中国、東南アジアを結ぶ高速鉄道を計画 現状と今後の見通しは
23年4月に旅客サービスが開始されてから数カ月後に中国ラオス鉄道に乗車した政治経済学者のスーバンナセン氏は、この鉄道は「ほぼ建設が完了し、開業間近にあっても」貨物輸送のためのプロジェクトだと指摘。中国とタイが貿易の主要な結節点であって、ラオスに残されているのは巨大プロジェクトの費用負担だと述べた。
「これはオリエント急行を彷彿(ほうふつ)とさせる。オリエント急行がハプスブルク帝国とオスマン帝国に利益をもたらした一方で、後背地のバルカン半島地域は負債を抱え、100年以上経った今でも同地域の経済に影響を及ぼしていることを連想させる」(スーバンナセン氏)
中国が資金提供し、援助するインフラプロジェクトも広く疑惑の目で見られており、苦境にある国々に多大な財政的影響を及ぼしながら、近隣の小国に対する影響力を高め、支配権を獲得しようとする中国政府の試みだと非難されている。
「中国政府は最終的に、東南アジア諸国を自国の地政学的な影響力の範囲内に収めることを望んでいると考えられる。これらのプロジェクトは常に中国の戦略的・地政学的な利益に沿ったものだった」とスーバンナセン氏は指摘し、中国が数十億ドルの資金提供を行った中国ラオス鉄道プロジェクトにおけるラオスに課せられた財政負担について強調した。
「中国政府がソブリン融資(政府保証付き融資)によってラオス政府に貸し付けた金は、すぐに返済されなければならない。その対外債務がラオスに与える直接的な影響は、度重なる負担や財政危機を見れば明らかであり、ラオス社会全体への影響も明らかだ」(スーバンナセン氏)
隣国シンガポールとの高速鉄道計画が進行中のマレーシアでは、多くの専門家が強い反対の声を上げており、主権を巡って警戒を強めている。18年に鳴り物入りで開業し、物議を醸した香港西九龍駅との類似性を指摘する声もある。
107億5000万ドルが投じられたこのインフラ投資は、香港と北京や上海などの主要都市を含む中国本土の44の目的地を結ぶものだ。だが、香港西九龍駅の一区域に中国本土の法律を適用することが認められているため、香港の自治権が損なわれているとして世論の激しい批判を招いた。
中国と香港の両当局は、香港西九龍駅と高速鉄道は経済的機会を拡大するツールであり、「境界を越えた便利な交通手段」であると擁護した。だが、香港の多くの批評家たちは、望まれても、求められてもいない開発だと述べている。
専門家らは開業当時CNNに対し、「中国への恐怖、憤り、不安、そして中国に対する香港の地位低下への認識と関係している」と話していた。
クアラルンプールにあるコーポレート・アドバイザリー会社、アストラミナ・アドバイザリーの創業者でありマネジングディレクターを務めるウォン・ムー・ロン氏は「国をまたいだインフラには必ず複数の国や政府が関与し、主権や法律の問題が関わってくる」と語る。「コストに加えて、それ自体が非常に大きな問題であり、簡単に対処できるものではない」
ウォン氏は、高速鉄道には「明らかなメリット」がある一方で、建設と運行を決定する際にはコストとメリットのバランスを考慮する必要があると繰り返し述べた。
同氏はCNNに対し、「マレーシアとシンガポールを結ぶ高速鉄道の例では、シンガポール内の停車駅は一駅のみになる可能性が高いが、マレーシア内の停車駅はもっと多いだろう」と語った。「だが、誰が最終的な決定権を持つのだろうか。また、もし中国から追加で外部資金が流入すれば、事態はさらに複雑になる」
「少なくとも今のところ、すでに効率的な鉄道や3時間以内のフライトが存在しているため、マレーシアとシンガポール間に高速鉄道は必要ない。コストが高すぎるうえ、実現するのは非常に難しいだろう」