習主席の中国サッカー大国化計画はなぜ失敗したのか
資金の枯渇
新型コロナ対策の行動制限が選手たちに苦しい生活を強いる一方、パンデミックは、彼らに給料を支払っている企業にも混乱をもたらした。
中国不動産大手、恒大集団は、中国政府が不動産開発業者に対する規制を強化したことにより経営危機に陥り、21年に経営破綻(はたん)した。同社の破綻は、中国の不動産市場に史上最悪の危機をもたらした。
恒大集団が所有する男子サッカーチーム、広州恒大は22年に選手の給料を満額支払うことが不可能となり、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)を2度制した同クラブは、中国2部リーグに降格した。
無観客のスタジアムは、入場料収入だけでなく、スポンサー契約にも影響を与えた。また中国経済が打撃を受けたことにより、複合企業や不動産開発業者も使える資金が減った。
しかし、全ての問題が新型コロナウイルスのせいというわけではなく、中には単なる経営判断のミスもあった。
CFAは、中国の才能ある選手を育成するため、17年に海外選手を獲得するための支出に対する課税を強化した。具体的には、700万米ドル以上支出したクラブに、支出額と同額をCFAに支払うよう義務付けた。その結果、クラブは支出額を大幅に減らし、それが観客動員数の減少やスポンサー離れにつながった。
その影響は甚大で、クラブは帳尻合わせやスター選手らの高額の給料のねん出に苦労し、次々と廃業を余儀なくされた。
「中国の恥さらし」
海外の優秀な選手をCSLに招へいする目的は、単に外国生まれのスター選手を帰化させるためだけではなく、中国の選手らが取り組むサッカーのレベルを引き上げ、その効果が代表チームにも波及することが期待された。
事態を好転させるべく、セルビア出身のアレクサンダル・ヤンコビッチ氏が新しい男子代表監督に任命された。中国男子代表のランキングが下がっているところを見ると、まだ外国人選手の招へいの効果は表れていないようだ。
一方、男子に比べて資金不足の女子代表チームは、おそらく中国サッカー界の唯一の希望だろう。女子代表は、昨年のAFC女子アジアカップを制し、7月に開幕するFIFA女子ワールドカップでもダークホースと見られている。
また、中国でのワールドカップ開催の可能性についても、中国サッカー界で浮上したさまざまな汚職スキャンダルを考えると、現時点では実現の可能性は極めて低そうだ。
中国共産党の反汚職監視機関は現在、多数のCFA関係者を調査しており、その中には陳戌源元CFA会長や中国男子代表チームの前監督である李鉄氏も含まれている。
また国際サッカー連盟(FIFA)の理事を務めていた杜兆才氏が最近、同職を失った。杜氏は4月に「規律・法律違反の容疑」で調査を受けた。
22年のワールドカップのアジア最終予選でベトナムに1対3で敗れるなど中国男子代表チームの低迷にファンたちも不満を募らせている。中国のSNS大手ウェイボー(微博)で、人気俳優、鞏漢林さんが男子代表チームを批判する動画が数億回再生された。動画の中で「年収が300万、500万、数千万もあるサッカーチームが、ピッチ上でほとんどゴールを決められない」とし、「これは中国人にとって完全な恥だ」と怒りをぶちまけた。