寄生虫の「マインドコントロール」が影響か、群れを離れるオオカミ 米研究
そして今回、科学誌コミュニケーションズ・バイオロジーに掲載された研究で、トキソプラズマ原虫がハイイロオオカミに影響を与えている証拠が初めて示された。
イエローストーン国立公園では1995年にハイイロオオカミが放されて以降、研究チームがオオカミの観察を行ってきた。公園内の道に設置されたカメラや航空機で群れの行動を観察しているほか、オオカミの約4分の1は無線追跡用の首輪を装着し、血液検査を受けている。
こうした検査の結果、オオカミの一部がトキソプラズマ原虫に感染していることが判明した。ピューマと生息地が重複しているために感染したとみられる。
トキソプラズマ原虫の存在は研究チームの目を引いた。論文の共著者を務めた米モンタナ大学の博士候補生、コナー・メイヤー氏もその一人だ。トキソプラズマ原虫は動物のリスクを冒す行動に影響を与える傾向にあることから、メイヤー氏らは大胆な行動を取るオオカミに着目することに決めた。
オオカミが危険を冒すのは家族から離れ、別の群れに加わったり新たに群れをつくる時だ。そこで研究チームは、オオカミの分散と群れのリーダーに関する25年分の記録をさかのぼり、研究対象となった全てのオオカミの血液検査と照合した。
すると驚くべき結果が明らかになった。トキソプラズマ原虫の陽性反応を示したオオカミは陰性のオオカミに比べ、群れから離れる可能性が11倍大きいことが判明。陽性反応を示したオオカミが群れのリーダーになる可能性も陰性の個体の46倍に上った。
トキソプラズマ原虫との関係が指摘される他の動物の行動パターンを踏まえ、研究チームはトキソプラズマ原虫が要因ではないかと推測。「トキソプラズマ原虫によって引き起こされる大胆さと、自らの行動圏を離れ、殺される危険を冒してまで別のオオカミの縄張りに出向く意思の強さの間には、何らかの関係がある可能性がある」(メイヤー氏)としている。