ネアンデルタール人、シカの骨に装飾目的の彫刻 独研究
研究者らによると、オオツノジカは姿が「極めて印象的」であるだけでなく、当時アルプス以北の地域では非常に珍しい存在だった。そうした動物の骨を素材に選んだことは、遺物の持つ特別な性質を際立たせるとともに、彫刻に象徴的な意味合いがあるとする見方の裏付けにもなるという。
遺物がどのように作られたのかを理解するため、研究者らは実際にナイフ形石器を使って牛の骨を彫ってみることにした。骨は5つの異なる状態のものを用意。1つは生のまま。2つ目は室内で乾燥させたもの。3つ目は日光に当てて乾燥させたもの。4つ目は1度ゆでたもの。5つ目は2度ゆでたものとした。
論文の著者で、独ニーダーザクセン州の文化遺産研究に携わるディルク・レダー氏は「生の骨は全くうまくいかなかった。非常に硬くて、石器が滑ってばかりだった」と説明する。
5つの骨を比較すると、ゆでることで骨の表面がより柔らかく、「滑らかに」なるのが分かった。実物が彫られたときとほぼ同様に、うまく切り込みを入れることができたという。加工には全体で1時間半前後かかったとしている。
初期の現生人類による芸術表現の最古の証拠は、アフリカにおいて約10万年前のものが見つかっている。骨や象牙、シカの角、貝などで作った装飾品がそうだ。さらに文化が発達すると顔料の使用、洞窟壁画の制作、意図的な埋葬も行われるようになる。
数こそ少ないものの、考古学者らはネアンデルタール人についても同様の技術的、文化的革新が起きていた事例を欧州で発見している。具体的には猛禽(もうきん)類のかぎ爪で作った装飾品や埋葬の習慣などが挙げられる。