中国の世界的な影響力は過去20年間で著しく増大したが、大半の主要国との関係は悪化し続けている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まってからは特にそうだ。
アリ・ワイン氏
英国は昨年、次世代通信規格「5G」の通信網から中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)を2027年までにすべて排除するよう命じると発表した。欧州議会は今年5月、中国と欧州連合(EU)の間の大規模な投資協定について、批准に向けた審議を停止する決議を賛成多数で可決した。また多くの事態が進展する中で、日米豪印4カ国の非公式の枠組み「QUAD(クアッド)」が再び活発化している。具体的には中国とインドの間で昨年発生し、死者も出た国境紛争や、中国政府による豪州産大麦に対する関税引き上げといった動きが契機となった。当該の4カ国は軍事・外交における関係を強化するだけでなく、新たな技術開発のための協力や東南アジアにワクチンを供給する方途についても一段と知恵を絞っている。
加えて、6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)後に出された共同声明は、先進工業民主主義国が中国をめぐる懸念の下でいかに結束しているかを示すものとなった。新型コロナの起源に関して「中国国内を含めた」調査を要求し、非市場的な政策や慣行に異論を提起。中国に対し、「人権と基本的な自由」を尊重するよう迫った。これは新疆ウイグル自治区と香港の状況を特に念頭に置いている。さらに「台湾海峡の平和と安定の重要さ」を指摘し、東シナ海と南シナ海での「現状変更や緊張激化をもたらす一方的な現状変更の試み」にも反対すると表明した。
たとえ中国の外交的地位が先進世界の大半で低下しても、その経済的な求心力は急速に増加している。同国は昨年、輸出で過去最高を更新し、今年の実質国内総生産(GDP)は8.4%拡大するとみられている。中国政府に対処するにあたり、米国とその民主的な同盟国・提携国、つまりG7加盟国並びにそれ以外の国々(とりわけオーストラリア、インド、韓国)は、相も変わらず競争や対立、協力の入り交じった対応をとり、一枚岩の連合は実現しそうにない。実際、各国が中国の影響力の相殺というあまりに限定した点で共通課題を設定しようとすれば、それはかえって国同士の手法の違いを際立たせるリスクを生むことになる。
とはいえ少なくともいくつかの領域においては、各国はおそらく適切な形でより広範かつ持続的な連携に努め、中国政府の盛り返しに対応するだろう。そうした領域の中でもグローバルサプライチェーン(供給網)と技術標準は、最も重要な部類に入る。
グローバルサプライチェーン
一部の政策立案者は、中国が持ち前の製造業の強みを駆使し、威圧的な影響力を発揮してくるのではないかと危惧している。
新型コロナのパンデミックで明らかになったのは、極めて重要な製品の供給に関して、1つの国に過度に依存するのはそれがどこであれ危険だということだ。とりわけパンデミック初期の数カ月、多くの国では個人防護具(PPE)の供給が限定され、国内の生産体制も全く不十分だった。中国から出荷されたPPEが届くまで、自国の医療従事者をほとんど支援できない状況にあった。
多くの先進工業民主主義国はこの結果を受け、遅ればせながら種々の対策を講じ、個別的並びに集団的な回復力を高めている。3月、米エナジーフューエルズとカナダのネオパフォーマンス・マテリアルズは提携を発表。北米と欧州におけるレアアース(希土類)のサプライチェーンを強化するとした。4月には米国と日本が「半導体など影響を受けやすい製品のサプライチェーンでの提携」で合意した。またオーストラリア、インド、日本が立ち上げた構想では、アジア太平洋地域をまたぐ様々なサプライチェーンの回復力増強を掲げている。
こうした多様な製品の流通経路を調整し直すには数十年かかる公算が大きいものの、上記の取り組みは将来を見据えた第一歩になる。
技術標準
先進工業民主主義国はまた、今後中核となる技術の標準策定でより積極的な役割を果たす構えを見せている。
1月、インドと日本は協定に署名し、情報通信技術分野での多岐にわたる連携強化で合意した。これには通信セキュリティーに関する技術も含まれる。3月にはEUと日本が、5Gに関する標準化の進展でより緊密に協力するとの宣言に署名した。同月、クアッドもテクノロジー関連の作業部会を設置。技術標準の進展で連携を強化するとした。またG7が6月のサミットで支持した枠組みは、デジタル技術の標準化における協業に関するものだった。米国とEUはこの直後に、貿易・テクノロジー評議会を立ち上げている。これは人工知能(AI)や「モノのインターネット」(IoT)分野での双方の提携強化に資するとみられる。
ここでもやはり、こうした構想が実を結ぶには時間を要するだろう。技術標準は徐々に確立されるものであり、民主主義国の間にはそうした標準がどのようなものであるべきかについて、かなり見解の相違がある。それは中国政府が広めつつある標準に対する懸念にとどまるものではない。それでもこうした国々は引き続き、テクノロジーにまつわる基準の形成に取り組まなくてはならない。そうした基準こそが、今世紀の経済発展を下支えする。
もし中国が現状の外交方針を一段と強化するなら、先進工業民主主義国の連携は高まるだろう。グローバルサプライチェーンや技術標準の領域のみならず、中国政府による人権侵害や拡大する海洋権益の主張といったより繊細な問題においてさえも一段と足並みがそろうかもしれない。中国共産党は創立から100年を迎えたわけだが、同国指導部としては今後の外交政策の修正を検討するのが賢明というものだろう。
ただ、仮に民主主義国の各政府が中国に対して強硬路線を取るとしても、企業は後に続かないかもしれない。なるほど、中国の回復の力強さからはっきりわかるように、他国にとって短期的にはもとより、中期的にも経済の対中依存度を減らすのは至難の業だろう。加えて、先進工業民主主義国がパンデミックや気候変動、その他の国境を越えた課題に取り組むなら、中国との協力という基本線の維持なくして実現は不可能だ。中国は世界のGDPの16%、人口の18%を占めている。
対中国での協力は選択的なものになる公算が大きい。首尾一貫した戦略的政策の組み合わせというよりは、問題ごとに異なるグループの国々が合意を結んでいくパッチワーク的な様相になるだろう。そうした協力関係は、米国と長年の同盟国、提携国が取り組むべき課題を指図するのではなく、我々に教えてくれるものとなるはずだ。各国が何にもまして注力するべきなのは、パンデミック後の世界がどうなろうと、短期的な危機にも、長期的な圧力にも耐え抜き回復できる、より強力な力を備えるようにしていくことだということを。
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アリ・ワイン氏はユーラシア・グループのグローバル・マクロ担当上級アナリスト。記事の内容は同氏個人の見解です。