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オピニオン:弾劾裁判、トランプ氏の勝利に非ず

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無罪評決が下った弾劾裁判では、トランプ氏の「扇動」の実態が明らかになった/Pool/Getty Images

無罪評決が下った弾劾裁判では、トランプ氏の「扇動」の実態が明らかになった/Pool/Getty Images

(CNN) ドナルド・トランプ前米大統領が今回の弾劾(だんがい)裁判で有罪を免れるであろうことに疑いの余地は全くなかった。「陪審員たち」は結局のところ政治家だ。共和党と民主党系がともに50議席ずつを確保する上院において、憲法が定める有罪評決に必要な67の賛成票を集めることは絶対に不可能だった。ここまで激しく政治の二極化が進んだ時代では到底無理な話だ。

しかし、たとえ最終章の中身が初めからわかっていたとしても、トランプ氏の厚顔無恥な行動の顛末(てんまつ)が語られるのは極めて重要だった。

話は数カ月かけて練られた扇動に関わるもので、その場限りの出来事ではない。トランプ氏がいかに冷酷で、人命に関心がないかを明らかにする内容だ。同氏は1月6日、連邦議会議事堂にいた多くの人の命を危険にさらした。驚愕(きょうがく)すべきことに、その中には、同氏に忠実なマイク・ペンス副大統領(当時)も含まれる。

この話に登場する大統領は、何が何でも権力にしがみつこうとする。武器となるのは支持者たちで、大統領により過激化した彼らは、選挙が自分たちの手から盗まれようとしていると確信した。そしてそれを阻止することこそが、自分たち愛国者にとっての義務だと思い込んだ。

大統領は支持者たちを首都ワシントンに呼び寄せた。その日は連邦議会が招集され、彼の敗北を公式に承認する予定だった。彼は支持者をあおった。このままでは自分たちの国を失うと訴え、勇ましい言葉を彼らに浴びせかけて、ホワイトハウスから議事堂へとつながるペンシルベニア通りへと送り出した。「票の盗みを阻止する」ために。

それから大統領は、自ら解き放った恐怖の広がる様をテレビで眺めた。暴徒を制止するよう求める声に耳を貸さず、人数で圧倒される議会警察への増強の懇願もはねつける。この事件の結果7人が死亡したが、そこには警官3人とトランプ氏の支持者1人が含まれる。

要するにこれは、合衆国の最高権力者が自らの宣誓を無視し、策略によって民主主義制度の最も基礎となる自由で公正な選挙への攻撃を図ったという話にほかならない。

下院と同様、一握りの共和党上院議員は勇気をもって党派よりも国を優先。前大統領に責任を取らせるための票を投じた。しっかりと状況を把握したうえでそうしたのだ。彼らはリズ・チェイニー下院議員(ワイオミング州選出)や他の9人の共和党下院議員に何が起きたかを見ている。下院で弾劾への賛成票を投じたこの10人と同様、彼らも来年の中間選挙で対立候補を擁立されるリスクに直面する。最低でも、心労の絶えない立場に置かれるだろう。

その他の共和党議員が党に歩調を合わせたのは予想通りだ。彼らは陰うつな敗者となった大統領がまさに1月6日と同様に目を光らせ、名前を書き留めているのを知っていた。大統領は大胆にも党と異なる動きをした人物に対して、今なお自分に忠誠を誓う支持基盤の怒りを解き放つ準備を整えているのだ。

トランプ氏の弁護団は裁判の序盤をおぼつかない様子だったが、最終弁論ではトランプ氏本人を彷彿(ほうふつ)させる主張を展開。あからさまなうそや党派に基づく攻撃、言い逃れを駆使して、同氏の行動は「全くもって適切だった」と結論付けた。

それはとんでもないごった煮の議論で、力強い言葉を支持基盤に向けて投げかけたかと思うと、規則や手続きの問題に関しては聞く人をけむに巻くような内容が語られた。彼らはすでに退任した大統領を弾劾することの合憲性に疑問を呈し、聴衆をあおるのは合衆国憲法修正第1条(表現の自由)で認められるトランプ氏の権利だと主張した。ありとあらゆる点に言及したものの、トランプ氏の行動の具体的な弁護にはなっていなかった。

大半の共和党上院議員にとっては、それでも十分すぎるほどの内容だった。中には、裁判が始まるずっと前から自身の立場を明確にした議員もいた。

しかし、今回の結果はトランプ氏の勝利とは程遠い。

制裁を免れたとはいえ、弾劾裁判はより持続的な罰則を同氏に科した。その行いが世界に暴露され、臆病な態度で国家への反乱を画策し、連邦議会議事堂を混乱に陥れた事実は歴史に刻まれた。

心を奪われるような数日間で下院の弾劾管理人(検察官に相当)が光を当てたのは、トランプ氏が事件で果たした中心的な役割だった。1月6日の悲劇的な事件は、同氏自身が数カ月にわたり発してきた扇動的な言葉によるところが非常に大きかった。当日の演説だけが問題だったわけではないのだ。皮肉にもトランプ氏は、ツイッターや動画といった、自ら好んで使用していたツールに裏切られている。

トランプ氏はまた、2度弾劾された唯一の大統領として歴史にその名を残す。どちらの事例も悪辣(あくらつ)な陰謀をめぐるものだ。最初の弾劾は2019年、ウクライナの大統領に対して捜査の開始を求め、ジョー・バイデン氏を中傷しようとしたことに関してだった。敵対する民主党の有力者として、トランプ氏がバイデン氏を恐れたのは当然だった。2度目は数カ月に及ぶたくらみにより、大統領選でのバイデン氏の勝利を不正に覆そうとするものだった。ここでは目に余るほどの虚偽の主張で選挙の正当性を攻撃。1月6日の暴動を引き起こすに至った。

今月13日に弾劾裁判の有罪を回避したことで、トランプ氏は将来公職に就く資格を正式に剥奪(はくだつ)される事態も免れた。だが裁判で明らかになった顛末は迫力に満ち、説得力のあるものだった。今後同氏については、公職に不適格とみなす米国民が大半になるだろう。

今のところは、大目に見てもらえた。しかしこの裁判で確実になったように、ドナルド・トランプ氏が歴史の審判から逃れることは決してないのである。

デービッド・アクセルロッド氏はCNNの政治担当シニアコメンテーターで、「The Axe Files」の番組司会者。オバマ政権時代の大統領顧問であり、2008年と12年の大統領選ではオバマ陣営のチーフストラテジストを務めた。記事の内容は同氏個人の見解です。

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