(CNN) 今月3日に台湾を襲ったマグニチュード(M)7.4の大地震では、少なくとも9人の死者が出た。台湾の内政部消防署(消防庁)の発表によれば、770棟の建物にも被害が生じたという。
台湾で起きた地震としては過去25年で最大規模となった今回の地震は、震源地から約130キロの距離に位置する首都台北でも建物が激しく揺れた。だが、現代工学の偉業によって、かつて世界一の超高層ビルであった「台北101」は無傷だった。
地震の映像では、高さおよそ508メートルの台北101がわずかに揺れ動いているように見えるが、これは地震の強力な動きに対抗するため、建物の構造に柔軟性があるためだ。建物が揺れ動くということは、台北101の地震に対する最も重要な防御策が、建材の鉄筋コンクリートそのものであることを見事に示している。
コンクリートの圧縮強度とスチールの引張強度を組み合わせた素材は、建物が揺れ動くのに十分な柔軟性を持ちながら、台湾を頻繁に襲う強風や台風に耐えるのに十分な剛性も備えている。(建物は地震に抵抗するのではなく、地震とともに動くことで地震力に耐えられるという原理が、日本の仏塔から中国の宮殿に至るまで、地震の多い東アジア諸国の伝統建築を何百年にもわたり支えてきた)
だが建物の上部では、別の技術革新が101階建てのこの超高層ビルを守っている。これは「同調質量ダンパー(TMD)」と呼ばれる非常に大きな球体のような装置である。
「台北101」内部に太いケーブルでつり下げられた重さ660トンの金色の鋼球「同調質量ダンパー(TMD)」/Richard Chung TW/Reuters/File via CNN Newsource
巨大なカウンターウェート
建物の92階から87階部分にかけて太いケーブルでつり下げられた金色の鋼球は、全方向に約1.5メートル動くことができるため、揺れを打ち消す(または「減衰させる」)振り子のような機能を果たすという。
「本質的には非常に大きなカウンターウェート(バランスを取るためのおもり)である」と「Supertall: How the World‘s Tallest Buildings Are Reshaping Our Cities and Our Lives」の著者ステファン・アル氏は電話インタビューで説明した。「台北101の場合、重さは660トン。とてつもなく重そうに思えるが、建物全体の重量と比べればほんのわずかだ」
「建物が揺れ始めると、(TMDは)反対方向に動く。台北101のダンパーはつり下げられている。そのため建物が揺れると、遅れて逆方向に動くことで運動エネルギーを吸収する」。TMDと建物の間にある油圧シリンダーがこのエネルギーを熱に変換し、分散させるとアル氏は説明した。
TMDは、ニューヨークの「極細」超高層ビルのスタインウェイ・タワーや、帆の形状をしたドバイのブルジュ・アル・アラブ(TMDを11基設置)などをはじめとする世界中の超高層ビルで使用されている。この装置は、地震発生時に構造破壊を引き起こす可能性がある「調和振動」による激しい動きから建物を守るのに極めて重要な役割を果たすとアル氏は述べた。
同氏はまた、この現象を音叉(おんさ)に例えて、「(それは)建物が独自に共振して振動し始めるときだ」と語った。「(建物の)揺れがますます速くなるにつれ、倒壊につながる可能性がある」
TMDは高調波吸収体とも呼ばれ、建物と同じ周波数で共振するように「調整」されているが、波長の遅速にかかわらず、潜在的に壊滅的なエネルギーを分散させることができる。
またTMDがもたらす安定性によって、強風時に建物が揺れることで内部にいる人たちに与える不快感や吐き気を催すような影響も軽減されるという。
構造を支えるもの
台湾の建築事務所C.Y.Lee&パートナーズが設計を手掛けた台北101は、2004年から07年まで世界一高いビルだったが、その後ドバイのブルジュ・ハリファに抜かれた。その画期的なTMDを見下ろす展望台は、特に強風時にはダンパーが揺れ動くため、今では人気の観光スポットになっている。
だがこの巨大な球体だけが、大断層の近くに立つ台北101の安定化を担う唯一の設計上の特徴ではない。
建物は非常に深い基礎、つまり地下の岩盤に打ち込まれた380本の鉄筋コンクリートとスチールの杭の上に建っている。その上には建物の中心部が、巨大な鋼製のアウトリガートラス構造を介して、外周に配置された一連の「メガコラム」に接続されている。
また台北101は、太平洋の周辺をぐるりと囲み、インドネシアからチリにかけて大規模な地震と火山活動を引き起こす「環太平洋火山帯」沿いに位置する島ならではの厳格な耐震建築基準に準拠している。
だが設計を行う際には、大規模なデジタルモデリングと「振動台」テスト(地震の動きを再現する装置で模型をテストする)も行われたが、台北101のような建物がより強力な地震、あるいは震源地がより近い地震にどのように反応するかは、ある程度、理論的なものにとどまっているという。
アル氏は「コンピューターシミュレーションがあっても、デジタルシミュレーションから実際には得られない物理的なものはまだある」と述べたうえで、「技術の進歩にもかかわらず、依然として風洞や振動台で(設計を)テストしているのが現状だ」と話している。