ロンドン(CNN) 正体不明のストリートアーティスト、バンクシーによる新たな芸術作品を盗んだ疑いで先週末、男2人が英ロンドンで逮捕された。作品は画像がネット上に公開されたその日に盗まれていた。
作品の内容は、サウスロンドンのペッカムにある交通標識にドローン(無人機)3機を描いたもの。バンクシー本人が新作であることを確認していた。バンクシーの作品には過去のオークションで2300万ドル(現在のレートで約33億円)以上の値が付いたこともある。今回の作品については、一連の画像を現地時間の22日正午前後にインスタグラムへ投稿していた。
しかし複数の目撃者が英PA通信に伝えたところによると、2人の男が「一時停止」の標識ごと現場の交差点から作品を持ち去った。作品は午後0時半前後には見られる状態にあったが、ボルトカッターによって撤去されたという。
男2人は、23日と24日にそれぞれ逮捕された。ロンドン警視庁はCNNの取材に声明で回答し、両者とも「窃盗罪と器物損壊罪」が逮捕容疑だとした。1人は現在も拘束中だが、もう1人は保釈されたという。
目撃者がPA通信に説明したところによれば、当時容疑者は標識によじ登り、作品に手をかけた。自分たちはそれを驚いて眺めていたという。この目撃者はバンクシーの投稿をソーシャルメディアで知り、作品を見ようと現場を訪れていた。「皆で男に『何をやっているんだ?』と問いただしたが、実際のところどうしたらいいか誰にも分からなかった。ただ事態を見守っているしかなかった。全員が少し戸惑っていた」
標識を持ち去る男/Aaron Chown/AP
「彼は標識を外し、道路を渡って逃げて行った。何も言わず、作品そのものにもあまり注意を払っていないようだった」と、目撃者は付け加えた。
窃盗が疑われるこれらの行為については現在も捜査中だと、ロンドン警視庁はCNNに説明。この事件や標識の所在に関して詳しい情報があれば警察に連絡するよう呼びかけた。標識自体はバンクシーの手が入っていないものがその後設置されたと、警察は付け加えた。
PA通信が報じたところによると、バンクシー本人は作品の撤去に関与していないと思われる。
謎多き芸術家のバンクシーは、自身の作品をソーシャルメディア上で確認するものの、それ以上は一切のコメントを残さないことで知られる。
今回の最新作については、イスラエルとイスラム組織ハマスによる紛争の停戦を呼びかけたものと解釈する人もいる。バンクシーはパレスチナ人の掲げる大義を支持していることでも知られるからだ。
バンクシーがベツレヘムに所有するホテルは、イスラエルが設置した「分離壁」から数歩の距離に位置する。この壁はイスラエル占領下のパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区を貫く形で立っている。
バンクシーは2017年に当該の「ウォールド・オフ・ホテル」を開業した。イスラエルとパレスチナの紛争に注意を向ける狙いで建設されたこのホテルには、「世界最悪の眺め」を誇るとの売り文句が付いている。
バンクシー作品の市場価値は近年うなぎ上りだが、本人は依然公共の場での制作を続ける。そのため作品の保護は不可能に近く、窃盗や汚損も誘発することになる。
バンクシーが描いた最も有名な壁画の一つ「スパイ・ブース」は、録音機材を持ったスパイ風の男3人が公衆電話を取り囲む姿を描いたものだが、16年に破壊された。
また今年2月、廃棄された本物の冷蔵庫を部分的に組み合わせた壁画がイングランド南東端の町マーゲイトに現れたが、バンクシーが自らの作品だと確認したところものの数時間でこの冷蔵庫は持ち去られてしまった。
18年には、バンクシー本人が自身の作品の1つを破壊したことが話題を集めた。女の子と赤い風船が描かれたこの絵画作品は、オークションを通じ140万ドルで落札された直後、シュレッダーにかけられた。