ウクライナへ供与のパトリオット、防空効果は「限定的」 米専門家
(CNN) ウクライナのゼレンスキー大統領の電撃的な訪米に合わせ米政府が初めて提供に応じた地対空ミサイル「パトリオット」について軍事専門家たちの間には、防空網の強化につながる価値ある装備品だが全ての弱点を克服し得る効果はもたらさないとの見方が出ている。
米国務省によると、同ミサイルはウクライナへ供与済みの他の防空兵器と比べ、かなり高い空域での巡航ミサイル、短距離弾道ミサイルや航空機の撃墜が可能。
CNNの取材に以前応じた米退役少将によると、命中精度が増して撃墜の確率が高まる。シンクタンク「米戦略国際問題研究所(CSIS)」は防空兵器の中では最も秀抜な性能を誇ると形容した。
「1基で監視、追跡や応戦の機能をこなす」とし、空中からの脅威に対処する手順はほぼ自動化され、人間の関与は操作要員の「発射の決断」のみになっているとした。
ウクライナは再三、長距離用の防空兵器では最も高性能な一つと判断する米陸軍が装備するパトリオットの譲渡を要請。米側は侵略が始まってからの10カ月の間、これに応じてこなかった。バイデン米政権の高官はCNNの取材にウクライナの地上戦などで起きている事態が要請を受け入れる決定に影響したと認めた。
ロシア軍はここ数週間、冬季の到来や気温低下を見越しウクライナ内の送電網や重要インフラへの攻撃に注力し始めていた。ゼレンスキー大統領はバイデン大統領にウクライナ内のエネルギー関連インフラの半数が破壊されているとの窮状を訴えてもいた。
この事態はウクライナ側による米国へのパトリオット供与への求めをさらに強める結果となっていた。米陸軍は同ミサイルを「全天候型の迎撃兵器」とも称している。
一方で、米欧州軍陸軍のハートリング元司令官はパトリオットがウクライナ内で果たし得る機能について非現実的な期待感が出ている可能性があると釘を刺した。米側が提供に合意したとしても即座に実戦に投入できるわけでもないと指摘した。
操作訓練には数カ月要するとし、米軍では同ミサイルの維持管理や修理要員として訓練に約1年かかっているとの現状にも触れた。また、ウクライナに引き渡したとしても防衛範囲が全土に及ばない事実に注意を向けた。
戦場の周辺などで移動できる兵器でもないとし、首都キーウのような戦略的に最も重要な場所に据える兵器と強調。「ウクライナとロシアとの間の500マイル(約805キロ)にも及ぶ国境線の全域を警戒できるミサイルシステムと考えるのならその性能を知らないことからくる見方だ」とも突き放した。
CSISのミサイル防衛問題担当の幹部もパトリオットは戦闘の様相を一気に変える兵器にはならないと主張。国土の比較的狭い部分の防御に資するだけとした。
米陸軍によると、最大8発のミサイルが装着可能なパトリオット1基の運用には約90人の兵士、コンピューター、交戦統制システム、レーダーや自家発電機などが必要となる。
CSISは最近、パトリオットのミサイル1発の発射のコストは約400万ドルとの報告書を発表。ハートリング元司令官はそれほど高価なミサイルがロシアがウクライナへ撃ち込む全てのミサイル撃墜に使われることはあり得ないとも分析した。
パトリオットはドローン(無人機)や小型の弾道ミサイルを追いかけるシステムではないとし、これら飛行体への追跡は間違いなく可能だが費用対効果の問題があることにも言及した。
「ロシアが購入している2万ドルのドローンや10万ドルの弾道ミサイルを撃ち落とすために300万~500万ドルのロケットを放つことは投資の見返りとならない」と説いた。
その上で同氏はウクライナ側にとっては攻撃作戦の立案や遂行などがパトリオットの調達以上に重要との見方を示した。同ミサイルは防御的な性格を持つ兵器であり、弾道ミサイルや航空機への対抗手段であると強調。「戦争は防衛能力でなく攻撃能力によって勝てる」と続けた。
パトリオットはイスラエル、ドイツや日本など米国の同盟国が既に導入。ロシアの侵略を受けウクライナの隣国ポーランドにも自衛手段の強化を助けるため引き渡されていた。