OPINION

米国はいつまで世界の武器庫を続けられるのか?

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米国は欧州、中東、東アジアでの深刻な対立に軍事支援という形で関与し続けている

米国は欧州、中東、東アジアでの深刻な対立に軍事支援という形で関与し続けている

(CNN) 単純に言えば、米国にとっては無理な話だ。せっせと2つの大規模な戦争を支援しつつ、3つ目が起きる可能性に備えることなどできはしない。それは厳しいが全くもって避けられない現実であり、ここへ来て一段と、痛々しいまでに明確なものとなりつつある。それこそ時間単位の変化として。

デービッド・アンデルマン氏/CNN
デービッド・アンデルマン氏/CNN

米国の軍需産業の基盤は、既に限界までフル稼働している。原因は現行のウクライナでの戦争で、どうやらロシアはこれを無期限で続けるつもりらしい。同国がウクライナに侵攻してもう1年8カ月だが、その前でさえ米国が超大国として能力以上の役割を負っているのではないかという疑問は浮上していた。

今はイスラエルが戦争状態だ。米国にとって近しい同盟国であり、バイデン政権は既に支援を約束している。しかもこの対立の範囲は拡大する恐れがある。イスラエルのネタニヤフ首相はパレスチナ自治区ガザ地区を封鎖し、侵攻すると脅迫。実現すれば今度はイランの反応を引き起こす恐れがある上に、その他多くの国のいずれかが関与してくる事態にもなり得る。

さらに不吉な影として浮かび上がるのが、中国による台湾掌握の可能性だ。それは何度となく表面化し、衝突の瀬戸際といった様相を呈する。

私見では、米国は上記の3つの状況全てで善の側にいる。うち2つは本格的な武力戦争だ。しかし敵対国は、米国が誤りを犯すのを見込んでいる。国の資源は無尽蔵とは程遠く、激しく対立する政治潮流が民主主義をかき乱す。それにより、3つの局面全てでの軍事的関与について、意見がほとんど一致していないことが明らかになった。米政府が引き続き、力に立ち向かう正義を助ける用意があると訴えているにもかかわらずだ。

ウクライナの反転攻勢の間、冬が近づくにつれそれも終わりを迎えつつあるが、同軍の銃器は1日当たり6000発余りの弾丸を発射した。希望は1万発だったが、それでもロシア側がウクライナ軍の陣地や都市、町に撃ち込んでいる同6万発には遠く及ばない。昨年7月、今年の反転攻勢実施前の時点でさえ、米国はロシアの侵攻以降約200万発の弾丸を供与したと明らかにしていた。

バイデン政権は米国の砲弾生産を増強した。特に基準となる155ミリ弾を増やした。戦前は月1万4000発の水準だったが、現在は同2万4000発に増加。すぐに同2万8000発まで引き上げる計画もある。しかしこれらの砲弾のうち何発がウクライナ向けに割り当てられるのかは分からない。米政府の当局者も明言していない。

米国はまた、一段と達成が困難な任務にも直面している。巡航ミサイルや高度な火器、ドローン(無人機)に使用するハイテク部品の調達がそれだ。ディフェンスニュースの調べによれば、放射線耐性を持つコンデンサーや半導体チップの価格はここへ来て4倍、リチウム部品の価格は5倍に上がっているという。

一方、これまでのところ公の場でイスラエル向けの武器の輸送拡大を巡る議論は起きていないが、バイデン政権は既に議会に対してそうした要請がそれほど的外れなものではないかもしれないとする合図を送っている。最も新しいイスラエルとの10年間の基本合意書では、2018年から28年までで380億ドル(現在のレートで約5兆7000億円)規模の軍事援助を約束する。イスラエルは既に最新鋭のステルス戦闘機F35を50機購入。米国以外で実戦に投入した最初の国となった。23年については、連邦議会が約5億2000万ドル規模の二国間による共同防衛プログラムを承認している。そのほとんどはミサイル防衛に関する内容となっている。

しかし大半の独立した観測筋の見方では、ハマスのミサイル攻撃のペースから、イスラエルは防空ミサイルシステム「アイアンドーム」のための弾薬を直ちに補給しなくてはならなくなる。

見極めが難しいのは当然ながらイスラエルのガザ封鎖、もしくは陸と海からのあからさまな領土侵犯が、イランの参戦につながりかねないのかどうかだ。イラン政府の関与は間接的で、兵器の供給やその他の軍事支援を通じたものかもしれない。そこで問われるのは、イスラエルのイランに対する報復は果たしてどのような形を取るのかという点になる。

さらには台湾問題がある。現在のところ活発な軍事対立が起きているわけではないが、衝突の脅威は一段と間近に迫っているように思える。米軍指導部にとっては変わらぬ懸念材料だ。

「中国指導部は武力の行使をまだ放棄していない。一段と(人民解放軍に)目を向け、抑圧の道具として自分たちの修正主義的目標を果たす上での裏付けとしている。台湾海峡の内と周辺で、より危険な行動を取りながら」。米国防総省のインド太平洋安全保障問題担当国防次官補、イーライ・ラトナー氏は先月、下院の軍事委員会でそう述べた。

「中国は依然として国防総省にとって、米軍の能力・態勢を規定する最上位の課題であり続けている。(中略)我々が果たす義務は台湾関係法に一致して、台湾への自衛能力の提供の他、我が国自身の抵抗能力を維持することにある。これは台湾の人々の安全保障を危うくするいかなる武力行使にも抵抗する能力を指す」(ラトナー氏)

ラトナー氏の観測によれば、政権が期待するのは「超党派の政府横断的な取り組みを通じて台湾の自衛能力を強化する」こととみられる。少なくとも自身の公的な証言では、同氏はここにいかなる値札も付けなかった。その取り組みには制限がないようだった。とはいえ、第3の潜在的紛争により国の軍事備蓄が圧迫されれば、米国の大容量の備蓄や、同国の軍産複合体をもってしても長期的に支えきれないと思われる。

最後に、極めて重要ながらほとんど触れられない問題がある。米国の弾薬の消耗は、国の自衛能力にどのような影響を及ぼすのか。

9日の背景説明で、国防総省のある高官は記者団にこう述べた。「我々はウクライナ、イスラエル両国への支援を継続できる。さらに我が国自身の地球規模での即応能力も維持できる」

しかしながらある点において、兵器供与のための資金は3地域のいずれについても改めて認可される必要が生じてくるだろう。ウクライナであれイスラエルであれ、一切の障害なく成功への道が開けているなどということはまずない。太平洋地域に関してはなおさらだ。バイデン政権は既に上下両院の指導部並びに主要な委員会のメンバーに対して、近く議会でイスラエル向けの新たな支援の承認を求めると警告している。

報道によればホワイトハウスは、ウクライナ向け支援の再承認をイスラエル向け支援パッケージに抱き合わせる案を検討しているという。後者は、より広範に超党派の支持を得られる可能性がある。ある政権当局者は、ワシントン・ポストの取材に答え、そのような手法は「極右の封じ込め」にもなるので特に魅力があると述べた。この層に含まれる議員はウクライナ支援に頑として反対する一方、イスラエルへの追加の軍事支援を強力に後押しする。

台湾への支援はそうした法案に含まれないだろうが、一般的に言って連邦議会では、米中対決の勝利に寄与しそうであればどんな施策にも広範かつ党派を超えた支持が集まることになっている。実際今年の8月にホワイトハウスは議会に対し、台湾向けの武器供与プログラムの承認を求めたが、これはウクライナ支援の補正予算に絡んだ要求の一環だった。台湾の安全保障に対する潜在的脅威もまた、ウクライナと同等の緊急性を有する問題と考えられているためだ。

今月10日、米国のジュリアン・スミス北大西洋条約機構(NATO)大使は、米国のイスラエル支援が「ウクライナ支援継続の約束」に影響を及ぼすことはないと主張した。だが間違いなく、ロシアと中国は傍観者の立場から、こうした物資供給のあらゆる問題がどのように展開するかを見守っている。

米政府が致命的に必要な支援をウクライナとイスラエルに行うところへは何も割って入るべきではないし、米政府の台湾支持にはどんな曖昧(あいまい)さも存在しない方がいい。米国とその最も近しい同盟国が明確にしなくてはならないのは、必要とされる物資を何でも供給して、当該の3地域全ての民主主義を強化するということだ。それらの地域は実際の、もしくは潜在的な紛争の舞台になっている。そこを支援するのが、米国の目指すべき理想というものだろう。

しかしある時点においては、計算が必要になる瞬間が訪れるかもしれない。時間とともに、米国が支援し続ける国々は、厄介な選択を迫られる可能性があるということだ。今は彼らにとっても我々にとっても想像のつかない判断に思われるが、最後には避けて通れない問題だということが分かるだろう。

ウクライナは最終的に、クリミア半島を失うという展望に直面せざるを得なくなるのか? イスラエルはわずかばかりの譲歩によって、パレスチナ人に対し恒久的な紛争に代わる選択肢があると明示しなくてはならなくなるのか? 米国が常に助けに現れて、軍事兵器の供給により苦しむ民主主義陣営を力づけるという幻想は心地よいものかもしれないが、それもまたいつの日か、厳しい現実にぶつかる可能性がある。

恐らく、引き続き民主主義世界の武器庫と目されるよりも、米国は最終的にもっと優れた、機転の利くパートナーになって各国に力を貸す必要があるのではないだろうか。そのような友好国がそれぞれの道を見つけ、より永続的で持続可能な平和へと歩んでいくために。

デービッド・A・アンデルマン氏はCNNへの寄稿者で、優れたジャーナリストを表彰する「デッドライン・クラブ・アワード」を2度受賞した。外交戦略を扱った書籍「A Red Line in the Sand」の著者で、ニューヨーク・タイムズとCBSニュースの特派員として欧州とアジアで活動した経歴を持つ。記事の内容は同氏個人の見解です。

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