パリに戻ってくる世界最大のスポーツの祭典、不満の声も
エスタンゲ会長は昨年11月の公式マスコット公表の際、「目に見える障害のあるマスコットがいるのは、力強いメッセージだ」と述べ、障害者の社会参加と存在価値をメッセージとして発信していると続けた。
だが、これで障害のある来場者もほっと一安心とはいかない。市内を移動する際、障害者も利用可能な手段はほぼ皆無だろう。
1世紀以上も前に建設されたパリの地下鉄網は階段だらけでエレベーターがなく、障害のある乗客には不便なことで有名だ。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は4月、政府が15億ユーロを拠出してフランス国内のアクセシビリティーを改善し、移動が制限されている人々向けに「アクセシビリティーを100%完備した」大会にすると公言した。
障害者の権利を擁護する活動家ステファヌ・ルノワール氏は、大会中のパリ市内の障害者向けアクセスについて「かなり心配だ」という。障害者のニーズに対応した路線は1つしかなく、それも「雀の涙」だからだ。
現在パリ市内を走る地下鉄のうち、完全なステップフリーが実現されている路線は14号線のみ。パリ市内332駅のうち、開幕までに車いす対応になるのはわずか10%と推定されている。
これに対してロンドンの場合、「チューブ」と呼ばれるロンドン地下鉄網は、パリよりもずっと深く、世界最古であるにもかかわらず、2012年の開幕前に約4分の1の駅がステップフリー化した。大会が延期され21年開催となった東京もまたしかりで、20年には地下鉄駅の95%以上でステップフリー化が実現した。
パリの地下鉄で完全にステップフリーなのは1路線のみだ/Bertrand Guay/AFP/Getty Images
大会主催者はパリの主要駅と競技会場間をシャトルバスでつなぐと約束しているが、バスの利用や収容人数に関する情報が不足しているとルノワール氏は懸念を示している。とくにチケットを購入した障害者に同行する家族への情報が足りないという。
障害者の権利を訴えるフランス国内の団体「APFフランス・ハンディキャップ」のニコラ・メリル氏はこうした問題について、アクセシビリティー全般に対するフランスの考え方が原因だと言う。
障害者は「社会や医学の問題として認識され、市民とはみなされていない」と同氏。
「車いすでの移動はつねに油断できない。トラブルなしで移動できる保証はまったくない」(メリル氏)