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米国のNATO離脱、トランプ氏の本気度はかなりのもの

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NATOからの離脱について検討中ともされるトランプ氏。果たしてその本気度は?/Win McNamee/Getty Images

NATOからの離脱について検討中ともされるトランプ氏。果たしてその本気度は?/Win McNamee/Getty Images

(CNN) トランプ米政権当時のジェームズ・マティス国防長官は、2017年にこう語った。北大西洋条約機構(NATO)は「現代史上最も成功した、最も強力な軍事同盟だ」と。

ところが、先週末行った大統領選の選挙集会で、トランプ氏は仮にNATO加盟国がロシアから攻撃を受けてもこれを助けるつもりがないことを明らかにした。ロシアへの対応こそはNATOの核心部分であり、最優先事項に他ならない。にもかかわらず、トランプ氏はこう言い放った。「いや、私はあなた方を助けるつもりはない。むしろ彼ら(ロシア)に好き放題やらせるだろう」

トランプ氏は長年にわたり、NATOに加盟する欧州諸国を批判してきた。これらの国々は自分たちの適正な負担分を意図的に支払っていないというのがその根拠だ。外国が米国にたかっているという考えは、同氏の支持基盤にとって都合がいい。しかしトランプ氏の場合はNATOの仕組みを理解していないか、あえて理解しようとしていないかのどちらかだ。

実際のところ、NATOの全加盟国は同盟の日々の業務を支える共通基金に資金を拠出している。この支払いを滞納している国は皆無だ。

一方で14年には、NATOの加盟各国が国防費を今年までに国内総生産(GDP)の少なくとも2%へ引き上げることで合意していた。

オバマ大統領以降、米国の歴代大統領はNATO加盟国に圧力をかけ、この拠出の水準を達成するよう迫ってきた。しかし合意の時点でその水準にあったのは米国、英国、ギリシャの3カ国のみだった。

トランプ氏がしばしば称賛する外国の指導者、ロシアのプーチン大統領がウクライナへの全面侵攻を開始した22年以降、とりわけロシアやウクライナと国境を接するエストニア、リトアニア、ルーマニアなど欧州のNATO加盟国は2%以上の拠出に踏み切っている。

ウクライナでの戦争を受け、ドイツも長年の政策に終止符を打つことを余儀なくされた。同国の国防費の拠出は従来、GDPに対してかなり少額に押さえ込まれてきたが、NATOに関するトランプ氏のコメントから間もない12日、ドイツのショルツ首相は政府としてGDP比2%に相当する国防費を拠出する約束を今年果たすと表明した。

欧州諸国は、プーチン氏が勝利を収めた場合にウクライナだけで止まらない可能性を危惧している。さらにトランプ氏の大統領2期目が現実となった場合、NATOは深刻な危機に陥る恐れがある。

実際には、NATO加盟国間での国防費の拠出額は急増している。NATOによれば17年、欧州の加盟国とカナダの拠出額は2700億ドル前後だったのに対し、米国は約6260億ドルを支払った。23年には欧州とカナダの拠出額が3560億ドル、米国が7430億ドルとなる。NATO加盟31カ国中、今や11カ国が国防費の対GDP比2%以上の目標を達成している。

NATOの75年の歴史の中で、米国が最も強力かつ裕福な加盟国となったのは偶然ではない。しかしそうした考えは、トランプ氏には浮かばないようだ。同氏は常に他国を槍玉に挙げようとしており、そうした国々に米国が食い物にされていると思い込んでいる。

何と言ってもトランプ氏の同盟国に対する見解は、40年近く変わっていないのだ。1987年、同氏は米紙ニューヨーク・タイムズに全面広告を打ち、公開書簡を掲載した。そこでの主張は以下の通り。「もう何十年も、日本をはじめとする他国は米国を食い物にしている。(中略)日本やサウジアラビア、その他の国々に防衛費を払わせよう。我々が同盟相手として拡大している防衛への対価を」。同時期、トランプ氏はニューハンプシャー州で演説を行い、日本とサウジアラビアが「我々をカモにしている」とも断じている。

このような態度は大統領に就任しても続いた。トランプ氏はNATOで第2の経済力を誇りながらGDPの1%前後しか国防費に回さないドイツに苛(いら)立ちを募らせた。片や米国の国防費はGDP比で4%分に相当する。トランプ氏は国防費を出し惜しむドイツについて、まるで家主である自分が滞納された家賃を徴収するかのように解釈していた。しかしNATOにおいては、自国の防衛にいくら費やすかを各加盟国が決定する。従って、ある国の政府が合意済みの目標であるGDP比2%より少ない額の拠出を選択したとしても、米国への「借り」などには一切ならない。

当時のメルケル独首相が初めてワシントンを公式訪問した2017年3月、トランプ氏のスタッフは図表を用意し、ドイツが6000億ドルを滞納しているとの見解を提示した。トランプ氏が「請求書」をちらつかせたところ、メルケル氏は「これが本物ではないことを理解していないのですか?」と告げた。筆者はこの時の会談の様子について、トランプ氏の外交政策を扱った著書の中で説明している。

またトランプ氏は意に介していないようだが、集団的自衛権の行使を規定したNATO条約第5条がこれまで発動したのは、9・11同時多発テロで自宅のあるニューヨークが攻撃を受けたときだけだ。さらには英国がアフガニスタンでの戦闘で兵士455人を失ったことも気にしていないように見える。米国が主導したこの戦争では、カナダの兵士158人、フランスの兵士86人、ドイツの兵士54人も命を落とした。

それがどれだけ誤った考えだろうと、本人に近い顧問らによれば、トランプ氏はNATOからの離脱についてかなり本気で検討しているようだ。トランプ政権の大統領補佐官(国家安全保障担当)だったジョン・ボルトン氏と昨年夏、筆者のポッドキャスト番組で話をした際、同氏はトランプ氏について「NATOの前提を根本から見直すだろう。トランプ政権の2期目でそれをやるのだと思う。つまり米国をNATOそのものから離脱させるということだ」との見方を示した。

実現すれば大変な過ちとなる。なぜ新たに大統領に選出されるトランプ氏がこれほど成功した同盟をあえて傷つけようとするのか、あるいはその解体さえ図ろうとするのか、不可解としか言いようがない。

ピーター・バーゲン氏はCNNの国家安全保障担当アナリスト。米シンクタンク「ニューアメリカ」の幹部で、アリゾナ州立大学の実務教授、ポッドキャスト番組の司会者も務める。トランプ氏を扱った書籍「The Cost of Chaos:The Trump Administration and the World」の著者。記事の内容は同氏個人の見解です。

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