共通点は「愛国心」、隣国の戦争を受けて増える志願兵 ポーランド
(CNN) 凍てつく2月の朝、ポーランドの首都ワルシャワの軍事基地では、民間人が兵士になるための訓練を受けている。
銀行員や高校生、オペラ歌手の卵など、軍服に身を包んだ数十人が射撃練習や戦術訓練をこなし、戦場での連絡方法などを学んでいる。
「気づくことが備えの第一歩だ」と、グループの指揮を取るマーク・ザウスキ少尉はCNNに語った。「ここでは軍の仕組みや軍服の着方、立ち居振る舞い方を教えている。かなり短期間で民間人が素晴らしい兵士に成長している」
数日もすれば、ザウスキ少尉の新兵はポーランドの領土防衛隊(TDF)の基礎訓練を終え、歩兵隊の一員として卒業する。その後ふだんの仕事に戻り、今後2年間は月に1度の週末訓練を受けることになる。ポーランドのTDFは米国の州兵に相当する。
ロシアのウクライナ侵攻からほぼ1年、隣国の戦争に対してポーランドの人々は、かつて例を見ないほど力を結集している。ポーランドは現在、約160万人というウクライナ難民を受け入れており、これは世界最多だ。ポーランドは西側同盟国からの物資や武器の主要な供給窓口でもある。北大西洋条約機構(NATO)でも重要な役割を果たしている。
そうした防衛の要がポーランド第5の軍事組織であるTDFだ。この1年で入隊志願者が急増しているが、その背景は本業を抱える人々がウクライナ侵攻を呼び水としてとらえたことがある。TDFの兵士はポーランド全体の軍事活動に貢献する他、緊急時の対策も支援する。ポーランドのブワシュチャク国防相は、今後数年のうちに志願兵が3万人から5万人に増加するとの見方を示す。
「この1年あまりで起きた悲劇の数々で、大勢の気持ちが変わった。兵役への関心もおよそ3割増強まっている」とザウスキ少尉は言う。
2人の子どもを持つメアリーさん(36)は、米銀行大手でマネーロンダリング(資金洗浄)対策をしているが、今はそうした生活と戦場での責任を両立させている。メアリーさんによれば、ウクライナでの戦争ですぐに志願を決断した。
「人生のある時期に、こうして仕事をしながら兵士になれる機会があり、とてもうれしい。兵役と銀行の仕事を天秤(てんびん)にかけなくて済む。多くの人々にとって、素晴らしい機会になった」(メアリーさん)
修士課程で国家安全保障について学んでいるパベルさん(24)は、春休みを利用して16日間の訓練に参加している。
「心のどこかで(TDFへの入隊を)したほうがいいだろうとは思っていた。だが侵攻の後は必要だと感じた。何か行動を起こさなくてはと」とパベルさんは言い、「特にポーランドに何かあった際に」自分や家族を守る術を身につけなければならないと感じたと説明した。
オペラ歌手を目指すローラさん(22)の場合は家族総出で加わっている。双子の姉妹はすでに入隊し、母親も入隊手続きをしているところだ。ローラさんはCNNの取材に、ポーランドの若者の多くが侵攻でショックを受けて、力になりたいと考えていると述べた。ローラさんも数日前にTDFで訓練を受けるまで、一度も銃を扱ったことがなかった。
ローラさんは、オペラ歌手と兵士は「まったく畑が違うが、過程は似ている」と言う。
「オペラ歌手になる訓練を受けているので、努力や訓練の重要性、向上するための過程はよく知っている。ここでも同じことが言える。同じパターンで取り組んでいる」と、通訳を介してローラさんは語った。
ロシアのプーチン大統領がウクライナにいわれのない戦争を仕掛けたことが、欧州で民間人に対して過去数十年見られなかった準備態勢を促し、新たな世代が参加している。
ザウスキ少尉は志願兵が訓練を受ける中、「経歴や社会経済の状況、教育水準、職業にかかわらず、都市部に住む人も、郊外や地方に住む人々も、みなポーランドを愛している。みな母国に仕える以上の名誉はないと言って、国旗を肩につけて奉仕したいと望んでいる」と語った。
少尉はこう続けた。「おかげで我々は友好国と仕事がしやすくなった。米国やカナダをはじめとする部隊との演習にいつ派遣されようとも、すべての兵士に共通するのは、誰もが国を愛しているという点だ。愛国心が共通点だ」