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「西洋化が答えではない」 神話からヨルバ文化を探るアーティスト、アシコ

交易と富の神「アジェ」から着想を得たこの作品は、ラゴスの市場が舞台

交易と富の神「アジェ」から着想を得たこの作品は、ラゴスの市場が舞台/Àsìkò

受け継いだ伝統文化の良さを認識し、そこからより良い未来を想像する。独学で学んだ写真家兼ビジュアルアーティスト、アデ・オケラリンはそれを目標のひとつにしている。

アーティスト名は「アシコ」――生まれ故郷ナイジェリアで話されている言語のひとつ、ヨルバ語で「時」「瞬間」を意味する。伝統的なヨルバ人の文化の要素を取り入れることは、これまでのアシコの創作活動で重要な点だった。先ごろ発表された2つのシリーズ作品「Guardians(仮訳:守護者たち)」「Of Myth and Legend(仮訳:神話と伝説から)」でも、「オリシャ」と呼ばれるヨルバ人の神々の像を深く掘り下げている。

ヨルバの歴史では、オリシャは超人的な力を持つ聖なる存在だった。オリシャ信仰は奴隷やその子孫によってカリブ海や南米など世界各地に伝承され、西アフリカ以外でも息づいている。だが、オケラリンが育った1980~90年代のナイジェリアはその土地由来の信仰に関する教育は一般的ではなかった。オケラリンにとってアーティストとしての旅とは、これまで培ってき知識を解体することだったという。

「作品は探検であり、学校で教わらなかったこと理解すること」だとオケラリンは言う。「受け継いだ伝統を理解するスペースを作ること、レガシーを使って何かを生み出すことだ」

オケラリンのポートレート作品やオリシャ像は、伝統的な写真に人工知能(AI)やデジタル編集技術、コラージュを融合している。オケラリンが感じる、世界の様々な神話の間に存在するつながりを描きだしている。本人いわく、我々はみな深い部分の物語ではつながっているという。

プロジェクトのリサーチをするうちに、オケラリンはヨルバ人の神話と西欧神話に共通の要素があることに気がついた。たとえば、ヨルバ人のサンゴと北欧のトールはいずれも雷の神であり、オロクン神はギリシャ神話のポセイドンと同じく海をつかさどっている。

ヨルバ文化の海や富の女神オロクンを再解釈した作品/Àsìkò
ヨルバ文化の海や富の女神オロクンを再解釈した作品/Àsìkò

オケラリンの作品の土台は「未来を見つめるために過去を振り返ること」。アフリカ人の社会的ルーツを知り、「西洋化ではなく、文化的イデオロギーや美学の基礎から形成される」未来を描く力になりたいという。

オケラリンは95年に渡英したが、自らの文化背景を探るうちに、西欧的な見方から「別の美しい視点」を重視する見方へと変わり、受け継いだ伝統を理解しやすくなったという。

「グローバル化が進む世界では、自分らしさという感覚を維持することが重要だ。そうした感覚がより良い社会構造を形成する」とオケラリン。「西洋化は進歩への答えにならない。我々は自分自身が何者であるか、この世界が我々に何をもたらしてくれるのかという2点を合わせていく必要がある。そうしないと、自分を自分らしくしているものを見失ってしまうだろう」。最新技術や技法を駆使してこうしたイメージを作り出し、世に発信することが「我々の物語の重要性」を示すひとつの手段だとオケラリンは続けた。

意識改革

物心ついた時からアートや写真に慣れ親しんでいたものの――ナイジェリア時代は父親が収集したアフリカ芸術に囲まれて育った――「(僕に)ひもじい思いをするアーティストになってほしくないというナイジェリアの両親の希望」もあり、オケラリンは化学を専攻し、製薬業界でデータアーキテクトとして勤務した。だが次第に心持ちが変わっていき、2015年には写真に全力投入していた。

地域や社会を左右する社会政治的問題への関心を高めること、それがアーティストとしてのもうひとつの役割だとオケラリンは言う。本人いわく、英国で暮らすヨルバ人としての生い立ちや文化、経験は作品にも脈々と流れているそうだ。作品が扱うテーマは、女性器切除や男らしさ、神秘主義、アイデンティティー、人種と多岐にわたる。

他のプロジェクト同様、20年に発表したシリーズ「She is Adorned(仮訳:着飾る彼女)」の神話的イメージではレイヤリングの考え方を取り入れて、文字通りアフリカのビーズやジュエリーでモデルを幾重にも装飾している。またデジタル処理も駆使して、生地や織物といった伝統文化の要素を写真に重ねている。様々な手法の融合――従来の写真とAIの融合――は、「想像力の力強い可能性を広げた」。

作品「She is Embraced by the Sun(仮訳:太陽に受け入れられた女性)」
/Àsìkò
作品「She is Embraced by the Sun(仮訳:太陽に受け入れられた女性)」 /Àsìkò

そうした新たな可能性の一部は絵画や彫刻作品になって表れている。22年には、大西洋を横断して行われた奴隷貿易の歴史を振り返る英国のアートプロジェクト「World Re-imagined」のために地球儀型のアート作品を制作。英国各地に100以上の地球儀が設置された。

英国、ナイジェリア、米国でも作品が展示されている他、最近ではNFT(非代替性トークン)ファインアート作品を専門とする写真ギャラリー「ブリッジ・ギャラリー」と共同で、自身初のNFT作品も発表した。

過去に目を向けつつ、つねに進化を続ける作品で、オケラリンは今後も実験的な試みや成長を可能にする創作活動に打ち込んでいくと語る。

「歳を重ねるとともに、自分のルーツとなる文化の美しさと奥深さを発見してきた」と本人。「故郷から離れて暮らしていると、自分の伝統文化がかつてないほどアイデンティティーや自分らしさの大きな要素となっている。それが力を与えてくれる」

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