北京冬季五輪のマスコットである氷の殻をまとった陽気なパンダは今大会、ファンの間で人気者だった――。しゃべり始めるまでは。
愛らしいパンダの「ビンドゥンドゥン」は8日放送の国営・中国中央テレビ(CCTV)の番組で、野太い男性の声で発言。これを聞いたファンがSNS上で怒りをあらわにする事態になった。
中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」ではユーザーの1人が「ビンドゥンドゥンがしゃべり出した。幻滅した」とコメント。他のユーザーも同意し、声が「不快」で最後まで見ていられなかったと書き込んだ。
ビンドゥンドゥンの声に不満を漏らしたある投稿は、ウェイボー上で2万回あまり再投稿されている。
ビンドゥンドゥン、いやビンドゥンドゥンの着ぐるみを着た記者は今回、フリースタイルスキーの楊碩瑞選手(中国)にインタビューしていた。だが、インターネット上で怒りの声が巻き起こる中で、インタビューの中身はすっかり忘れられてしまった。
突然の反発にCCTVは不意を突かれたようだった。同テレビは放送前に番組を宣伝していたが、9日にはウェブサイトから削除した。
検閲当局も騒ぎを食い止めようと、「ビンドゥンドゥンがしゃべり出した」のような特定のハッシュタグを禁止する措置に出た。
しかしこの時には既に、多くの人ががっかりしたという感想をつづっていた。
あるユーザーは「傷ついた。(オンライン通販サイトの)淘宝(タオバオ)を開いてビンドゥンドゥンのキーホルダーを買おうとしたら、中年男性の声が思い浮かんだ」とコメント。
「ビンドゥンドゥンの『おじさん』声は聞きたくない。ただのかわいいパンダなのに」と漏らすユーザーもいた。
丸い体のビンドゥンドゥンはスタンドで踊ったり、観客から喝采を浴びたりしている姿が目撃され、今大会でファンの心をがっちりつかんでいる。上位に入った選手にはミニチュアの縫いぐるみが贈呈され、スキー競技で話題をさらった谷愛凌(アイリーン・グー)選手が表彰台で縫いぐるみを掲げる場面もあった。
国営メディアによれば、ウィンタースポーツの装いをしたビンドゥンドゥンの商品は「飛ぶように売れて」いるといい、大会組織委員会はファンを満足させようとグッズ増産を要請した。
ただ、今回の騒動で人気に陰りが出る可能性もある。ユーザーの中にはルールブックを調べ、国際オリンピック委員会(IOC)の指針上、マスコットはジェンダー中立の立場を保つためにしゃべらないことになっていると指摘する人まで現れた。
中国国営メディアの検察日報によると、北京五輪委員会はIOCとの間でビンドゥンドゥンが話すことを禁じる契約を交わしていたとの情報もある。