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トランプ氏の最新の起訴、向こう数年反響を呼ぶ理由

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トランプ氏に対する3度目の起訴は、過去2件の起訴よりも重要な意味を持つという/Drew Angerer/Getty Images

トランプ氏に対する3度目の起訴は、過去2件の起訴よりも重要な意味を持つという/Drew Angerer/Getty Images

(CNN) 「アメリカ合衆国対ドナルド・J・トランプ」は、たちまち米国史上最も重要な文書の一つになった。

1日に公表された45ページの起訴状は、米国をかつてなく深い、悲劇的でさえある地点へと導いた。

史上初めて、米国は自国の民主主義システムを破壊しようとした罪で大統領経験者を裁判にかけようとしている。理由は起訴状にある通り、当人が選挙に敗れたにもかかわらず「権力の座に居座ろうと決意した」からだ。しかも本人は、単なる大統領経験者では全くない。大統領選で現在共和党の指名獲得争いのトップを走るトランプ氏は、世論調査によれば本選を想定したバイデン大統領との対決でも接戦を演じるとみられている。

起訴状には、明白かつ身も凍るような策略の疑惑が詳しく記されている。その目的は2020年大統領選での有権者の意思を覆し、自主的な権限の委譲の流れを断ち切ることにあった。米国の歴代大統領は、初代ジョージ・ワシントンが1796年に新たな任期への出馬を辞退して以降、この流れを引き継いできた。

ジャック・スミス特別検察官による起訴は、トランプ氏に対する過去2件の別個の起訴よりも重要となる。なぜならワシントンの連邦大陪審が起こした今回の訴追は、米国にとって建国の価値観並びに憲法上の土台の核心を突く内容だからだ。トランプ氏は他の2つの裁判では無罪を主張した。1つ目は口止め料の支払いに絡むビジネス詐欺の罪状、2つ目は機密文書の不適切な扱いにまつわる疑惑だ。同氏はまた、20年大統領選後のいかなる不正行為についても否定している。

トランプ氏の陣営は声明を発表し、スミス氏の起訴を「選挙介入」の一例と糾弾した。また「不法なやり方でトランプ大統領とその支持者をこのように迫害する行為は、1930年代のナチスドイツを想起させる。その他の権威主義的、独裁的体制にも通じるものがある」と批判した。

トランプ氏を支持する共和党の議員らはスミス氏の証拠を無視。起訴を自分たちの提起した現大統領の息子、ハンター氏のビジネス活動に絡む問題から目をそらすための取り組みと決めつけている。ただ共和党は現時点で、バイデン氏が何らかの贈収賄に加担したとする証拠を一切提示していない。また同氏自身、いかなる違法行為も否定している。

起訴が火をつけた政界の地獄絵図を巡っては、今後疑問の声も上がるだろう。このような苦しみが、本当に国家の利益になるのかと。しかし有権者の意思を覆す試みを起訴できていなければ、それは政治の破壊につながる前例を生むだけでなく、米国の民主主義そのものの将来にも疑義が生じる事態をもたらしていただろう。

1日に出した短い報道向けの声明の中で、スミス氏は2021年1月6日にトランプ氏による暴動から連邦議会を守った警察官らへの敬意を表明した。当時現場の警察官らは議事堂の建物やそこに避難した人々だけでなく、米国を定義する制度や原則も守ったのだと称賛した。

ある意味では、スミス氏の起訴状も同じことをしたと言える。

選挙後の行動の責任を問う最も真剣な取り組み

今回の起訴は、米国政府にとっての最新の取り組みに過ぎない。政府は論争を呼ぶ20年大統領選の傷跡について、その要因を探るべく連邦議会議事堂に突入した暴徒数百人をこれまで訴追している。

ただトランプ氏を対象にしたものとしては過去最も具体的な措置となる。同氏個人の過失に着目し、陰謀の首謀者だったと糾弾するのが目的だ。大統領を抑制する最も深刻な憲法上の解決策である弾劾(だんがい)裁判で、上院での有罪評決が出なかったことを考慮すれば、今回がトランプ氏に連邦レベルでの責任を問うための最後の取り組みとなるかもしれない。

多くの意味で、今回の起訴は21年1月6日に起きた議事堂襲撃事件を調査した下院特別委員会の活動の正当性を証明する。共和党は下院で多数派になった際、同委員会を解散した。

しかしこれからの裁判で、新たな結果の連鎖や潜在的な憲法上の危機が始まるだろう。その多くは、前大統領がホワイトハウスへの返り咲きを目指して選挙戦を戦っているという事実に関係する。そしてそれがまずまず達成可能な目標だという点にも。

もしトランプ氏とバイデン氏がそれぞれの党から大統領候補として指名されたなら、両者は接戦を演じることになる。米紙ニューヨーク・タイムズとシエナ大学による世論調査でそのような結果が出ている。この調査は最新の起訴が報道される前に実施したものだ。従って新たな起訴は、想定される本選の対決に途方もない影響を及ぼす。もしトランプ氏が勝てば、自身の新たな司法省を使って、自らの刑事責任を一掃しようとするかもしれない。仮に敗れて裁判で有罪になれば、獄中生活を送る可能性も出てくる。

またもしトランプ氏が共和党の指名争いで敗北するなら、代わりに大統領選を制する共和党の候補者は誰であれ、有罪になった場合のトランプ氏に恩赦を与えるようにとの強大な圧力に直面するだろう。その決定は、当人の政権に影を落とす恐れがある。

あらゆる裁判において、タイミングは重要なものとなり得る。CNNの政治コメンテーターで共和党員のスコット・ジェニングス氏は、有権者には来年の大統領選の投票前にこの裁判の結果を知る権利があると主張する。トランプ氏のチームは再三にわたり、係争中の訴訟の延期を試みている。同氏の来年のカレンダーは既に、他の裁判の日程で埋め尽くされている。それでもCNNの法律アナリストでマンハッタン地区検事長の首席補佐官だったカレン・フリードマン・アグニフィロ氏は、当該の起訴を「きちんと整理されている」と形容。かなり迅速に裁判が行われる可能性を示唆した。

選挙を盗む策略の痛々しい詳細

トランプ氏に対する3度目の起訴で、尋常ならざる法律上の網の目はさらに分厚く、密なものとなって前大統領を取り巻いている。しかも同氏が直面する訴訟はこれで終わらないかもしれない。ジョージア州フルトン郡の地区検事長は間もなく起訴の判断を発表すると見込まれている。根拠となるのは重要な激戦州でバイデン氏の勝利を覆そうとした取り組みに対する調査だ。

起訴を受け、疑惑の試みも痛々しいほど詳細に再現される。それは1人の権力者が有権者の意思を拒み、自らの職務にしがみつこうとする行為に他ならない。発展途上世界の独裁者さながらだ。2年以上が経過したが、そうした詳細には衝撃をもたらす威力がある。トランプ氏がホワイトハウスに帰還するのが適切なのかどうかについて、重要な疑問も浮かび上がる。復帰するならその前に憲法を守ると宣誓するのだろうが、申し立てによると本人はそれに違反しようとしたことになっている。

スミス氏は4つの罪状でトランプ氏を起訴した。それらは米国をあざむく共謀、公的手続き妨害の共謀、公的手続きの妨害及び妨害の企て、権利に反する共謀だ。

より広範には、選挙に不正があったとする虚偽の内容を「誤りだと知りながら」拡散したとも非難されている。これは重要な点だ。というのも検察は今後、有罪を確定するため前大統領に犯罪意思があったと明示しなくてはならないからだ。

トランプ氏は正当な有権者を違法な形で考慮に入れず、選挙人投票の結果を覆そうとしたと訴えられている。また票の集計、収集、選挙結果の承認といった手続きの妨害を共謀したともされる。スミス氏は、トランプ氏及び今回の起訴の対象となっていない6人の共謀者が多様かつ違法な方法で当時のペンス副大統領に圧力をかけたと糾弾。選挙結果を覆す自身の試みを手伝うよう求めたとしている。また司法省を使って選挙の適法性の否定を試み、偽りの選挙人の名簿を議会に提出したという。

その上で、トランプ氏には当時選挙における不正を主張する権利があり、たとえそれが誤りだったとしてもその権利自体は認められるとスミス氏は指摘する。しかし同氏によれば、実際のところトランプ氏は選挙で負けたことを理解していた。そのためトランプ氏の主張は犯罪の色合いを帯びてくるという。自らの論点を証明するため、スミス氏はある会議を引用する。その会議でトランプ氏は国家安全保障の問題に関して説明を受けたが、それに伴う具体的な措置は次の大統領が就任するまで延期することで合意。「我々にとってはもう遅すぎる。それは次の者に任せよう」と発言したという。

スミス氏と検察官らが起訴状を活用して繰り返し強く明示したのは、トランプ氏が自らの弁護士や政治顧問、選挙陣営のアドバイザーらから選挙での敗北を告げられていたにもかかわらず、そうした発言を台無しにする行動をとり続けたということだ。保守派の弁護士でトランプ氏に批判的な立場を取るジョージ・コンウェー氏は1日、CNNの番組でトランプ氏について、いつ誰が真実を伝えても同氏は聞く耳を持たず、事実と異なる内容を口にしていたと振り返った。

トランプ氏の法務チームは裁判で、同氏が自身の選挙での勝利を心から信じていたと主張する公算が大きい。本心からの行動なのだから犯罪行為には該当しないと。しかしそのような立場が成立するには、異常なほど物事を疑わない態度が陪審の側に求められることだろう。

トランプ氏の弁護士を務めるジョン・ローロ氏は起訴について、次の大統領選に介入しようとする試みに他ならず、米国の政治を大きく変えるだろうと主張。CNNの番組で「政治的な発言を取り上げて、それを犯罪にしようという意見が出たのは初めてのことだ」と指摘した。またトランプ氏の法務チームには、選挙不正が実際に起きていたのかどうか調査する必要が出てくるだろうとの見解を示した。ただ裁判所は再三、20年の選挙結果に影響を及ぼすような大規模な不正はなかったと述べている。

起訴状は多くの驚くべき証拠を引用している。そこには共謀者その4(CNNは司法省の元当局者、ジェフリー・クラーク氏と特定)とホワイトハウスの次席法務顧問の会話が含まれる。会話では法務顧問の方が21年1月20日以降もトランプ氏がホワイトハウスにとどまるなら「米国のあらゆる大都市で暴動が起きる」と警告。これに対しクラーク氏は、「そのために反乱法がある」と答えたとされる。

起訴状の後半でスミス氏は、トランプ氏と当時のペンス副大統領との間で交わされたというやり取りを詳述する。ここでトランプ氏はペンス氏に対し、選挙結果の承認を覆す1月6日の計画に従うのを拒否するなら同氏を公然と批判せざるを得なくなると告げた。スミス氏は続いて、ペンス氏の主席秘書官に関する驚くべきエピソードに言及。この秘書官は上司の身の安全を懸念し、副大統領を守るシークレットサービス(大統領警護隊)の選抜部隊のトップに警戒態勢を取らせている。副大統領が大統領によって危険にさらされる可能性が浮上するというのは歴史的にも異例の展開であり、当時の状況の恐ろしさを際立たせる。こうした動きは、トランプ氏が自らの敗北という結果を拒絶したことに端を発する。

依然としてトランプ氏に忠実な共和党

起訴状の中の証拠を読んでトランプ氏が取ったとされる行動に対し動揺せずにいるのは難しいが、共和党は即座にその内容を党派的なものと位置づけた。この事実は前大統領が自らの党を強力に掌握している状況を映し出す。共和党の支持基盤となる有権者も、トランプ氏の以前の起訴に対しては一段の支持と寄付による反応を示していた。

トランプ氏と共和党の大統領選予備選を戦うデサンティス・フロリダ州知事は1日夜、起訴状を読んでいないと明言しつつ、前大統領はワシントンで公平な裁判を受けられない可能性があると示唆した。

マッカーシー下院議長はかつて、トランプ氏には議事堂襲撃事件の責任があると述べたこともあったが、今回の起訴状については「共和党の指名獲得に向けた最有力候補、トランプ大統領を攻撃する」試みだと非難した。

ワイオミング州選出のジョン・バラッソ上院議員も、起訴状により「司法体系の二層式構造」が明らかになったと指摘した。これはトランプ氏と同氏に近い下院の共和党議員からしばしば聞かれる言葉だ。現大統領による司法体系の武器化について語る際、彼らはこの言葉を口にする。

一部の共和党議員は、トランプ氏の訴訟問題が選挙戦の勝利にとって重要な無党派層を遠ざけることになると警鐘を鳴らす。それでも共和党の反応の大部分から想起されるのは、起訴を受けて米国政治の分断は進む一方だろうという見通しだ。本来スミス氏の訴追は、トランプ氏に常軌を逸した任期中の行動の責任を問うための試みなのだが。

本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

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