新型コロナウイルス感染症の影響で、インド各地の家族が伝統の盛大な結婚式の縮小や中止を強いられる中、あるカップルが規制の影響を受けない会場を見つけた。その会場とはメタバース(仮想現実空間)だ。
ディネシュ・シバクマル・パドマバティさん(24)とジャナガナディニ・ラマスワミさんの住むタミルナドゥ州ではいま、結婚式の出席者が100人までに制限されている。そこで2人は来月に仮想空間で披露宴を行う計画を立て、2000人を招待した。「ポッターヘッズ」(「ハリー・ポッター」シリーズのファン)を自認する2人が選んだのは、ホグワーツ魔法魔術学校をテーマにしたパーティー。招待客は電話やタブレット、ノートパソコンを通じて参加できる。
「コロナ禍のせいで、大勢の人が参加する物理的なリアル披露宴は不可能になった」。ディネシュSPの名前で知られるパドマバティさんは州都チェンナイから電話でそう語り、「それならメタバースで披露宴をつくろうと2人で決めた」と振り返った。
新型コロナウイルス抑止に向けた規制措置を受けて、メタバース(仮想現実空間)で結婚式を行うことを決めたという/Courtesy SP Dinesh
メタバースという言葉は、ユーザーが集まって交流できる仮想的な3次元環境を表すのに使われる。ブロックチェーン(分散型台帳)や暗号通貨に熱中する新郎は今回、新興プラットフォームのタルディバースと協力して、ホグワーツから着想を得た城のようなデジタル空間をつくり出した。
法律上の結婚式がなくなるわけではなく、チェンナイから約270キロの距離にあるクリシュナギリ地区のラマスワミさんの村で親友や親戚を前に執り行われる。だがその後、2人は設計や開発、ホスティングに15万インドルピー(約22万円)かかる仮想空間の披露宴にログインする予定だ。1時間の催しでは新郎新婦が招待客にバーチャルにあいさつする場面が設けられる。招待客は城を探検したり、アバター(分身)の外見や服装をカスタマイズしたりできる。
ホグワーツ魔法魔術学校をテーマにした空間が作られるが、2人は伝統的な服装で結婚式に参加するという/Courtesy TardiVerse
他の形では出席できないゲストを招待できる点以外にも、デジタル披露宴にはもう一つユニークな利点がある。ラマスワミさんの亡くなった父親に参加してもらえることだ。
「義父は昨年4月に亡くなった」とパドマバティさん。「そこでいま、(彼に)外見が似た3次元アバターをつくっている。彼は私たちを祝福してくれるはず。これはメタバースでしかできないことだ」
メタバースでの結婚イベントについては他にも例があり、物理的な式と並行して仮想プラットフォーム「バーベラ」でデジタルの式を開いた米国のカップルなどが知られている。インド法上、結婚式には証人の立ち会いが必要だが、パドマバティさんはメタバース披露宴としてはインド初の試みになると考えている。
昨年亡くなった義父のアバターも結婚式に参加する/Courtesy TardiVerse
今回のアイデアについてパドマバティさんはまず、IT関係の仕事をする婚約者を説得した後、自身の両親からも承認を得た。
「私は子どものころからロボット工学に触れてきた。この1年はブロックチェーンやイーサリアムの採掘にも取り組んだ」とパドマバティさん。「だから家族は私がITに夢中なのは十分承知だ」と語っている。