(CNN) ベルギーのアントワープは世界のダイヤモンド取引の中心地として知られる一方、原石のほとんどはロシアやアフリカで採掘されている。だが、インドのムンバイから北に240キロほど行ったところにあるスーラトが宝石の都であることはあまり知られていない。地球上に流通するダイヤモンドの約90%はスーラトで加工されているのだ。
この巨大産業を収容できる前代未聞の建物が、グジャラート州スーラトに建設された。
新設されたスーラト・ダイヤモンド取引所は、カット職人、研磨職人、取引業者など、6万5000人以上のダイヤモンドの専門家らにとって「1カ所ですべてがそろう場所」とうたわれている。建物は広大な15階建ての複合施設で、中央に建つ「背骨」から九つの長方形の構造物が飛び出し、それらは中央の建物を介して相互に接続されている。土地面積は約14万平方メートル。
取引所を手掛けた設計者によると、床面積は約66万平方メートルで、ペンタゴン(米国防総省)を抜いて世界最大規模のオフィスビルとなる。
このプロジェクトは4年前に着工。そのうち2件の工事は新型コロナウイルスの影響で遅れ、今年11月に最初の入居企業を迎えることになっている。今年後半には、グジャラート州出身で同州の州首相も務めたインドのモディ首相によって正式に開業する予定だ。
CNNが独占入手した新しい写真からは、大理石の床のほか、4700以上のオフィススペースをつなぐ光あふれるアトリウムが垣間見える。オフィススペースは、ダイヤモンドのカットや研磨を行う小さな作業所としても利用可能だ。320億ルピー(約540億円)の開発費を投じた取引所には、エレベーター131台のほか、従業員向けの飲食店、小売店、ウェルネス施設、会議室も併設されている。
このプロジェクトの最高経営責任者(CEO)を務めるマヘーシュ・ガダビ氏によると、スーラト・ダイヤモンド取引所の新設によって、何千人もの人々が、時には毎日、ムンバイに列車で通勤する手間から解放されるという。
中庭は自然換気するよう設計されている/Edmund Sumner
「中には自宅とオフィスの往復に毎日3時間半から4時間を費やす人もいて、大変だ」とガダビ氏はビデオ通話の中で指摘。企業をスーラトに移転させることは「より良い選択肢」だと述べている。
「民主的」な設計
この建物は国際的な設計コンペを経て、インドの建築事務所モルフォジェネシスによって設計された。ガダビ氏はCNNに対し、建物の規模がペンタゴンを超えることはコンペの概要には含まれていなかったと説明。むしろ、プロジェクトの規模は需要によって決定され、またオフィス部分はすべて着工前にダイヤモンド関連企業によって購入されたという。
モルフォジェネシスは、建物のレイアウトは大小どちらの企業にとっても「公平な競争条件」を生み出すものだと述べている。オフィスは長い中央廊下で結ばれ、空港のターミナルを彷彿(ほうふつ)とさせる構成だ。どの入居企業も一様にアメニティーや設備へのアクセスが便利なため、同建築事務所の共同設立者、ソナリ・ラストギ氏は、この設計を「民主的」だと表現した。
スーラト・ダイヤモンド取引所の内部の様子/Edmund Sumner
同氏はニューデリーからのビデオ通話で、この建物がここで働く「誰にとっても平等」であるよう意図して設計されたと説明。どのオフィスも建物の入口からたどり着くまでに7分以上かかることはないと言い添えた。(ガダビ氏によれば、どのオフィスにどの企業が入居するかは抽選で決定するという)
また設計は、インドでダイヤモンド取引がどのように行われているかについてモルフォジェネシスが行った調査にも基づいている。ラストギ氏は、約6070平方メートルの九つの中庭に注目し、取引業者が気軽に集まれる場所となるよう椅子と噴水を設置した。同氏はまた、この景観を「伝統的なバザール」になぞらえ、多くの非公式な取引がオフィスの外で行われているという実態に影響を受けたと語った。
「電子メールでの注文は屋内で行われると思うが、対面での取引のほとんどは屋外で行われる」とラストギ氏。中庭については、「こうしたすべての活動が行われると想定される公園のようなものだ」と説明した。
フレア形状は建物全体に卓越風を通すように設計されている/Edmund Sumner
変革に向けた計画
スーラト・ダイヤモンド取引所の航空写真を見ると、この巨大な建物の周辺は今のところ驚くほど低層であることがうかがえる。だが、人口700万人都市の大規模な再開発計画「ドリーム・シティー」が実現すれば、状況は一変するかもしれない。
モディ首相が公に称賛しているこの壮大な計画は、スーラト南部のおよそ700ヘクタールの土地に「スマート」な都市を建設することを目指している。ガダビ氏は、ダイヤモンド取引所がこの地域の「核テナント」の役割を果たすと述べた。一方ラストギ氏は、モルフォジェネシスがコンベンションセンターを含む、同地域での他のプロジェクトについて潜在顧客と交渉中であることを明らかにした。
ラストギ氏は、スーラトには「独自の際立った建築言語」がないことを認めた一方で、持続可能な設計が夏の気温が43度を超えることもあるスーラトの今後の発展を形作ることに期待を示した。
モルフォジェネシスは、取引所の設計はインドグリーンビルディング評議会(IGBC)から「プラチナ」評価を獲得するために許可される最大エネルギー消費量よりも50%も少ないと主張している。建築家らによると、中央背骨のフレア形状は、建物全体に卓越風を通すように設計されており、「放射冷却」は床下に冷水を循環させて室内温度を下げるという。
建設工事は4月に完了した/Edmund Sumner
個々のオフィスは従来の空調に頼ることになるが、ラストギ氏は、建物の約半分は自然換気によって冷却され、共有エリアは太陽エネルギーを利用して電力が供給されると推定している。
「我々は象徴的であり、土地のコンテクスト(文脈)と我々が(共に)取り組んでいるコミュニティーから拝借したものを建てようとした」とラストギ氏。そしてこの建設プロジェクトが「特定の建築言語を超えた、環境と持続可能な設計に基づいたものである」と付け加えた。