虐殺を目撃、音楽フェスの現場を再訪した生存者の思いは
「まさに大虐殺」
サミュエルさんがトラウマを乗り越える手助けをしているのが、いとこのシュロモ・ゲンスラー医師だ。集中治療室(ICU)を担当する同医師は、今月7日現場に急行して救命措置に当たった1人だ。
現場の再訪中、ロケット警報が鳴り響き、全員地面に伏せた。サミュエルさんはパニックを起こし、呼吸は浅く、全身を震わせていた。ゲンスラー医師はすぐにサミュエルさんをなだめ、今は安全だから大丈夫だと言い聞かせた。
現在もハマスの奇襲で負傷した患者を治療しているゲンスラー医師は、ハマスの攻撃中にトリアージを行った場所に再び足を踏み入れた。あの夜作業した場所には、今も医療器具や薬莢(やっきょう)が散らばっていた。
「まさに大虐殺だった。あんな光景はいままで見たことがない」(ゲンスラー医師)
最初に搬送された遺体を目にした時、「この先どんなことが待っているのか、まったく分かっていなかった。それから数百体もの遺体が休むことなく搬送された」
ゲンスラー医師は近くの「家々や村が炎に包まれる」ようすを目にした。携帯ロケット弾で吹き飛ばされた民間人の車の隣には、複数の遺体が横たわっていた。
ハマスの思想により被害者はユダヤ人であるために狙われた。また「事前に計画されていた」証拠もある。これらをふまえれば、今回の事件はより一層胸をつまされると医師は付け加えた。
「ここに来た兵士の1人が身体を震わせていた」とゲンスラー医師。「私はただ兵士を両腕に抱きかかええた。大男が、私の腕の中で泣いていた。私はきっと大丈夫だと言った」
イスラエルが国境を越えて戦闘を展開する今、ゲンスラー医師は目の前で繰り広げられる人道危機のようすを逐一追っている。「苦しんでいるガザの子どもたちを思うと、涙が出る」と医師は言い、勤務する病院でも病気になったガザ地区のパレスチナの子どもをよく治療していたと付け加えた。
それでも、ゲンスラー医師は「無残に殺された人々」の名誉のためにも、先月7日の出来事を世界に発信したいと考えている。
生き延びた人々は、銃弾に倒れた友人に対して「生存者の罪悪感」を感じ始めている。
「申し訳ない思いでいっぱいだ、そばにいて命を救って開けられなかった。神様は救ってくれなかった」とサミュエルさん入った。
「みんな素敵な人たちだった。みんなの名に懸けて、生涯自分にできることは何でもしていくつもりだ」(サミュエルさん)