「日本回帰」から1年半。 半導体市場で米中での実績をベースに、日本・アジアでさらなる成長をめざす フェローテックホールディングスの戦略とは?

世界中でEVへの関心が高まる中、EVの電子機器をコントロールするのに欠かせない半導体に関する関心が高まっている。半導体に関して日本では国として重点投資領域としており、世界トップクラスの半導体メーカーであるTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)が2024年に熊本工場を稼働させることも大きな話題となっている。半導体関連製品を手掛けるフェローテックホールディングスは、世界市場で急成長を遂げてきたが、現在は「日本回帰」を掲げ熊本をはじめとして国内拠点や製造工場の整備に注力している。朝日地球会議に登壇した同社代表取締役社長の賀賢漢氏の講演から、同社の戦略、方向性を紹介する。

株式会社フェローテックホールディングス 代表取締役社長 賀賢漢氏 株式会社フェローテックホールディングス
代表取締役社長
賀賢漢氏

世界で高いシェアをもつ半導体関連製品

フェローテックホールディングスは石英・シリコン・セラミックス・CVD-SiCなどのマテリアル製品や真空シールの製造、金属加工、部品洗浄サービスといった半導体等装置関連分野と、サーモモジュールやパワー半導体基板等の電子デバイス製品分野に強みを持つ企業だ。真空シールは約65%、サーモモジュールは約35%のシェアを持ち、参入まもないパワー半導体基板は、すでに世界で2番目のシェアを獲得している。さらにEV(電気自動車)市場の拡大に対応し、パワー半導体基板、温度センサなどの部品を自動車関連企業に提供しており、車載向け製品の売上高が大きく成長している。

同社は、昨年掲げた「日本回帰」の具体的な施策として、熊本県の大津町に新しい拠点を建設する。そこはTSMCの工場が建設される場所から車で10分程度の場所で、この拠点で主にパーツクリーニングや石英の火加工・機械加工を行う。TSMCの拠点周辺にはさまざまな半導体関連企業が進出してくるとみられ、フェローテックホールディングスの新拠点もそれらの企業との協業によって、拠点立ち上げ段階から順調な成長軌道に乗ることが期待されている。

熊本生産新拠点完成予想図(石英製品、および装置部品洗浄サービス)
熊本生産新拠点完成予想図(石英製品、および装置部品洗浄サービス)

またセラミックス関連の事業を行っている石川工場を増強する。同工場で生産している「ファインセラミックス」「マシナブルセラミックス」は中長期で需要拡大が見込まれている。2022年11月に竣工した第二工場に続き、第三工場の用地も確保しており2024年中に竣工予定だ。

石川第3工場完成予想図
石川第3工場完成予想図
半導体製造装置向けファインセラミックス製品
半導体製造装置向けファインセラミックス製品

さらに岡山工場でも CVD-SiC製品関連の拡張工事を行い、ビジネスの拡大に備えている。賀氏は当面の目標として日本国内において100億円規模のビジネスを進めていきたいとしている。

岡山工場で製造するCVD-SiC製品
岡山工場で製造するCVD-SiC製品

なぜいま「日本回帰」なのか

朝日地球会議の講演の中で、賀氏は「日本回帰」の意図について次のように語った。

「日本国内には半導体関連の豊かな市場あり、当社の主力である『半導体等装置関連』と『電子デバイス関連』の製品にとってビジネスチャンスが大いに期待できる。さらに当社の日本国内の製造拠点は、世界で唯一、半導体チップを作るための全工程を有していることが大きい」

生産拠点を日本に回帰させるということは、国内でのビジネスを伸長させるだけでなく、各企業のグローバルサプライチェーンの再構築という動きに合わせる意味でも同社に大きなメリットを生み出すわけだ。米中の間で半導体を中心として大きな経済安全保障にまつわる摩擦が継続している以上、フェローテックホールディングスの「日本回帰」はまさしく新たな成長を実現するための重要な戦略だといえよう。

また同社は、事業ポートフォリオの強化策として半導体製造装置分野以外への拡大をめざしており、サーモモジュールやパワー半導体基板だけでなく、温度センサや工業用刃物などの分野にも進出している。温度センサでは大泉製作所、工業用刃物では東洋刃物をM&Aによって連結対象子会社にした。大泉製作所の温度センサは車載および空調向けに活用されているほか、サーミスタ(素子)は光通信分野などに利用されている。東洋刃物の工業用刃物は情報産業分野などで幅広く需要があり、今後市場開拓に注力していくという。

日本を中心にアジアでのネットワーク強化にも注力

非半導体製造装置分野への進出は、米中摩擦とは無関係な分野で優れた製品を生み出し、中国での生産拠点を生かしたうえで、中国市場での売り上げ確保にもつながっていくはずだ。

「国内の優れた技術を持つ企業にはM&Aなどを駆使しながら我々の仲間になっていただきたい。また11ある中国での生産拠点と中国市場も無視できない。新しい製品分野も取り込みながら、中国市場向けのビジネスを拡大していきたい」(賀氏)

また日本回帰と類似した動きとして、顧客企業が多く進出しているマレーシアにも新拠点を建設していく。ここでは石英・セラミックスの製造や金属加工、組み立て事業を進める。さらに同じくマレーシアで2つ目の拠点も竣工予定で、ここでは同地のパワー半導体需要に応えていくという。

「顧客の動きに合わせて生産拠点を新設していかなければ、競争に勝てない。海外進出は欧州・北米・日本・東南アジアを中心にこれからも積極的に進めていく。同時に販売ネットワークの強化も実施する予定だ。アジアでは日本を中心にシンガポール、マレーシア、台湾、韓国などの拠点でのネットワーク強化を行っていきたい」(賀氏)

同社は長期目標として2030年度(31年3月期)に売上高5000億円、当期純利益500億円、というものを掲げている。2023年度(24年3月期)は売上高が2200億円と予測されている。賀氏は、この長期目標を達成するには、既存の事業分野にこだわらず多様な新製品を開発し、市場に投入していくしかないとしている。当面の目標は2024年度(25年3月期)で売上高2700億円だ。

同社は目標を達成するために年間で800億~1000億円の投資を実行するとしている。もちろんこの中には新規生産拠点の建設費用も含まるが、同時に人材への投資にも費やされるという。

日本・中国・マレーシアなど事業拡大を進めるエリアではブランディングを強化し、優秀な人材獲得を目指す。日本では石川、熊本地域を中心にグループの知名度向上を図り新規採用を拡大していく。

「新卒採用も定期的に行っていくことを決めている。日本での初任給も従来よりも大幅にアップさせて、優秀な人材を確保していきたい。また教育にも力を入れ、外部機関を利用して技術研修やビジネス研修を充実させ、さらに2027年ころまでに100人規模の開発センターを国内で構築したいと考えている。そうした意味で、新卒人材だけでなく経験を積んだ中途採用人材もぜひ採用していきたい」(賀氏)

グローバルで成長著しい半導体関連企業である同社にとっての「日本回帰」戦略は、単純に生産拠点を他国から日本へ移設するといったものではなく、「6年以内に売上高2.5倍増」という大目標を見据えたグローバル戦略の中にビルトインされたものであることが分かる。

トップである賀氏は、講演を次のように締めくくった。

「日本には、これから再び、世界で最も半導体分野に強い国になってもらいたいという思いがある。そのために当社が貢献できるならこれほど光栄なことはない。これからこの分野で成長を目指すすべての国内企業とともに励んでいきたい」

フェローテックホールディングス 「日本での事業拡大戦略」
~求職者の皆様へ~(2分47秒)

フェローテックホールディングス
IR事業紹介動画 2023(13分48秒)

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