シンガポールの裁判所、知的障害持つ死刑囚の執行回避の訴え退ける 薬物密輸で有罪
(CNN) シンガポールの裁判所は29日、薬物密輸の罪で死刑判決を受けた死刑囚の訴えを退けた。弁護団は、男性には知的障害があるため、裁判は国際法に違反すると主張していた。
これにより死刑執行を阻止するための法的手段が尽き、支持者によると、男性は数日内に絞首刑に処される可能性があるという。
この裁判は国際的な注目を集め、シンガポールの厳格な薬物法に再び厳しい目が向けられていた。
マレーシア国籍のナガエンスラン・ダーマリンガム死刑囚(34)は、2009年にヘロイン42.7グラムをシンガポールに持ち込んだ罪で逮捕され、翌年に死刑判決を受けた。
ダーマリンガム死刑囚は精神障害を理由とする申し立てを行い、弁護団は死刑判決を阻止するために司法審査手続きを開始した。
「(最高裁判所の)上訴法廷はこの申請を却下し、申し立ては手続きの乱用で、国際法は適用されないと判断した。そのため精神障害を抱えるナガエンスランは数日内に絞首刑に処される可能性がある」と弁護団は29日のフェイスブックへの投稿で述べた。
メノン裁判長は判決で「犯行後に上告人の精神状態が低下したことを示す証拠は認められなかった」と述べた。また、同死刑囚を独立した精神科医の委員会で評価するよう求める要求も退けた。
21年10月に同死刑囚の家族が処刑が間近だと知らされた後、弁護団は土壇場で違憲との主張を展開し始めた。高等法廷は11月に訴えを退けたが、判決を不服として申し立てができるよう、刑執行の延期を認めた。
その申し立ての審問は、ダーマリンガム死刑囚が新型コロナウイルスに感染したため、延期された。そして29日の判決で、同死刑囚の法的選択肢はなくなった。
死刑に反対する団体は、シンガポールのヤコブ大統領による恩赦がない限り、ダーマリンガム死刑囚はすぐに処刑に直面すると述べた。
「ナガエンスランの公正な裁判の権利を侵害し、この事件で審理と決定を急いでいることを非常に懸念している。ナガエンスランは知的障害を抱えているため、死刑にされるべきではない」と団体の代表は声明で述べた。
また「彼が家族のもとに帰ると信じ、家族と家庭料理を共にすることについて話しているという心が痛む事実は、彼が死刑執行に直面していることを十分に理解しておらず、精神的能力を欠いていることを示している」と指摘した。
死刑判決
シンガポールの薬物法は世界で最も厳しいものの一つ。
例えば、ヘロイン15グラムなど一定量の薬物を取引した場合、薬物乱用法により義務的に死刑判決が下される。この法律が改正され、一定の状況下で死刑を回避できるようになったのはつい最近のことで、ダーマリンガム死刑囚の裁判が始まってからだ。
同死刑囚は自分の行動を理解する能力がなく、シンガポールの法律で死刑を宣告されるべきではなかったと弁護団は主張した。
弁護団によると、心理学者は同死刑囚のIQを69と判定した。これは国際的に知的障害として認められる水準だ。また、弁護側は裁判でダーマリンガム死刑囚には重度の注意欠陥・多動性障害(ADHD)、境界知能、重度のアルコール使用障害があると主張した。
弁護団によると、同死刑囚は死刑囚監房で10年過ごし、その間に病状はさらに悪化したという。
同死刑囚の家族の代理人の弁護士は11月に「ダーマリンガムは自分に何が起こるのか、十分わかっていない」と述べ、ダーマリンガム死刑囚を処刑することは「子どもを処刑するのと同じことだ」と指摘した。
一方、裁判所は精神状態の減退を示す受け入れ可能な証拠は何もないと言及。精神的退化の主張は「都合のいい」もので「支持するものは何もない」とも述べ、弁護側の手続きは執行を遅らせるために行われたと断じた。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは1月に、この裁判は茶番で「国際法に違反する」と指摘。判決が義務的刑罰として科されている点や、国際法で死刑判決の適用に必要とされる最も重い罪の基準に合わない犯罪に判決が下されている点に言及した。