女性は働きにくい? 現代自動車の事例から見る韓国の労働環境
ソウル/香港(CNN) ファン・ジソンさん(52)が韓国の自動車メーカー、現代自動車で組み立てラインの仕事を始めた22年前、ファンさんのような女性の労働条件は厳しかった。
女性用トイレは不足し、女性技術者は社員としてではなく、人材派遣会社から請負業者として派遣されていたため、フルタイムで働く男性社員よりも賃金が低かったとファンさんは回想する。
実際、韓国金属労組(KMWU)によると、現代自動車が1967年の創業以来、韓国で女性工場労働者を初めて直接雇用したのは今夏のこと。同社は7月、6人の女性技術者を採用した。
わずか6年前に社員になったファンさんにとって、それは不本意ながらも、ようやく勝ち取った勝利のように感じたという。
「会社が決断を下したのは、社会的圧力を無視できず、今回の採用をアピールしたかったからだろう」とファンさんはCNNに語った。
労働組合や活動家団体は長年にわたり、現代自動車に「男性優位の現場」におけるインクルージョン(包括性)を改善するよう求めてきた。
経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも賃金格差が最も大きい国のひとつである韓国で、今回の雇用に関するニュースは男女間の賃金格差について幅広い議論を引き起こしてきた。
専門家らは、韓国が世界で最も先進的な経済大国の一つであるにもかかわらず、女性は依然として男性と同じ機会が得られず、重役が集まる会議室や工場の現場で姿を見かけることはまれだと指摘する。
韓国女性政策研究院(KWDI)の研究員チョン・ソンミ氏は「職業を性別によって分類する韓国社会の習慣は依然として存在しており、現代自動車の事例はそれを反映している」と述べ、一部の職業は男性が行うべきだという韓国の文化的な意識に言及した。
現代自動車による今回の動きは、今のところ象徴的なものに過ぎないようだが、「職場における固定的な性別役割分担から脱却する流れにつながり得るため、良い兆候と見なすこともできる」とチョン氏は言い添えた。
新たなスタート
靴工場を退職後、海沿いの都市、蔚山(ウルサン)にある現代自動車で働き始めた2児の母であるファンさんは、新たなスタートを切る準備ができていた。ファンさんの最初の仕事は、主にドア枠に黒いテープを貼るという比較的単純な作業だった。
請負業者として働いていたファンさんの給料は、残業代込みで月給140万~150万韓国ウォン(現在のレートで約15万~16万円)だった。一方、フルタイムの社員(全員男性)の給料はおよそ200万韓国ウォンだったという。
2012年、韓国の大法院(最高裁)は現代自動車が男女を問わず契約生産労働者を直接雇用しない慣行は違法との判決を下し、ファンさんらはフルタイムの社員になることが認められた。
だがファンさんの場合、労組と経営側の長期にわたる交渉の末、社員への昇格が正式に実現したのは5年後だった。
現在、フルタイムの女性社員は男性と同じ賃金をもらっているという。ファンさんが働く施設には、女性用トイレが増設されたほか、女性用シャワーもある。女性の労働者も増え、ファンさんが勤務する工場では、従業員およそ3600人のうち約90人が女性だ。
現代自動車はCNNに対し、今年は女性エンジニアを採用したことを認めたが、会社の方針を理由にして詳細は明らかにしなかった。また、米国、トルコ、インドなど世界各地にある同社の工場で働く女性の人数についても公表しなかった。
米労働省労働統計局の22年のデータによると、米国では自動車産業で働く女性労働者の割合は28%弱だ。
韓国雇用労働省傘下の財団、アファーマティブ・アクションによる最も近い比較可能な政府統計によれば、自動車産業を含む韓国の重工業部門の労働力の約9~10%が女性だという。