虐殺を目撃、音楽フェスの現場を再訪した生存者の思いは
イスラエル・レイム(CNN) アリザ・サミュエルさん(24)は地面に散らばる残骸の間を慎重に歩きながら、ブレスレットを拾い上げた。さらに進むと、NOVAミュージックフェスティバルの期間中に手作りされた小さな粘土のアクセサリーが散らばっていた。
「人々はすべてを置いて逃げ出した」とサミュエルさん。「(イスラム組織ハマスは)すべてめちゃくちゃにした」
イスラエル南部レイムで野外フェスティバルの来場者がハマス戦闘員に虐殺されて1カ月近くが経過した。それ以来、サミュエルさんが家の外に出るのはこれが初めて。友人4人が殺される瞬間を目の当たりにした現場を、CNN取材班とともに訪れるためだ。史上最悪規模の先月7日の奇襲で、イスラエル国内では少なくとも1400人が死亡。フェスティバル会場では260体以上の遺体が発見された。
「もう一度あの場所に行くのが自分にとっては大事だ」とサミュエルさんは言う。「たとえどんなにつらくても、ここで起きたことを世界に知ってもらわないと」
だがほどなく、当時の恐怖が一気に呼び起こされた。
「全てを聞いた」とサミュエルさん。「叫び声、自転車の音、それから銃声」
心に傷を負いながらも、サミュエルさんは自らの経験を整理するかのように、頭の中で何度も繰り返した記憶を振り返った。
「友人の1人が命乞いをしているのが見えた」とサミュエルさん。「殺さないで、殺さないで、殺さないでと懇願していたのに、相手は気にかけず笑っていた」
夜が明けてまもなく、友人4人が砂煙の舞う砂漠に1列に並んでひざまずかされたようすをサミュエルさんは詳しく語った。
友人らが最後に聞いた戦闘員の言葉は、樹木の陰に隠れていたサミュエルさんの耳にも届いた。
「ごゆっくり」とハマス戦闘員は英語で笑いながら言うと、至近距離から男性3人、女性1人を射殺した。
数時間前、友人たちはフェスティバルの会場から数百メートルほど先で踊りながら、みんなで楽しんでいた。ユダヤ教の祝日「仮庵(かりいお)の祭り」に合わせ、「団結と愛」の祭典と題したイベントだった。
だが、パーティーに集まった数千人の若者は結果的にハマス戦闘員の格好の餌食となってしまった。イスラエルの防衛線を突破し、パラグライダーやオートバイでフェスティバル会場に乗り込んだ戦闘員は来場者を殺害し、残りを拉致した。
その後イスラエルは奇襲を計画実行したパレスチナ自治区ガザ地区を支配するハマスに宣戦布告。イスラエル国防軍(IDF)は空爆、砲弾、戦闘ヘリでガザ地区に大規模な爆撃を開始し、続いて地上戦を展開した。
攻撃対象はハマス幹部や戦闘員が身を潜め、武器の隠し場所にもなっているガザ地区の広大な地下トンネル網だとIDFは発言しているが、猛攻撃はパレスチナ民間人にも甚大な被害をもたらしている。ハマスが支配する同地区の情報源をもとにパレスチナ保健省が公表した最新のデータによると、先月7日以来ガザの死者数は9100人を超えた。その大多数が女性や子どもたちだ。