Beauty

新型コロナで風景一変、「新常態」に適応するヘアサロン

新型コロナウイルスの流行でヘアサロンの風景は一変した

新型コロナウイルスの流行でヘアサロンの風景は一変した/Courtesy Youssef Barber

ヘアサロンはとりわけ人と人との距離が近い環境であり、濃厚接触は避けられない。スタイリストは指の腹で頭皮をマッサージし、理容師は客に密着して生え際を整える。

だが、そんな働き方に急ブレーキがかかった。新型コロナウイルスによって多くの国で理美容店が休業に追い込まれるなか、スタイリストと常連客の絆は一時的に絶たれ、店内の一体感や交流も損なわれた。

米アトランタからアラブ首長国連邦(UAE)ドバイに至る場所で、多くの人は美容師やブレイダー、カラーリストに頼って、自尊心のよりどころとなる対社会的なイメージを作り上げている。

しかし理美容業界にとって、髪はアイデンティティーや創造性の問題にとどまらない、ビジネスの問題でもある。世界各地で封鎖措置が緩和されるなか、サロンのオーナーや従業員も仕事に復帰しつつあるが、職場の様子は様変わりした。

英国のブレイダー、シャーディー・クライン・トマスさんが手掛けたヘアスタイル/Courtesy Sade Cline-Thomas
英国のブレイダー、シャーディー・クライン・トマスさんが手掛けたヘアスタイル/Courtesy Sade Cline-Thomas

「まるで新しい店を開いたみたい」。そう語るのはカラーリストのマリア・ダウリングさんだ。1カ月の休業が明けた4月26日、自身の名前を冠したドバイの店を再開した。

封鎖中、休業に伴う金銭負担はスタイリストとオーナーの双方にのしかかってきた。ただ、あらゆる業界と同様、足元の状況は立地から企業構造に至るさまざまな要因に左右される。

大型チェーン店や資金力豊富な店はしばしばスタイリストを従業員として雇うが、業界の大半を占める独立系中小店は個人事業主に依存している。こうした場合、スタイリストはオーナーに使用料を払って店内の席を借り、オーナー側はこの使用料を自分の収入や諸経費に充てることが多い。

パリに店を構えるデルフィヌ・クルテーユさんは休業中、フランスの中小企業支援策のおかげで、賃料と公共料金の支払いを猶予されていた。従業員も国の部分的失業制度の一環で給与の84%を受け取った。対照的に、ドバイでは政府が中小企業を支援しなかったため、ダウリングさんは自ら人件費や諸経費を支払うことになった。

パリにあるサロン「デルフィヌ・クルテーユ」/Courtesy Hervé Goluza
パリにあるサロン「デルフィヌ・クルテーユ」/Courtesy Hervé Goluza

在宅勤務の選択肢がなく、企業や政府の支援も得られない以上、スタイリストやオーナーにとっては職場復帰が前に進む唯一の道だ。

米ジョージア州のケンプ知事は、封鎖開始からわずか3週間後の4月24日に企業活動を再開する決定を下して物議を醸したが、アトランタの2カ所に理髪店を構えるユセフ・バーバーさんはこの変化を歓迎した。

ジョージア州アトランタに店を構える「ダイアモンドカッツ・バーバー・スタジオ」/Courtesy Youssef Barber
ジョージア州アトランタに店を構える「ダイアモンドカッツ・バーバー・スタジオ」/Courtesy Youssef Barber

フリーで活動する理容師が席代を払うことができず、客もカットに来店できない状況では、営業再開以外に費用を支払う方法は見つからなかった。バーバーさんは米中小企業庁の緊急貸し出しプログラムを通じて融資を申し込んだものの、支援は得られなかった。

だが再開後、「ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)」を導入したことで、いつも活気に満ちていた店の雰囲気は一変した。理容師はマスク着用が必須で、客にも全員にマスクが配られる。500平方フィートにつき10人以上の入店を禁じる新たな規則に従って、予約なしの来店者は待合スペースがいっぱいの場合、理容師の準備ができるまで店外で待つことを求められる。

5月11日に再開したクルテーユさんのパリの店では、スタイリストはマスクだけでなくフェースシールドの着用も義務づけられている。マスクを持参しない客は入店を断られる場合もある。

ドバイにある自身のサロンで写真に収まるマリア・ダウリングさん/Courtesy Maria Dowling
ドバイにある自身のサロンで写真に収まるマリア・ダウリングさん/Courtesy Maria Dowling

中国では世界的チェーン店の「トニー&ガイ」が再開に当たり、マスク着用や予約時間の制限といった政府から要請された衛生対策に加え、自主的に新たな措置を導入した。スタイリストが客の健康状態を大ざっぱに把握できるよう、予約はすべてビデオで確認する。最近海外渡航した客は、日付の新しい診断書を見せなければならない。

北京のショッピングセンターに立地する「トニー&ガイ」/Courtesy Toni & Guy
北京のショッピングセンターに立地する「トニー&ガイ」/Courtesy Toni & Guy

こうした措置が客の不安を和らげる助けになればと、同社の経営者は話す。

不安を抱えているのはスタイリストも同じだ。バーバーさんによると、常勤の理髪師の多くは営業再開に伴い復帰したが、中には仕事を断る人もいた。感染リスクを避けるため、自宅待機の期間を延ばすという判断だ。

中国で営業を再開した「トニー&ガイ」のサロンでは新しい予防措置が導入されている/Courtesy Toni & Guy
中国で営業を再開した「トニー&ガイ」のサロンでは新しい予防措置が導入されている/Courtesy Toni & Guy

英エセックスを拠点に活動するブレイダー、シャーディー・クライン・トマスさんも、こうした不安を抱えている。トマスさんはロンドン南部の店でアルバイトとして働くが、最も収入が多いのはフリーランスとして行う出張サービスで、最大で1日6時間を顧客の家で過ごす。

感染リスクを減らすため、英国でサロンの営業が再開されても、出張サービスの再開は見合わせる可能性が高い。フリーの顧客には勤務先の店を紹介するつもりだという。この決断は収入面ではマイナスだが、ワクチンが開発されるまでは現状を受け入れるしかない、と感じている。トマスさんと母親は祖母と接する機会が多いが、その祖母は認知症を患いながら1人で暮らす高リスク者だ。

英国のブレイダー、シャーディー・クライン・トマスさんは、出張サービスを見合わせることを余儀なくされている/Courtesy Sade Cline-Thomas
英国のブレイダー、シャーディー・クライン・トマスさんは、出張サービスを見合わせることを余儀なくされている/Courtesy Sade Cline-Thomas

ドバイにあるダウリングさんの店では客足の戻りが鈍い。1日の平均予約数は以前の35件から15件に減った。

夏までに通常の客足が戻るか、クリスマスにどんな衛生対策を講じることになるか、今はわからない。それは考えないようにしていると、ダウリングさんは語る。

「いつもなら日ごとに状況が変わると言われるけど、ここでの変化は分刻み」「店の女の子には、自分たちにできることをして、営業を続けられるように願おうと言い聞かせている。前向きな気持ちで乗り切るしかない」

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]