ANALYSIS

イーロン・マスク氏は西洋文明を「共感」から救いたい

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米上院の共和党議員らとの会食を終えて連邦議会を後にするイーロン・マスク氏/KENT NISHIMURA/REUTERS/REUTERS

米上院の共和党議員らとの会食を終えて連邦議会を後にするイーロン・マスク氏/KENT NISHIMURA/REUTERS/REUTERS

(CNN) 米国民は依然として闇の中にいる。起業家のイーロン・マスク氏が政府効率化省(DOGE)を使ってやっていることは、どの領域にどれだけの規模で影響を及ぼすのか、誰にも分からない。DOGEは現在、政府のサイズを劇的に縮小し、1兆ドル(約147兆円)を超える水準での政府支出削減を目指している。

しかし何がマスク氏を突き動かしているのかについては、ある程度見通せる。つまるところそうした取り組みは、マスク氏の言う「文明が抱える自殺同然の共感」との戦いなのだ。

先月28日に配信されたポッドキャスト番組司会者、ジョー・ローガン氏との3時間のインタビューで、マスク氏は自らに深く根差した信条について語った。その根底にあるのは、民主党が正式書類のない移民を可能な限り受け入れようとしているとする陰謀論だ。それによって民主党は米国政府を永遠に乗っ取れるのだという。

「彼らが次の4年間を手にするなら、激戦州で十分な数の不法移民を合法化し、激戦州を激戦州でなくしてしまうだろう」。マスク氏はローガン氏にそう語った。「それらは単に青い州(ブルーステート:民主党の強い州)となる。そして彼らは、大統領選を制する。議会の上下両院を押さえ、大統領選でも勝つだろう」

これは突拍子もない考えで、既に否定された「リプレースメント(入れ替え)理論」と軌を一にする。事実関係での穴も多い。まず市民権を持たない人が連邦レベルの選挙で投票するのは実際には違法だ。不法入国した人々が市民権を獲得できる直接的な経路も存在しない。

しかし続く会話の内容の方が、マスク氏による政府の規模縮小の動機に対して一段の光を当てるかもしれない。それは民間部門で同氏が行ってきた企業の取得、買収、設立と混ざり合っている。そこにあるのは、個人に対する共感は集団にとって高くつくという信条だ。

マスク氏は正式書類のない人々にさえも医療保険を提供するカリフォルニア州の施策に言及した。彼らには低所得者向けの保険プログラムの適用資格が与えられる。

「文明が抱える自殺同然の共感が止まらない」と、マスク氏。この用語の借用元はガド・サアド氏で、カナダ人の学者だ。マスク氏同様、ローガン氏の番組の常連でもある。

マスク氏は共感というものを信じているとし、「他人は思いやるべきだ」と語るが、同時にそれが社会を破壊しているとも考えている。

「西洋文明の根本的な弱さは共感だ。共感が付け込んでくる」「彼らは西洋文明の欠陥を利用する。それが共感反応だ」(マスク氏)

マスク氏によると、共感はすっかり「武器化」されてしまっているという。

マスク氏が改革運動の矛先を米政府に向ける中、覚えておくべき重要なことが一つある。トランプ大統領が社会保障やメディケア(高齢者向けの医療保険)、メディケイド(低所得者向け公共医療保険)といったセーフティーネットについては不正を撲滅する場合を除いて削減の対象にしないと公言したのに対し、マスク氏はインタビューの中で、社会保障という概念は「ねずみ講」だとの認識を明らかにしている。

マスク氏の共感の欠如は、最近刊行された伝記のテーマでもある。伝記の執筆に当たり、作家のウォルター・アイザックソン氏は、マスク氏によるツイッター買収劇の一部始終を取材することを許可された。

自社で働く個々の従業員に対するマスク氏の軽視もまた、伝記に通底する要素だ。テスラやスペースXでの製造ラインなどで、同氏は即座に従業員を解雇する人物として描かれる。

そうしたそれぞれの企業で、マスク氏は人類を救いたいとの願望を表明してきた。テスラでは電気自動車によって、スペースXであれば人類の惑星間飛行を可能にすることでそれを実現しようとしている。ツイッター買収では、表現の自由を掲げた。

「彼は人類を救うというこの考えが気に入っている」。アイザックソン氏は2023年、CNNのクリスティアン・アマンプール記者とのインタビューでそう指摘した。「事実、彼の場合は、人類全般に対して抱く共感の方が自分の周囲にいる20人の人間に対する共感よりも大きい」

マスク氏は今なお、危険に立ち向かうスーパーヒーローとして自らを捉えている。ローガン氏とのインタビューでは、再三にわたり殺害される恐れについて語っていた。現在、人類を救う代わりに、マスク氏は数十億ドルの支出削減によって米政府を救っていると信じている。たとえそれが、多くの米国民の生活にとって打撃となろうとも。彼らは自らの職を失い、政府サービスの縮小に直面しているが、それらは削減の過程で起きていることだ。

本稿はCNNのザカリー・B・ウルフ記者の分析記事です。

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