OPINION

ウクライナ戦争開始2年、勝つのはどちらか 米陸軍退役大将に聞く

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昨年11月、前線の街アウジーイウカの損傷した建物の前を歩くウクライナ軍の兵士/Serhii Nuzhnenko/Radio Free Europe/Reuters

昨年11月、前線の街アウジーイウカの損傷した建物の前を歩くウクライナ軍の兵士/Serhii Nuzhnenko/Radio Free Europe/Reuters

(CNN) ウクライナ戦争勃発から2年。米国のデビッド・ペトレイアス退役陸軍大将によれば潮目は変わり、ロシア軍にある程度の勢いがある。

ただロシア側の死傷者は圧倒的で、ウクライナはまだロシアのプーチン大統領の侵攻に対して持ちこたえられると、ペトレイアス氏は指摘する。条件は、米国から必要な支援を獲得することだ。

ロシアによるウクライナへの全面侵攻は、プーチン氏にとって破滅的なものとなったその開始から24日で2年の節目となる。戦況についてより優れた洞察を得るため、筆者は米中央情報局(CIA)長官としての経歴も持つペトレイアス氏に話を聞いた。同氏は米国が主導したアフガニスタンとイラクでの戦争を指揮。昨年には英歴史家、アンドルー・ロバーツ氏との共著で書籍「Conflict: The Evolution of Warfare from 1945 to Ukraine(仮訳『紛争:戦争の進化 1945年からウクライナまで』)」 を刊行した。

米国の退役陸軍大将で、CIA長官の経歴も持つデビッド・ペトレイアス氏/Michal Dyjuk/AP/FILE
米国の退役陸軍大将で、CIA長官の経歴も持つデビッド・ペトレイアス氏/Michal Dyjuk/AP/FILE

ペトレイアス将軍は先々週末、ミュンヘン安全保障会議に出席した。世界規模の主要な国家安全保障会議である同会議には、ほぼ全ての欧州の指導者並びに米国の最高位の当局者が顔をそろえた。米国からはハリス副大統領やブリンケン国務長官らが加わった。

会議の空気は重苦しかった。ロシア反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏の死亡という衝撃的な報道が浮上したことに加え、ウクライナ東部の要衝、アウジーイウカからのウクライナ軍の撤退も影を落とした。こうしたあらゆることを受け、会議の焦点はウクライナのゼレンスキー大統領による熱のこもった嘆願に絞られた。追加の軍事支援を求める内容だ。

筆者は会議の終了後間もなく、ペトレイアス将軍に話を聞いた。以下の両者のやり取りは、明確さを期すため多少編集されている。

バーゲン:ミュンヘン安全保障会議の雰囲気はどのようなものだったか?

ペトレイアス:過去に参加したどの回とも違った。私は少佐の時代、欧州連合軍司令官のスピーチライターだった1980年代後半からこの会議に参加している。

通常であれば、米国の代表団は他の参加者全員に圧力をかけて行動を促す。ところが今回、欧州の代表らはこれ以上ないほど真剣な一方、米国側については相当の疑念が存在した。具体的には、ウクライナ支援継続に向けた米国の責任に対する懸念。そして引き続き極めて重要な指導力を世界全体で発揮するその意欲に関しての懸念だ。

心強い要素も複数あった。欧州側の取り組みの強化だ。たとえばドイツのショルツ首相は会議の壇上で、国内総生産(GDP)の2%を防衛費に充てることを約束した。同国が世界3位の経済大国であることを念頭に置けば、これは意義の大きな進展だ。また北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は、加盟する31カ国中18カ国が今年、国防費のGDP比2%目標を達成する見通しだと明らかにした。欧州の加盟国の間で、国防支出が着実に増えていることを意味する。

欧州が大いに取り組みを強化し、さらに欧州連合(EU)はミュンヘン安全保障会議直前に500億ユーロ(約8兆円) 規模の対ウクライナ追加支援を発表した。にもかかわらず、米国による追加支援は連邦議会で宙に浮いている。これは心底必要とされる支援だ。

ミュンヘン安全保障会議で会合を開く米国とウクライナの代表団/Tobias Schwarz/Reuters
ミュンヘン安全保障会議で会合を開く米国とウクライナの代表団/Tobias Schwarz/Reuters

とはいえ、会議の場にいた多くの連邦下院議員は議会で採決が行われ、この支援を可決できるだろうと信じている。これらの議員にはロシアに対する防衛、抵抗に重点を置く一部の共和党議員も含まれる。

しかし遅延や決断力のなさ、不透明さは間違いなくミュンヘンでの雰囲気に重くのしかかっていた。

プーチン氏は米議会での膠着(こうちゃく)状態と表面上の決断能力のなさに注目している。決断は仲間の民主主義国を助けるためのもので、この国は我々の価値観と原則をいかに不十分であれ大まかには共有しており、ここまで残虐な侵攻を受けている。それからプーチン氏は11月の米大統領選も見据えている。選挙運動中に何が語られるかを注視し、間違いなくそこから何らかの期待を引き出している。

バーゲン:どちらがウクライナでの戦争に勝利するのか?

ペトレイアス:どちらかが戦争に勝利するという確信はない。ロシアは明らかに少しずつ戦果を挙げており、現時点で主導権を握っている。最近では南東部で、ウクライナ軍をアウジーイウカから撤退させた。

他にも東部と南部でロシア軍が攻勢をかけている地域が複数ある。大量の大砲を使用し、ほとんどの場合、何であれ制圧を図る対象は破壊する。次いで駆使する人海戦術は、死傷者という観点で尋常ではない犠牲を生む。それでも彼らは、その戦術を維持できるように見える。プーチン氏はこうした損失を気にかけていないようで、引き続き追加の兵士を生み出せるとみられる。

当然ながら一つの疑問が浮かぶ。ある時点でロシア国民、とりわけロシアの母親や父親、妻たちが「息子も夫も、これ以上は兵隊に出さない」と断言する可能性はないのか。ここまで若者を帰そうとする控え目なデモは複数回起きているが、間違いなく十分な数には達しておらず、これといった影響を及ぼすにも至っていない。

ロシアにはまた、野党勢力を認めてこなかった長い歴史がある。一定以上の期間にわたり、政府に異議を唱え続けることは決してできない。ナワリヌイ氏は刑務所の中で死亡したばかりだ(CNN注:ロシア大統領府は関与の疑惑を否定している)。そして昨年ウクライナに亡命したロシア軍の元ヘリコプターパイロットは、最近スペインで射殺されているのが見つかった(CNN注:ロシア政府はこの件について情報がないとしている)。現状は実質的に、ロシア連邦がスターリン主義時代の独裁制とは別物だとするあらゆる幻想を打ち消している。

バーゲン:戦争突入から2年が過ぎ、なお終わりが見えていないことに驚きを感じるか?

ペトレイアス:必ずしも感じない。ウクライナ軍は実に目覚ましい戦闘作戦を戦争1年目に披露した。キーウ、ハルキウ、チェルニヒウ、スムイ、ヘルソンでの戦闘で勝利している。戦線が固定化し、ロシア軍が防御を構築できるようになると、反転攻勢の成否は特定の兵器の供給に左右された。十分に望ましいタイミングでウクライナ軍がそれらを大量に配備できるかどうかが重要だった。そして明らかに、そうした事態は起こらなかった。

米国主導の侵攻への対応は、多くの面で非常に目覚ましいものであり続けているが、ある種の決断は遅きに失し、そのためにウクライナ軍はたとえば米国製の戦車をタイミング良く手にすることができなかった。そうした決断により、ドイツは自国製戦車「レオパルト」の承認が遅れた。ウクライナ軍には西側の航空機も届かなかった。届いていれば、地上部隊への航空支援を提供できていただろう。

米軍はまた、ウクライナにより射程の長い長距離ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」も供与する必要がある。これらのミサイルにより、ウクライナ軍はロシア支配下の領土にある遠方の標的を正確に攻撃できる。

ウクライナ東部ドネツク州でスウェーデン製の榴弾砲をロシア軍の陣地に向けて発射するウクライナ軍兵士/Thomas Peter/Reuters
ウクライナ東部ドネツク州でスウェーデン製の榴弾砲をロシア軍の陣地に向けて発射するウクライナ軍兵士/Thomas Peter/Reuters

従って、そうした点を考慮に入れれば現状は驚きではないと思う。ロシア軍はここへ来て、確実に一定の教訓を学んだ。戦争1年目もしくはそれ以上の期間は、それができていなかったように思える。彼らは人員の交代と追加の部隊を生み出す方法を見いだした。ロシア経済の基盤は、完全な戦争状態を念頭に置くものとなった。こうした状況で、現実が構想の中へと入り込んでくる。ロシアはウクライナの3倍以上の人口を抱え、その経済規模は10倍を超えている。

米国の支援が近いなら、今後ウクライナは最低でも現在の情勢を維持できると思う。戦果が非常に目覚ましい戦域では、一段の前進を果たすかもしれない。具体的には黒海西部だ。そこではウクライナ製を一部含む対艦ミサイルの使用を通じ、さらに自国開発の水上ドローン(無人艇)を駆使した結果、ロシアの黒海艦隊に恐らく30%前後の損失を与えている。同艦隊はおおむね黒海西部から駆逐され、船団の大部分は占領下のクリミア半島に位置する主要な港湾セバストポリからの撤退を余儀なくされた。黒海艦隊は同港を数世紀にわたって使用していた。

これが重要な戦果である理由は、ウクライナが自国産穀物を黒海西部経由で輸出できるからだ。穀物はそれらへの依存度が非常に高いエジプトをはじめとする北アフリカ諸国へ送られる。

バーゲン:先々週、米国防総省は記者団に背景説明を行った。そこで彼らが示した推計はかなり驚くべき内容だと思った。ロシア軍の死傷者が31万5000人だとする試算だ。それについてどう判断するか?

ペトレイアス:まさに圧倒的な損失だ。それでもクレムリン(ロシア大統領府)は関心がないらしい。どうやら地方で相当額の入隊ボーナスを支払えば、引き続き新兵を補充できるのが理由のようだ。もちろんプーチン氏がモスクワやサンクトペテルブルクのエリートを保護していることを忘れてはならない。彼らが兵役の重荷を背負うことはない。重荷を背負う若者たちがいるのは、農村色の格段に強い地域だ。

プーチン氏がたとえば1年前よりもずっと有利な立場にいるのは間違いない。それは当然不安の種となる。しかしもし米国が今回の600億ドル(約9兆円)規模の支援パッケージを可決できれば、そしてウクライナが極めて重要な問題である戦力増強の方法について基本的な決断を下し、水上及び空中ドローンの開発で進歩を遂げ続けるなら、ウクライナは現在の情勢を維持するだけでなく、場合によってはそれを進展させることも可能だと考える。しかしそこには多くの前提が存在する。多くの条件を全て満たさなくてはならない。

バーゲン:ウクライナのゼレンスキー大統領は最近、軍のトップを解任した。それで状況が変わると考えるか?

ペトレイアス:この件で、極めて根本的な複数の問題が変わるとは考えていない。それらはウクライナの今後を決める最も重要な要因だ。

特にウクライナは部隊の交代をどのように行うかについて真剣に取り組まなくてはならず、それには非常に困難な選択も必要になる。ウクライナ議会は徴兵年齢について、いくつかの抜本的な決断を下さなくてはならない。留意すべきなのは、前線のウクライナ人兵士の平均年齢が、イラクとアフガニスタンで私が率いた18~23歳ではないという点だ。実際には40歳を超えている。これは彼らの徴兵方針の結果で、今後は変更を余儀なくされるだろう(ウクライナの法律では18~26歳の男性の徴兵は認められていない。ただこの年齢層でも兵役に志願することはできる)。

極めて自明のことだがこれは感情に関わる問題で、実際そうなるのも無理はない。取り組みは至難の業だ。それでもやらなくてはならない。

バーゲン:もしウクライナが戦争に敗れたら、次に何が起きるのか? プーチン氏は自信を得てNATO諸国を攻撃するのだろうか? あるいはこの戦争で被った損失により、ロシアが他国へ侵攻する能力は低下したのだろうか?

ペトレイアス:疑問の余地なく、プーチン氏がウクライナで止まることはないだろう。問題は同氏が戦力を再建し、他国で活動させるまでどのくらいの時間がかかるかという点だ。モルドバは確実に標的となるだろう。結局のところ、同国にある分離派支配地域トランスニストリア(沿ドニエストル)には依然として1500人程度のロシア軍兵士がいるのだから。

プーチン氏の注意はバルト海諸国にも向くかもしれない。これらの国々の存在も、同氏は不快に思っている。

同氏が目指すのは一貫してソビエト連邦を再構築することだ。あるいはロシア帝国を再建して、自ら皇帝の座に就こうとしているのかもしれない。

バーゲン:ウクライナで起きていることは、第1次世界大戦当時とよく似ている。それは塹壕(ざんごう)戦、地雷原、機関銃という意味においてだが。当然、大量の武装ドローンのような新技術も存在する。この戦争はあなたにとってどのように見えているのか?

ペトレイアス:第1次大戦の要素としては以下のものがある。塹壕、並び立つ防御要塞(ようさい)、有刺鉄線、極めて深い地雷原、大量の迫撃砲。特にロシア軍の側で顕著だ。冷戦時代の戦車や歩兵戦闘車も、今回の戦場で大いに目にする。

そしてこれらに加えて、かなり先進的なドローンがある。一部は「自爆型」だ。精密ミサイルも空中と海上で使用されている。水上ドローンもある。電子戦もまた、重要度が格段に増している。活動はサイバースペースでも行われている。宇宙空間で命令、指揮、情報伝達を行う能力まで関わってくる。衛星通信システム「スターリンク」は、もちろんそれらの一つだ。

首都キーウへのミサイル攻撃後に発生した火災の消火活動に当たるウクライナの緊急サービス要員/Sergei Supinsky/AFP/Getty Images
首都キーウへのミサイル攻撃後に発生した火災の消火活動に当たるウクライナの緊急サービス要員/Sergei Supinsky/AFP/Getty Images

加えて、計り知れない透明性が出現している。それはスマートフォン、インターネットアクセス、ソーシャルメディアプラットフォームが至る所に存在していることに由来する。

従って過去のあらゆる戦争の状況とは全くかけ離れており、我々に戦争の未来についてのヒントを与えてくれる。アンドルー・ロバーツ氏と私は、共著署の中でそれを解説した。

バーゲン:バイデン政権と議会は、既に750億ドル前後をウクライナ支援のために送った。なぜ米国人はウクライナのために一段の支出を行うべきなのか?

ペトレイアス:それが我々の根本的な国家安全保障の利益に関わるからだ。我々の繁栄と、法に基づく国際秩序にとって利益になる。それは我々と我々の同盟国、提携国が第2次世界大戦後に構築したものだ。不完全な部分もあったが、全体としては我々の利益、そして同盟国及び提携国の利益を促進してきた。

他の国々、つまりロシアと世界中に存在するその多様な同盟国は、世界を独裁体制にとって安全な場所にしようとしている。民主主義にとってではなく。そして我々の利益とNATO同盟国、自由世界にとっての利益は、今やウクライナとロシアの国境線によって守られている。

これは慈善事業ではない。我々が世界中で行っていることは、親切心ではなく冷徹な計算によるものだ。そうするのが我々の国益になる。そうしなければ世界の状況は変わり、我々の国家安全保障にとっても国の繁栄にとっても好ましくない方向へ向かうだろう。

バーゲン:米国をNATOから離脱させるというトランプ前大統領の脅しを額面通り受け止めるか? 実現すると同盟にどのような影響が及ぶか?

ペトレイアス:結局のところ、米国はNATOの戦力の要だ。NATOの事務総長が加盟する31カ国中18カ国について、10年ほど前に合意した国防費のGDP比2%目標を今年達成する見通しだと発表したが、それでも米軍はあらゆるNATOの作戦にとって根幹をなす。想定される侵略国への抑止力としても同様だ。

つまりNATOは多くの面において、大統領執務室で下される決定に依存している。そのためNATOを巡る最近の発言はミュンヘン安全保障会議で懸念材料となった。会議に参加した米国人全員が、様々なタイミングでその件について質問を受けた。NATOの根本的な性格と同盟としての抑止力は、米国がその役割を今後果たさなくなるなら当然著しく弱体化するだろう。米国はどちらの党の大統領に率いられても、NATOが創設された数十年前の第2次大戦後からそうした役割を果たしてきた。

バーゲン:ロシアがある種の対衛星兵器を開発しているとの報道をどう考えるか? 核兵器を備えている可能性もあるとされるが? あらゆる国にとってかなり危険なのではないだろうか。そこにはロシア人が含まれることも想定される。彼らは他のどの国とも同様に、衛星システムに依存しているのだから。

ペトレイアス:そうなるだろう。ここで注意すべきなのは、この場合の核の要素が我々の衛星も一部搭載する原子力を表しているのか、それとも実際の核兵器を表しているのかが分からないという点だ。原子力を動力源とした衛星に何らかの電磁パルス兵器が搭載されているのか、あるいは対衛星用として使用する核爆発装置を実際に運んでいるのか判然としない。

ここでの本当の問題は、この件が大変な不安定化をもたらすということに他ならない。なぜなら、現時点で米国はある種の重大な核攻撃に対する数十分の警告時間を確保しているが、仮に所有する諜報(ちょうほう)、監視、偵察用の資産が機能しなくなり、かつ即時の決定が必要な場合は、この時間が劇的に減少するからだ。こうした資産の多くは宇宙空間にあり、それらが無力化する時は「危機の抑止」が著しく阻害されることになる。

従ってこの問題は極めて危険であり極めて無分別、また極めて挑発的でもある。

ピーター・バーゲン氏はCNNの国家安全保障担当アナリスト。米シンクタンク「ニューアメリカ」の幹部で、アリゾナ州立大学の実務教授、ポッドキャスト番組の司会者も務める。トランプ前米大統領を扱った書籍「The Cost of Chaos:The Trump Administration and the World」の著者。記事の内容は同氏個人の見解です。

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