コロナ禍及ばぬ南極大陸、基地で終息待つ人々が思い語る

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コロナ禍から隔絶された南極大陸には、現在科学者を中心に約5000人が生活している/courtesy Antarctica New Zealand

コロナ禍から隔絶された南極大陸には、現在科学者を中心に約5000人が生活している/courtesy Antarctica New Zealand

(CNN) 世界が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への対応に追われる中、これまで「感染者ゼロ」を維持している大陸がある。

地球上で最も寒い場所である南極大陸では、新型コロナウイルスの感染が確認されておらず、今や「世界で最も安全な場所」と考えられている。

公式な先住民は存在しないが、現在南極には約5000人が暮らしている。その大半は科学者や研究者で、同大陸に80ほどある基地で生活している。

アンバース島のパーマー基地で管理・運営コーディネーターを務めるケリー・ネルソン氏(45)もその1人だ。この基地は南極大陸にある米国の基地の中で最北に位置する。

世界で最も安全な場所?

「今、ここ(南極)にいられること、そして安全が確保されていることに感謝していない人はいないだろう」とネルソン氏は言う。

ネルソン氏や彼女の同僚たちは、パンデミックから地理的に遠く離れた場所にいるが、世界の動きを常に把握している。

「世界で起きていることを見るのは、人間としての責務と感じている」とネルソン氏は言う。

Keri Nelson
Keri Nelson

英スコットランド出身のロバート・テイラー氏(29)は、南極半島西岸沖のアデレード島にある英国南極調査局(BAS)のロセラ研究所(RRS)に約半年前から駐在している。

テイラー氏も当初からコロナ危機を見守ってきたが、遠く離れた南極にいるため、しばらくの間、危機の深刻さに気付かなかった。

テイラー氏は、「たしか1月上旬に中国からの(新型コロナウイルスに関する)報道があった」とし、「その後、英国でも症例が数件確認されたが、あくまで遠くで起きているささいな問題で、自分に影響が及ぶことはないと考えていた」と述べた。

「しかし、その後感染が拡大し、マスコミが大きく取り上げるようになり、徐々にその深刻さに気付いた」(テイラー氏)

観光への影響

Alexey Kudenko/Sputnik/AP
Alexey Kudenko/Sputnik/AP

近年、南極では観光が盛んだ。

国際南極旅行業協会(IAATO)によると、2018~19年のシーズン中に南極大陸を訪れた旅行者は5万6168人で、前年から40%増加した。

南極では11月から3月下旬までが観光シーズンだが、2019~20年のシーズンも約7万8500人の観光客が見込まれていた。

しかし、ウイルスが世界中に広がり始めたため、各国の基地は観光客の訪問を制限し始めた。その後、地域全体でロックダウン(封鎖措置)が実施され、全ての観光客の訪問がキャンセルされた。

観光客の不在が長期的に南極大陸の観光産業に影響を与えるとしても、それがどのようなものとなるかは未知数だ。

ただ現在、南極大陸の手付かずの環境を保護するため、訪問者の数は比較的少なく抑えられている。

IAATOに加盟する旅行会社は、乗客500人以上の船を上陸させることができない。また、いかなる時でも1カ所の着岸地点を使用できるのは1隻の船のみと、旅行会社間で調整を行っている。

孤独への対処

Keri Nelson
Keri Nelson

現在、ネルソン氏が勤務するパーマー基地の駐在員はわずか20人だ。

ネルソン氏は、写真共有サイト「インスタグラム」上で南極での自身の体験を紹介しているが、コロナ危機の影響で旅行者の訪問が禁止される前でさえ、孤独はつらかったと認める。

現在、ネルソン氏は、孤独に対処するため、南極以外の場所にいる人々が隔離中に試している方法の多くを取り入れている。

ネルソン氏は「個人的な活動によって楽しみを味わう方法を探っている」と述べ、「それから、自分の頭の中で考え事をする時間はぜいたくなものなのだと、改めて考えるようにもしている」と付け加えた。

とはいえ、ネルソン氏が今いる南極は、珍しい野生生物やうっとりするような自然美に囲まれた場所でもある。

「結局のところ、その点で南極は最高に素晴らしい」とネルソン氏は言う。

「これほど美しい場所なので、この景色になじむのも、ここでうまくやっていくのも全く難しいことではない」(同氏)

より多くの自由

一方で、ネルソン氏は強い罪悪感を抱いていることを認める。自分がかくも遠く離れた場所にいる間、愛する家族は歴史に残るほどの危機的な日々を過ごしているからだ。

「こうして実際に世界の果てにいるのは、とても奇妙な感覚だ。なにしろ少なくとも最初のうちは、本当にこの世の終わり(あるいは、少なくともわれわれが知っている形での世界の終わり)を目の当たりにするのではないかと恐れる人々もいたのだから」とネルソン氏は言う。

1年半にわたって休暇も取らず、家族や友人たちと離れて過ごしてきたテイラー氏が感じるのは、戸惑いにほかならない。現在の自分の方がそうした人々よりも事実上はるかに恵まれた状況にあると考えると、何とも落ち着かない気持ちになるという。

「今置かれている状況の方が自由に行動できて、自国に残って暮らすよりも制限が少ない。こんな話は受け入れ難い」とテイラー氏は言う。

「ここでは生活と仕事が密接に絡み合っている。自分たちの生活と仕事を続けられるのは、この上なく幸運なことだ」(テイラー氏)

コロナ後の世界

Keri Nelson
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テイラー氏は、2021年4月に南極を発つ予定だが、英国への帰国に向けた具体的な計画を立てる前に「新しい状況がどのようなものか」を見極める必要がある、と語る。

テイラー氏は、「南極で1シーズンを過ごすと人は変わると言われる」と述べた上で、「しかし、今は(南極にいる)われわれよりも世界の他の人々の方が変わってしまうのではないかと思わずにいられない」と不安を口にする。

「われわれは今まで通りの生活を続ける。新型コロナウイルスなどなかったかのように暮らしていく。ここにはジムも、音楽室も、図書館も、映画館もある。以前はあって当たり前と思われていたものばかりだが、各国に住む人たちは今後利用できなくなるだろう」(テイラー氏)

そうした思いはネルソン氏も共有している。

両氏らがいずれ帰国した時、そこに待ち受けるのはかつてとは全く異なる世界、はるか遠くから眺めるだけだった新しい生き方だ。

彼らが今、南極で楽しんでいる一見ごく普通のことでさえ、遠い昔の思い出となるだろう。

「ここでは、まだ恐れることなく思いのままに人と交流ができる。好きなだけハイタッチやハグもできるし、寄り添って座ることもできる。誰かがせきをしてもビクビクする必要もない」とネルソン氏は言う。

「それは非常にありがたいし、残りわずかとはいえ、そのような生活が送れることに心から感謝するようにしている」

「ただ同時に深い悲しみも覚える。そんなちょっとした仕草でさえ、今やすっかり特別なものになってしまったと認めるのはやり切れない」

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