ローマの中心部に立ち、イタリアの画家カラバッジョの手による世界で唯一の天井画を持つ荘厳な邸宅が、来年1月にオークションにかけられる。開始時の価格は4億7100万ユーロ(約624億円)。ローマの裁判所がこのほど確認した。
施設の大半は19世紀に破壊されたが、当該の邸宅、ヴィッラ・アウローラは、より大規模なヴィッラ・ルドヴィージのうち唯一残った部分だ。16世紀にさかのぼるその建物は「世界で感嘆すべきものの一つ」とみなされていたと、美術史家のクラウディオ・ストリナーティ氏が伊紙レプブリカの今月22日付のコラムで書いている。
フェデリコ・フェリーニ監督の映画「甘い生活」で印象に残るヴェネト通りから目と鼻の先にあるヴィッラ・アウローラは、両側を庭と複数の車両スペースに挟まれている。司法省が公開した販売用文書によれば、広さは2800平方メートル。
建物の中には無数の美術品が収蔵されている。その一つがミケランジェロ・メリージ・ダ・カラバッジョの手掛けた油彩の壁画だ。単にカラバッジョと呼ぶ方が通りの良いこの画家の一連の作品は、むき出しの暴力描写がその代名詞となっている。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラバッジョの肖像画/Heritage Images/Hulton Fine Art Collection/Getty Images
作品は広さ2.75平方メートルの小部屋の天井画で、ジュピター、ネプチューン、プルートの3体の神々が半透明の球体の周りに集まる様子を描いている。
フランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿からの1597年の依頼を受けて制作された。裁判所が委託し、司法省が発表した専門家の見解によると、同枢機卿はこの部屋を錬金術の実験室として使用していたという。
作品の価値は推計で3億1000万ユーロを超える。ローマ・ラ・サピエンツァ大学で現代美術史を専攻するアレッサンドロ・ズッカーリ教授が明らかにした。
裁判所から邸宅内の美術品の査定を行うよう求められていたズッカーリ氏は、カラバッジョの天井画について、「値段はつけられない。近現代で最も偉大な画家の一人による壁画だ」と結論した。
邸宅にはバロック画家のグエルチーノことジョヴァンニ・フランチェスコ・バルビエーリのフレスコ画もある。グエルチーノは1621年から23年にかけて、この邸宅で制作していた。作品の中にあるローマ神話の暁の女神、アウローラのフレスコ画は、教皇グレゴリウス15世の甥、アレッサンドロ・ルドヴィージのために描かれた。
グエルチーノことジョヴァンニ・フランチェスコ・バルビエーリが描いたローマ神話の暁の女神、アウローラ/DeAgostini/Getty Images
ヴィッラ・アウローラを所有するボンコンパーニ・ルドヴィージ家は教皇グレゴリウス15世の子孫に当たるが、今回邸宅をオークションに出す背景となった法的理由の詳細は明かされていない。
ただ邸宅の維持管理は高くつきそうだ。落札者が誰であれ、修理費の1100万ユーロを負担することが購入の条件の一つになっている。
芸術の拠点として保護されているため、邸宅の第一先買権はイタリア国家が保有することになる。
競売はオークション運営会社のファルコ・ズッケッティが手掛ける。