ANALYSIS

米民主党の恐れる「MAGA三冠」、バイデン氏が上下院の足引っ張れば実現も

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バイデン氏への逆風を受け、民主党内では連邦議会での支配喪失に対する懸念が噴出/Mandel Ngan/AFP/Getty Images

バイデン氏への逆風を受け、民主党内では連邦議会での支配喪失に対する懸念が噴出/Mandel Ngan/AFP/Getty Images

(CNN) 米国のジョー・バイデン大統領の適合性をめぐり、民主党の面々が慌てふためいている。一番の焦点は、バイデン氏がドナルド・トランプ前大統領を打破できるかどうかだ。

だが議員やストラテジストの不満の声から、別の事実も透けて見える。11月には米連邦議会上下院の選挙も行われるのだ。有権者がバイデン氏に背を向ければ、全米に波紋を呼び、共和党に連邦政府の完全支配を許すことにもなりかねない。

ホワイトハウスとバイデン陣営の火消し作業

臨機応変な対応が健在であることを証明するために、今後バイデン氏は記者団との取材や議員との交流を図るだろう――同氏が先週の討論会以来、いまだ手を打っていなかったのは驚きだ。

今週は不安を抱える民主党州知事らとの会談が予定されている他、週末にはABCニュースのジョージ・ステファノプロス氏とのインタビューが放映される。また来週予定されている北大西洋条約機構(NATO)首脳会談では、バイデン氏主宰の記者会見も行われる。

足手まといのバイデン氏に撤退を促す議員の声

すでに民主党内では実際にほころびが見え始めている。テキサス州選出のベテラン下院議員、ロイド・ドゲット氏は今月2日、民主党の連邦議員として初めて不本意ながらもバイデン氏の大統領選撤退を呼びかけた。

ドゲット議員はバイデン氏の愛国心に訴えかけ、バイデン氏が上院選挙のカギを握る州で民主党候補者の足を引っ張っていると指摘した。本来であれば、現職大統領は議会選挙の候補者を牽引(けんいん)する立場だ。

民主党では今年、討論会でバイデン氏がぶざまな姿を見せる以前から、これとは逆のことが生じていた。すでに望み薄となった上院での過半数維持という民主党の期待に、バイデン氏が足手まといになるかもしれない。

上院での過半数維持も危うい状態

現在民主党は派閥を組む無党派議員も含め、上院100議席中51議席でかろうじて過半数を維持している。今後の行方を左右する複数の選挙でも劣勢だ。

11月の議会選挙では、現在民主党が保持する23議席が投票にかけられる。対する共和党は11議席だ。ウェストバージニア州選出のジョー・マンチン議員は再出馬せず、すでに民主党を離党して無党派として登録済みだ。同氏が保持する民主党の議席は共和党側に移る公算が大きい。

数十年にわたる影響

イリノイ州選出の民主党下院議員マイク・キグリー氏は、バイデン氏に選挙戦撤退を促してはいないものの、選挙戦を続行するか否かという大統領の決断が大統領の座や個人のレガシー以外にも影響するだろうと指摘した。

「大統領の決断は今後4年間ホワイトハウスで誰が采配を振るうのかだけでなく、上院議会の構成、下院議会の構成も左右する。今後数十年にわたって影響が及ぶだろう」(キグリー議員)

現在下院における共和党のリードは219対213と僅差(きんさ)であることから、民主党にとって過半数獲得が射程距離に見えてくる可能性もあった。

「チームスポーツ」で助けが必要なのはバイデン氏

バイデン氏のかつての上司、バラク・オバマ元大統領は先月28日にニューヨーク市で行われた政治資金パーティーに出席した。パーティーにはニューヨーク出身で、下院多数派の議長になるとの呼び声も高い民主党幹部のハキーム・ジェフリーズ下院議員も出席していた。

CNNも報じたように、オバマ氏は総選挙を大統領がキャプテンを務める「チームスポーツ」にたとえたが、今年の選挙では議会選挙が有権者を投票に駆り立てる動機になるはずだと発言した。

「我々は、行政府として巨大な力を持つホワイトハウスを押さえなくてはならない」とオバマ氏。「何としてもホワイトハウスを再び手中に収め、ハキーム・ジェフリーズ議員を下院議長に据えなければならない。そうした必要性が十分な動機付けになるはずだ。こうした方面で我々がきっちり仕事をすれば、おそらくバイデン氏の再選に向けた選挙活動にも最高のサポートになるだろう」

バイデン氏の当選には他の民主党議員の後押しが必要になることを、それとなくほのめかした形だ。

「MAGA三冠」の脅威

今月1日、民主党のストラテジストでCNN政治解説員でもあるポール・ベガラ氏はCNNの番組「ザ・リード」に出演し、バイデン氏に対するプレッシャーは始まったばかりだと述べた。7月4日独立記念日に、議員は各々の選挙区で有権者と対話することになるからだ。

「おそらく有権者からは、気は確かか?と言われるだろう。民主党はバイデン氏がトランプ氏に敗北するだけでなく、上下院を道連れにするのではないかと懸念している。そうなればMAGA(トランプ氏が唱えるスローガン『米国を再び偉大に』の頭文字)三冠が実現する――トランプ氏本人も、少なくとも1日は独裁者になると言っている」と、ベガラ氏は司会のジェイク・タッパー氏に語った。

議会を支配した時期ほど大統領は実力を発揮

近年、大統領は議会で過半数を獲得した時期に後々まで影響を及ぼす成果を残している。ほとんどの場合が大統領就任直後だ。

バイデン氏が巨額のインフレ削減法、超党派の賛成で可決したインフラ再建法、退役軍人の医療補助を拡大するPACT法などに署名したのは就任最初の2年間、ちょうど民主党が上下院とホワイトハウスを支配していた時期だった。

トランプ氏が恒久的な法人税減税を法制化したのもやはり就任から最初の2年間で、共和党がホワイトハウスと上下院を支配していた。

オバマ政権下での医療保険制度改革法も同じ。今月2日に制定から60周年を迎える公民権法も同様だ。

とはいえ、上院で議事妨害をかわすのに十分な超過半数を確保し、重要かつ包括的法案を難なく可決する可能性は民主・共和ともに低い。だが当然ながら、連邦議会を支配できれば建設的な4年間の土壌を作り出せる。

すでに方々で報じられているように、トランプ氏と支持者は11月の選挙で当選したあかつきには政権の態勢を変えるつもりだ。上下院を押さえれば、共和党はさらに多くの優先課題を恒久化できるだろう。

「余計なことはせず、ありのままの自分で」

数十年にわたって下院での過半数獲得と維持に専念してきたナンシー・ペロシ前下院議長のような重鎮でさえも、バイデン氏はまだまだやれることを民主党員と有権者に証明するべきだと語った。ペロシ氏はバイデン氏に、一連のインタビューやタウンホール集会への出席を勧めた。

ペロシ氏は2日、MSNBCとのインタビューに応じ、「余計なことはせず、ありのままのジョーでいればいい」と発言した。「自分の価値観、知識、判断力を示すのだ」

だがペロシ氏も討論会でのバイデン氏のパフォーマンスについては、「病気の症状なのか、それとも体調の問題なのか、疑問に思うのは当然だ」と述べた。その後すぐ同氏はこうした疑問がトランプ氏にも当てはまると続け、理由としてトランプ氏が討論会でたびたび嘘(うそ)を繰り返した点を挙げた。とはいえ、決して大統領としてのトランプ氏の技量を安易に支持しているわけではない。トランプ氏もバイデン氏も、何らかの認知検査を受けてもいいのではとペロシ氏は発言した。

「精神状態や健康に関して、いずれの候補者も世間が望む検査を受ける義務がある――二人ともだ」(ペロシ氏)

本稿はCNNのザカリー・ウルフ記者による分析記事です。

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