米ポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルの代表作として知られるマリリン・モンローの肖像画がオークションにかけられ、20世紀の芸術作品として最も高額で落札された。
約1メートル四方の「ショット・セージブルー・マリリン」は、ウォーホルが1960年代にモンローを描いた数十点の肖像の一つ。9日夜、米ニューヨークで開催されたクリスティーズのオークションでの落札額は記録的な1億9500万ドル(約253億円)だった。
競売に先駆け、クリスティーズは「ショット・セージブルー・マリリン」を「現存する最も希少かつ卓越した肖像の一つ」と説明。同作はニューヨークのグッゲンハイム美術館や仏パリのポンピドゥー・センター、英ロンドンのテート・モダンといったギャラリーで展示されたこともある。
クリスティーズは当初、予想落札価格について2億ドル「の近辺」と見込んでいた。
米ニューヨークの工房で写真に収まるアンディ・ウォーホル=1968年撮影/Jack Mitchell/Archive Photos/Getty Images
ウォーホルが色鮮やかに生まれ変わらせたモンローの肖像写真は、元々1953年の主演映画「ナイアガラ」のために撮られた宣伝用写真だった。現在はキャンベルのスープ缶の絵と並び、ウォーホルの代名詞的作品の一つとなっている。
制作に用いられているのはシルクスクリーンと呼ばれる技法で、目の細かいメッシュを型紙のように使い、紙や生地の上に図像を複製するというもの。ウォーホルはモンローの死後間もない62年にこれらの作品を作り始めた。エルビス・プレスリーや毛沢東といった他の著名人をモデルにした作品と同様、モンローの肖像にも数多くのバージョンがあり、配色と構成がそれぞれ異なっている。
このうち最も有名な部類に入る「マリリン二連画」は、現在テートが所有する。この中でウォーホルは、2枚のキャンバスに計50のモンローの肖像を描いている。このほか、ニューヨーク近代美術館(MoMA)にある「黄金のマリリンモンロー」は、金地にモンローの肖像1枚をプリント。一方、「狙撃されたマリリン」は、スターの肖像の頭が弾丸で撃ち抜かれている。
64年、ウォーホルは「より洗練された、時間のかかる」新たな制作工程を開発。クリスティーズによるとそれは「ウォーホルの代名詞である作品を大量に生み出す」やり方とは正反対のものだった。その年、ウォーホルはそうした工程を駆使して限られた数の肖像画を制作した。そんな珍しい作品群の一つが「ショット・セージブルー・マリリン」だったが、当該の技法自体はその後用いられなくなった。
「ショット・セージブルー・マリリン」/Christie's
個人販売で2億ドルを超える値が付いたと思われる絵画はいくつかあるが(抽象表現主義の画家、ウィレム・デ・クーニングやジャクソン・ポロックの作品など)、オークションでそれが実現したのはたった1度しかない。イタリアの巨匠レオナルド・ダビンチの名画「サルバトール・ムンディ」が2017年に、4億5000万ドル超で落札されたときだ。20世紀の絵画でこれまでの最高落札価格は、15年に1億7940万ドルの値が付いたパブロ・ピカソの「アルジェの女たち(バージョンO)」だった。
ウォーホル作品で従来の最高額が付いていたのは、「銀色の車の事故(二重の災禍)」だった。自動車事故の後の残骸を描いた同作は、ほぼ10年前に1億500万ドルで落札されている。別のモンローの肖像のいくつかも、近年オークションで高値を呼んだ。1962年作の「ホワイト・マリリン」は2014年、ニューヨークでのオークションで4100万ドルで落札された。
「ショット・セージブルー・マリリン」は一連の著名な画商やコレクターが所有した後、スイスの美術商だった故トーマス・アマン氏が購入。今回オークションに出品したのは、同氏(とその姉)の名で設立された慈善団体だった。プレスリリースによると、オークションの収益は世界の子どもを対象にした健康・教育プログラムの資金に充てられる。
オークションに先駆けて出された声明の中で、クリスティーズの20、21世紀美術を統括するアレックス・ロッター氏は、本作品を「米国ポップアートの絶対的頂点」、「最も重要な20世紀の絵画作品でオークションに出るのは世代に一度」と形容した。
「ボッティチェリの『ビーナスの誕生』、ダビンチの『モナリザ』、ピカソの『アビニョンの娘たち』と並び立ち、ウォーホルの『マリリン』は紛れもなく史上最も偉大な絵画の一つだ」(ロッター氏)
当該の作品は、9日夜のオークションにアマン氏のコレクションから出品されたウォーホル作品4点の1点。他にはウォーホルの有名なシルクスクリーン絵画「フラワーズ」の1つが1580万ドルで落札された。またジャンミシェル・バスキアと共同で制作した「GE/スカル」には460万ドル以上の値が付いた。立体作品の「ハインツ・トマトケチャップ・ボックス」は47万8000ドル超で落札された。
別の作家ではロバート・ライマン、アルベルト・ジャコメッティ、ルシアン・フロイドの作品も出品された。最も高値が付いた2作品は、米国の芸術家サイ・トゥオンブリーの絵画で「Untitled」と「Venere Sopra Gaeta」がそれぞれ2100万ドルと約1700万ドルで落札された。