを意味する。だがロシアのプーチン大統領にとって、それはゴールである公算が大きい。

プーチン氏は先ごろ、9月30日を正式な休日にした。洗練されたネーミングとは言い難い「新たな地域のロシア連邦への再統合の日」。ウクライナのドネツク州、ルハンスク州、ヘルソン州、ザポリージャ州の併合1周年を記念している。その時点でほとんどの地域はロシアの支配下になかったが、プーチン氏には自らが現在抱く強迫観念の一つに立ち返る機会を提供した。この苦闘を通じ「母なる大地と自分たちの主権、精神的価値、統合と勝利」を手にするのだという思いだ。

マーク・ガレオッティ氏/Mayak Intelligence Ltd
マーク・ガレオッティ氏/Mayak Intelligence Ltd

同氏の目から見れば、この戦いはウクライナ相手ではなく、むしろ地球規模での西側との戦いになる。ウクライナはあくまでも一戦場に過ぎず、たとえ犠牲がとりわけ多く、わかりやすい戦いの舞台であってもその点は変わらない。今年の5月9日、戦勝記念日のパレードで行った同氏の演説は、普通なら長く大仰な成功の羅列となるところを、短く明確な宣言にまとめたものだった。「本当の戦争が、我らの母国に対して仕掛けられた」というのがその中身だ。

プーチン氏は「大祖国戦争」の亡霊を呼び覚ました。ロシア人は第2次世界大戦をそう呼んでいる。さらにこうも警告した。「文明は再び決定的な転換点に立っている」。なぜなら「西側のグローバリストのエリートたち」は、「ロシアを破壊し、滅ぼす」決意を固めているからだ。

一方で、これは相当な失敗に対する破滅的な口実に使われ得る。失敗とは同氏が言う、ウクライナでの「特別軍事作戦」のそれを指す。そこでは傀儡(かいらい)政権を据えるための迅速な作戦が陰惨な全面戦争と化し、ロシア軍の誇る最高の資産が破壊の憂き目に遭っている。

ことはそれだけですまない。プーチン氏が今年の戦勝記念パレードでそうしたように、この戦争を「我々の祖国の命運を決する戦い」の一つと語るとき、同氏は心からの思いを自らの政権の新たな信条に向けて口にしているように見える。将来の明確な構想は何も提示しておらず、現実的な希望も一切ない。ただ国家がその存続を賭けた苦闘から抜け出せずにいるというメッセージがあるだけだ。戦う相手は敵意に満ちた西側諸国であり、現実的な終わりは全く見通せない。

展望は暗澹(あんたん)たるものに聞こえるが、プーチン氏から見ればそこには明確な利点もある。当然ながら戦争はロシアにとって災厄に他ならない。米国の複数の情報筋は、ロシア軍の兵士がここまで12万人死亡、17万~18万人が負傷したとの見方を示唆する。

和平合意に至り、制裁が解除されても、経済の傷が癒えるには数年かかるだろう。またそうした二次効果が資金不足の公共サービスにのしかかる影響は、心身に傷を負った大量の元兵士という重荷がないにせよ、最低でも次の世代までは及ぶはずだ。

ただそれは一つのチャンスでもある。永遠の戦争が「後期プーチン主義」の組織化原理となる中で、抑圧の強化は許容どころか要請すらされる。プーチン氏が国家を掌握し続けるため、それを必要とするからだ。最も穏やかな異議申し立てさえ国家への反逆と見なされ、国防分野への大規模な資源の移動も必須となる。最近の予算の見通しによると、来年度は国防予算が7割近く増えるとされる。これは医療、教育、環境保護に向けた支出の合計の3倍に匹敵する水準だ。

戦場でのプーチン氏は、負けないことによって勝利するのだと自分に言い聞かせればいい。ウクライナ軍の反転攻勢は、南部ザポリージャ州でロシア軍の第1防衛線を突破。第2防衛線も局地的な切れ目を狙って攻撃を仕掛けている。ウクライナ政府の希望としては、侵攻してくる軍隊を二分はできないまでも、せめて敵の陣地深くへ十分に侵入し、クリミア半島とロシア本土をつなぐ「陸橋」の道路及び鉄道への砲撃を可能にしてもらいたいところだ。

冬季の降雨が近づく中、こうした作戦が遂行できるかどうかは予断を許さない状況に思える。仮に不可能ならロシア政府には時間的余裕が生まれ、そこで一段の防御の構築と兵士の増強を行うことになるだろう。西側諸国によるウクライナ支援継続の意思が減退するのを期待しつつ。

我々はプーチン氏の本心を知ることができない。ロシアが自身のウクライナでの完全な失敗からある種の勝利を引き出せると本当に信じているのか、あるいは単に他の選択肢がなく、敵よりも長く生きられればそれでいいと感じているだけなのか、実際のところは分からない。それでも同氏の視点に立てば、「永遠の戦争」について語ることには本人にとって最終的な利点がある。それにより敵の士気が下がるということだ。

結局のところ、一つ想定しておくべきなのは、ウクライナ軍の勝利が兵士らの覚悟と西側の供与する装備の優越性に依拠しているという点になる。とはいえ、戦いに勝利することと永続的な平和との間には、まだ相当の隔たりがある。

仮に全てのロシア軍兵士をウクライナから駆逐するとしても、それ自体大変な労力を要するだろうが、実態は単に前線が国境線へと移動するだけの話だ。ロシアはなおも部隊を再建し、ドローン(無人機)とミサイルの攻撃をウクライナの各都市へ仕掛けてくるだろう。ウクライナの復興を妨害するべく、できることをするはずだ。

一方、民間軍事会社ワグネルの創始者エフゲニー・プリゴジン氏と配下の傭兵(ようへい)らによる反乱を受けてのプーチン氏の対応は、エリート層の多くに不信感を残した。プーチン氏が既に体制を維持する技量を失ってしまったのかどうか、当時ははっきりしなかった。それでも、続いて起きたプリゴジン氏の突然かつ疑わしい死は、誰であれプーチン氏に歯向かってはならないとの警告と映った。

経済制裁はロシアの兵器生産に相当の影響を与えているが、増産に歯止めをかけるには至っていない。ロシア経済も崩壊に直面してはいない。戦死者を出しながらも、ロシア国民に自ら戦闘へ志願するのを思いとどまる気配はなく、軍の参謀本部は予備役を追加で動員する計画がないことを明らかにしている。

どんな戦争も永遠には続かない。しかし平和は依然として、なかなか視界に入ってきそうにない。

マーク・ガレオッティ氏はコンサルティング会社マヤク・インテリジェンスの取締役で、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの名誉教授。ロシア史に関する複数の著書がある。最新の著作は「Putin’s War:from Chechnya to Ukraine(仮題『プーチンの戦争:チェチェンからウクライナまで』)」。記事の内容は同氏個人の見解です。

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