(CNN) 100年以上前にモダニズムが誕生して以来、ドイツの建築家ルートビヒ・ミース・ファン・デル・ローエが唱えた有名な言葉「レス・イズ・モア(少ない方が豊か)」の精神は洗練の代名詞とされてきた。
こうした精神が最もはっきり表れていたのが自宅だ。北欧系やジャポネスクなインテリアは(新型コロナウイルスの世界的な流行のさ中に整理整頓術を浸透させた「片付けコンサルタント」近藤麻理恵氏のにわかブームは言うまでもなく)、過剰さやデカダンスよりも、簡素さや抑制、目的を重視する価値観を反映していた。
だがここ数年、鮮やかな色合いや柄、質感のコントラストに走るデザイナーや自宅所有者が増えている。ミニマリズムに逆行し、大胆で表現豊かで華美なマキシマリズムはいろいろな意味で、現代インテリアの主流であるまっすぐな線と落ち着いた色調へのアンチテーゼと言える。
その根底にあるのは真逆の考え方、すなわち「モア・イズ・モア(過剰こそ豊か)」だ。
マキシマリズムという用語は近代ミニマリズムの反語として生まれたが、ルーツをたどれば17~18世紀の装飾様式にさかのぼる。ちょうど欧州でバロック様式やロココ様式が花開いていた時代だ。過剰を良しとする美意識はしばしば膨大な富と結びつく。ルイ14世の豪勢なベルサイユ宮殿がいい例だ。マキシマリズムはビクトリア朝時代に盛り返し、その後はアールヌーボーやポストモダニズムといった流行とも絡みあい、流行り廃りを繰り返してきた。
おそらくはソーシャルメディアの台頭と、景気後退期の倹約ムードへの反動が引き金となって、マキシマリズムが再び盛り上がっているようだ。
マキシマリズムをたたえた新刊「Living to the Max: Opulent Homes & Maximalist Interiors」は、個人宅を中心に(一部ブティックホテルもあり)約30の事例を取り上げ、その背後にある物語や影響、制作行程を紹介している。著名ファッションデザイナーのロジータ・ミッソーニ氏がミラノに所有する豪華マンションから、バーレスク界の女王ディタ・フォンティーズ氏のゴージャスでドラマチックなハリウッドの自宅にいたるまで、マキシマリズムはしばしば既存のルールに縛られない。華々しい本のタイトルも示すように、住人の際立った個性や折衷主義がマキシマリズムを形成していると言える。
自己表現としてのインテリアデザイン
インテリアデザイナーのマシュー・ウィリアムソン氏がマヨルカ島に所有する邸宅がいい例だ。パステルカラーと花柄プリントがあふれ、シャンデリア、金縁の鏡、ムーア式のモザイクの壁に囲まれた家からは、住人がデザインを思いっきり楽しんでいることがうかがえる。
マシュー・ウィリアムソン氏がマヨルカ島に所有する邸宅/Matthew Williamson/Living to the Max/Gestalten 2023
「基本的に、自分はずっとマキシマリストだった」とウィリアムソン氏はメールでの取材で答えた。「以前から柄ものや緑青、変わった質感や色、物語性のあるものにひかれていた。結局のところ、家は自分の個性や好みを反映するもの、あるいは反映しうるものだ」
本にはジュエリーデザイナーのソランジュ・アザグリーパートリッジ氏が英国のサマーセットに所有するコテージも登場する。同氏にとってマキシマリズムとは、ミニマリズムでは成し得ない自己表現の手段だ。
「ミニマリズムの場合、型にはまったものの見方や生き方に従わなくてはならない」とアザグリーパートリッジ氏。「視点としては力強くて芯が通っているが、カオスや逸脱は許されない。自分自身を一番自由に表現できる場所が自宅なのでは。だからこそ、マキシマリズムはうまく機能し、この先も重要視されるだろう」
ジュエリーデザイナーのソランジュ・アザグリーパートリッジ氏が所有するコテージ/Nick Rochowski/Living to the Max/Gestalten 2023
本に登場するデザイナーの多くは、喜んでマキシマリズムの流れに乗り、自らの作品を呼応させている。だが中にはエジンバラを拠点に活動するデザイナーのサム・バックリー氏のように、その精神は受け入れながらも、マキシマリズムというレッテルを嫌う人もいる。
「自分がデザインした作品の中には、マキシマリズムと結びつく感性と通じるものもあるかもしれないが、自分では今まで意識したことはなかった」とバックリー氏はCNNに語った。「多種多様なものから着想を得ているので、ラディカリズムを除けば、自分の作品をどれかひとつのスタイルでひとくくりにするのは難しいだろう」
面白さと遊び心にあふれ、洗練されたバックリー氏のエジンバラの自宅は、様々な時代の家具と奇妙なオブジェが、膨大なアートコレクションと混在している。それとは対照的に、同氏が手がけたゲームデザイナーのミス・キャリー氏のマンション(同じく本の中で紹介されている)は、1960年代の米国の「スーパーグラフィックス」に着想を得ている。スタイルは異なるが、どちらもバックリー氏の大胆な色使いが特徴的だ。
「個人的にはミニマリズムの配慮されたシンプルさの方が好き。ただ残念なのは色使いであることが多い」とバックリー氏。「ミニマリズムを縛り付けている、ありきたりの退屈なグレー系やベージュ系に対する強力な解毒剤がマキシマリズムだと思う」
「色を上手く使ったミニマリズムがあってもいいのではないか。自分が推し進めているのもまさにそこだ」(バックリー氏)