ANALYSIS

ウクライナへの侵攻恐れる西側、ロシアのテレビに映るのは別の世界

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クリミア半島の幹線道路を走行するロシア軍=18日/AP

クリミア半島の幹線道路を走行するロシア軍=18日/AP

(CNN) 重装備の外国軍隊がウクライナ国境に向かって進軍する。偵察機が上空を飛ぶ。「偽旗」作戦のうわさが飛び交う。

もしあなたがモスクワで国営テレビを見ていたら、兵隊や戦車、鉄条網、狙いを定める狙撃手の映像を見るだろう。だがそれは攻撃の準備を整えたロシア軍ではない。北大西洋条約機構(NATO)の軍だ。

ロシアから見る鏡写しのようなウクライナ情勢にようこそ。同国のメディアが見せる別の風景では、NATO軍は何年も取り組んできた計画を実行しようとしている。ロシアを封じ込め、プーチン大統領を倒し、ロシアのエネルギー資源を乗っ取る計画だ。

モスクワ側のあらゆるニュースやトーク番組で繰り返される見方では、ウクライナは米国という「人形遣い」に操られた失敗国家だ。欧州はワシントンからの命令を聞くペット犬からなる弱く分断された集団だ。恐ろしい脅威である米国でさえ、政治的分断や人種問題で引き裂かれた、弱い分断国家となる。

だが待ってほしい。こうした国々が脅威であると同時に弱いということはありえるのだろうか。これはロシア政府のプロパガンダが抱える難問の一つだ。だが、彼らが求めているのは、それについて考えを巡らせることではない。視聴者の血圧を上げて、懸念を大幅に高めることだ。

ロシア国営テレビの政治ニュースの看板番組「ベスティ・ネデリ」の司会者ドミトリー・キセリョフ氏は23日の番組冒頭で「彼らはクレムリンからの平和的な構想に回答する代わりに、我々を非難と新たな威嚇で葬り去った」と述べた。

ロシアでは、欧州と米国またはNATOの間の不和をほのめかすものは何でもトップニュースになる。キセリョフ氏の番組ではドイツ海軍総監の発言がトップニュースの一つに上がった。総監はプーチン氏は「尊重に値する」人物で、ロシアが併合したウクライナ領のクリミア半島は「永遠に戻ってこない」と発言。番組では総監が辞任に追い込まれたと満足げに言及してこのニュースを終えた。

ウクライナは今のところ全面的な侵攻に巻き込まれていないかもしれないが、ロシアメディアの中では既に言葉の全面戦争が起きている。

米政府の声明は「情報省」からのコメントとして切り捨てられ、ロシア大統領府のペスコフ報道官は米国を「情報ヒステリー」「うそ」「フェイク」と批判する(「フェイク」という言葉は今やロシアの言葉になった。発音は英語とほとんど同じだ)。

ロシア国営テレビに映し出される地図には、NATO軍に囲まれたベラルーシが示されている。これは西側メディアの報道で見られる、三方をロシア軍に囲まれたウクライナの地図にそっくりだ。

ロシアによるウクライナ攻撃の可能性に対する非難は「半分神話のようなロシアの脅威」や、「アングロサクソン」による「ロシア嫌い」として切り捨てられる。

鏡写しのプロパガンダの印象的な一コマでは、米FOXニュースのタッカー・カールソン氏のコメントを翻訳付きでロシアのテレビが取り上げた。同氏の発言は反NATO、反バイデン米大統領の内容で、ロシア政府の方針に沿うものとなっている。キセリョフ氏の番組ゲストは「彼はあなたの番組に出るべきだ」と語った。

国のこうしたメディア戦略は効果が出ているように見える。非政府系の世論・社会学的調査機関のレバダセンターが12月に行った調査によると、緊張が高まっているのは米国やNATOのせいだと答えた人が回答者の半数に上った。ロシアが原因と答えた人はわずか3~4%だった。

ウクライナの危機がロシアとウクライナの戦争へと発展しないと考える人は半数をわずかに超え、戦争が「不可避」「非常に可能性が高い」と答えた人は39%だった。ロシアとNATOの間で戦争が起きる可能性があると考える人は4分の1だった。

レバダセンターが行った別の世論調査によると、ロシアとNATOの関係が著しく悪化していると答えた人は56%で、ウクライナでの紛争が始まった2014年以降最も高い結果となった。世界大戦の勃発を懸念する人も56%いた。

ロシア情勢に関するオンラインメディア「リドル」が実施したフォーカスグループの手法による調査によると、多くのロシア人は、自分たちが西側によって戦争に引きずり込まれようとしているとの認識でいる。

ある回答者は「ロシアは対応しなければならない。(中略)我々は全方面から挟まれ、彼らは我々にかみついてくる。我々は何をするべきか。降伏か」と語った。

一方、レバダセンターの調査担当者は、ロシアの人々が主要メディアから流れてくるウクライナの話題に「精神的に疲れている」と指摘する。その結果、視聴者はニュースを分析せず、テレビ番組の司会者の発言を再チェックしたりすることもない。

もちろん、ロシアメディアの風景も変わりつつあり、若い世代は情報を得ようとインターネットにアクセスする。だが、ロシアの主流以外の報道機関は閉鎖されるか、隅に追いやられている状況で、ロシア政府の主張するもう一つの現実が電波を支配している。

本稿はジル・ドアティー氏がCNNに寄稿した分析記事です。

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