Architecture

「セントラルパークに超高層ビル建てるようなもの」、神宮外苑の再開発計画に抗議の声噴出

再開発後の神宮外苑の予想図。事業計画の完了は2036年に設定されている

再開発後の神宮外苑の予想図。事業計画の完了は2036年に設定されている/Mitsui Fudosan

東京(CNN) 東京在住のオノ・ヒロシさんは、明治神宮外苑の再開発計画を聞いて衝撃を受けた。そこは日本の首都で最も愛される公園の一つとなっている。

神宮外苑は自分たちのものであり、自分たちの子どもたちに引き継ぐ文化遺産だと、オノさんは語った。先月、計画に反対するための集会で、CNNの取材に答えた。住民の声をきちんと聞くことなく再開発計画を押し通すのは公平ではないと指摘したオノさん。決定は密室で下されたように感じられたという。

東京の中心部にある整備されたこの地区一帯は、有名な明治神宮から東へわずかの地点に位置する。明治神宮は神道の信仰上最も重要な施設の一つだ。神宮外苑の完成は1926年。国民からの寄付と勤労奉仕によって、明治天皇を記念して設けられた。明治天皇は今上陛下の高祖父にあたる。神宮外苑にはまた、日本ラグビーの聖地である秩父宮ラグビー場や、34年にベーブ・ルースが試合をしたことで有名な神宮球場がある。

しかし、神宮外苑の中心的存在と言えば、散歩道に沿って植えられたイチョウ並木になる。木々の多くは樹齢100年を超える。再開発反対運動に参加する人々は、これらの木々が危機に瀕していると主張する。

約150本のイチョウの木々が立ち並ぶ長さ300メートルの並木道/Daniel Campisi/CNN
約150本のイチョウの木々が立ち並ぶ長さ300メートルの並木道/Daniel Campisi/CNN

今年2月、東京都は神宮外苑の区画28.4ヘクタールを再開発する3490億円規模の事業計画を承認した。完成には10年以上かかる見通しで、老朽化したラグビー場と野球場は取り壊して建て替えるという。野球場にはホテルが併設され、その隣には高さ200メートル近くの超高層ビル2棟を建設する。ビル内にはオフィススペースや高所得層向けの住宅が入る予定。このほか高さ80メートルの別のビルも建てられる。

再開発事業は3月に正式に始まった。開発業者はその後、象徴的なイチョウ並木を守り、スポーツ施設周辺の緑も保全、改善すると約束してきた。しかし、計画は世論の怒りを引き起こし、憤慨した東京の住民はデモ活動や訴訟にまで踏み切っている。2月以降、都に対し計画の支援を撤回するよう求める署名の数は22万5000筆を超えた。

先月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)は、神宮外苑に対して危機的状況にある文化遺産を守る目的で発出する「ヘリテージアラート」を出した。約3000本の樹木の伐採と、開けた公園用地の破壊につながる恐れがあるためとし、これによって「文化遺産の不可逆的な破壊」をもたらすと警鐘を鳴らしている。

東京都はイコモスのアラートに対して「一方的」との見解を示したものの、開発業者側に対し、伐採着手までに「具体的な見直し案」を提示するよう求めた。先月29日、開発を主導する三井不動産は回答を発表。今後樹木保全の取り組みを詳しく説明する意向を示した。具体的な計画としては新たな木を植え、神宮外苑を今後とも持続可能なものとして次の100年間につないでいくとしている。

人々の森

日本イコモス国内委員会によると、東京都心の新宿区と港区にまたがる神宮外苑は、人々のための森として考案された(一方、明治神宮のある神宮内苑は神聖な「永遠の杜(もり)」を敷地内に有する)。

その創設から第2次世界大戦の終結まで、神宮外苑は日本の政府が保有していた(管理は明治神宮が担った)。日本の降伏後は占領した米国が管理下に置いたが、やがて明治神宮の指導者らが一般に公開し続けることを条件に管理責任を負うようになった。雑誌「建築ジャーナル」の編集長で再開発計画を巡る活動に携わる西川直子氏が説明した。同氏は、再開発の商業的な性質が神宮外苑を公共の空間として維持する約束に違反していると考えている。

しかし造園家で明治神宮総代のメンバーでもある進士五十八(しんじ・いそや)氏は計画について、神社が収益を生み出すのに極めて重要だと主張する。とりわけ日本の戦後の憲法では政教分離の一環として、神道の神社を所有するいわゆる「宗教法人」が政府から直接資金を受け取れないよう規定されていることを根拠に挙げる。

神宮外苑の景観保全を訴えるデモに参加する人々=9月15日撮影/Daniel Campisi/CNN
神宮外苑の景観保全を訴えるデモに参加する人々=9月15日撮影/Daniel Campisi/CNN

進士氏によれば、現在野球場やイチョウ並木沿いのカフェ、明治記念館からの賃貸収入が法人の売り上げの約9割を占める。加えて民間資金も不可欠だという。野球場が改修のため閉鎖されれば、たとえ一時的でも神宮の指導者らの資金調達力に深刻な影響を及ぼす。法人業務と永遠の杜を維持するにはこれらの資金が欠かせない。

CNNへの電子メールで、東京都庁は開発業者らが神宮内苑・外苑の保護と保全を約束していると表明。一方で必要な改修、改善を実行し、これらの施設へ将来世代がよりアクセスしやすくする方針だという。三井不動産は電子メールで、個々の樹木を大事に扱い、可能な限り保護と植え替えを行うと述べた。

とはいえ、それで誰もが納得しているわけではない。最近東京で開かれた記者会見で、与党自民党の船田元・衆院議員は、明治神宮が財政を公表していないことに言及。そのため法人として、内苑を守る目的から外苑を利用して金を稼いでいるとの印象を与えていると指摘した。

文化財か、商業拠点か?

現在もプロ野球のヤクルト・スワローズの本拠地として使用されている神宮球場は、スポーツファンの間でのある種の象徴であり、複数の漫画・アニメ作品の舞台としても描かれている。

東京大学で景観計画や自然観光について研究する山本清龍准教授によると再開発への反対の機運は高まり続けているが、その理由は外苑の文化財としての価値を巡って当局側の姿勢に明確さが欠けているためだという。

山本氏は、近接する新国立競技場に絡む最近の問題に言及した。新国立競技場は20年の東京夏季五輪のために建設された。一部からは炭素集約的なコンクリートの使用を避けたとして称賛を受けたものの、代わりに木材を使用したことで1500本前後の樹木が伐採され、およそ1570億円のコストがかかったと推定されている。

新国立競技場と並んだ新たなラグビー場の完成予想図。デザインは変更される可能性も/Chichibunomiya Rugby Stadium Co., Ltd.
新国立競技場と並んだ新たなラグビー場の完成予想図。デザインは変更される可能性も/Chichibunomiya Rugby Stadium Co., Ltd.

東京に拠点を置く経営コンサルタントで、前出の署名活動を組織したロッシェル・カップ氏によれば、人々は樹木を犠牲にして大規模ビルの建設計画を進める現状にうんざりしているという。また都の当局者らについて、五輪のスタジアムを口実に、かつては神宮外苑に適用されていたビルの高さ制限を撤廃したとも同氏は主張。このことが、計画された地点での超高層ビル建設に道を開いたと、自身の要望書の中で述べている。

日本イコモスの石川幹子理事は神宮外苑での計画について、ニューヨークのセントラルパークに超高層ビルを建て、パーク内にあるアメリカニレの並木道の隣にスタジアムを建設するようなものだとの認識を示した。同氏が危惧するのは、野球場を新たに建てる際、深さ40メートルの基礎をイチョウ並木の一方のたった6メートル先に設置する必要がある点だ。実現すれば基礎が木々の根に干渉する他、日光や水も届かなくなる恐れがあるという。

日本政府と地方自治体、開発業者、住民が同じテーブルに集まり、この大切な公園を守るために何をすればいいのか考えるべきだと、石川氏は訴えた。

未来への青写真

東京都は都内の約760ヘクタールの土地を保全地域に指定している。域内の保護区や緑地帯は生物多様性の促進に寄与する。しかし世界都市文化フォーラムが公表したデータによれば、東京都内の土地に公園や庭園が占める割合は7.5%でしかない。ニューヨークとロンドンはそれぞれ27%、33%となっている。

都内の数少ない緑地を守るには、現状を上回る法的保護が必要だというのが、保全活動に携わる人たちの主張だ。

神宮外苑の再開発事業は、3月に正式に開始した/Daniel Campisi/CNN
神宮外苑の再開発事業は、3月に正式に開始した/Daniel Campisi/CNN

先週、前出のカップ氏は別の要望書を提出した。今回は都に対し、神宮外苑のラグビー場と野球場を取り壊して建て直すのではなく、改修するよう求める内容だ。カップ氏も日本イコモスの石川氏も共に、現地のイチョウ並木を文化財保護法に基づく「名勝」に指定するよう当局に強く訴えている。

開発業者は以前、伐採するより多くの樹木を移植すると約束していた。しかし「建築ジャーナル」の西川氏は、数十年そこにある木々を若木と入れ替えることの価値に疑問を呈する(複数の研究によると、大きく育った古い木々は大気中の二酸化炭素の吸収量が若い木々に比べて格段に高い)。世界が気候危機に対峙(たいじ)する中、日本は都市部の自然保護により大きな価値を見出さなくてはならないというのが同氏の考えだ。

たとえば閉鎖されてもう稼働しない工場がある地域なら再開発するのは合理的に思えるが、神宮外苑は100年を超える文化的な価値を有する場所だと西川氏は指摘。そのような文化遺産になぜ手を加える必要があるのかと、問いかける。

西川氏はさらに神戸の甲子園球場にも言及。1924年に建てられたこの野球場は過去15年以上にわたって丹念に改修工事が行われてきた。歴史的建造物は取り壊さずに更新できることを示す事例だと指摘した。

日本イコモスの石川幹子理事は再開発計画について、ニューヨークのセントラルパークに超高層ビルを建てるようなものだとの認識を示した/Daniel Campisi/CNN
日本イコモスの石川幹子理事は再開発計画について、ニューヨークのセントラルパークに超高層ビルを建てるようなものだとの認識を示した/Daniel Campisi/CNN

自然公園の専門家である東大の山本准教授は、公共の施設を(取り壊して作り直すのではなく)保存することで、日本における人々の建築物に対する認識も変化するかもしれないと話す。改修にもっと重点が置かれれば、寿命を設定した上で建物を設計する慣行に異を唱える動きも活発になる可能性があるという。こうした日本での従来の建築手法は「スクラップ・アンド・ビルド」の名称で知られる。

一方、再開発に反対する人々は、神宮外苑の未来に関して公に話し合いが行われていない状況が開発業者と自治体への不信感を募らせていると主張。それにより国内の他の自然地域に対する懸念も高まっていると訴える。

カップ氏はCNNの取材に答え、「(開発業者が)現行の計画で一般の人々の心をつかむことは絶対にない」「彼らは構想を一度白紙に戻し、もっと民主的な手順を踏んで神宮外苑の未来を決定する必要がある」と語った。

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