(CNN) 米アップルからスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の新機種「16e」が登場したが、二つの理由から驚くべきものだった。第一に、アップルは約10年にわたった「SE」ブランドから距離を置いた。第二に、この格安スマホの価格は予想よりも高い599ドル(約9万円)で、SEの429ドルから大幅に値段が上がった。
16eは今月28日に発売される。16eの発売は、iPhoneのラインアップを多様化し、18年の歴史を誇る同社の旗艦製品が依然として新しい聴衆にアピールできることを証明するためのアップルの最新の取り組みだ。iPhoneは、アップルの時価総額を約4兆ドルにまで押し上げた原動力で、アップルが今年初めて発表した四半期決算によれば、1243億ドルの売上高のうち、iPhoneが691億ドルを占める。
アップルから発売された低価格モデルは成功したものもあれば、失敗したものもある。
調査会社コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズによれば、2024年10~12月期のiPhoneの売り上げに占めるSEの割合はわずか5%にとどまる。カウンターポイント・リサーチによれば、世界的にみれば、昨年のiPhoneの売り上げに占めるSEの割合はたった1%だった。20年に登場した、小型で安価な「mini」はわずか2世代でiPhoneの系譜から外された。
より高額な16eは、予算を重視する買い物客を引き付けることができるのか疑問が生じる。しかし、値段にもかかわらず、16eがより多くの消費者を引き付ける可能性はある。その主な理由は、アップルが約7年前の「XR」で成功した戦略を踏襲しているように見えるからだ。
16eは多くの人々からSEの代替と認識されている。16eはアップルがこれまでにSEの新機種を発表してきたのと同じタイミングで登場し、発表後にはオンラインストアからSEの姿が消えた。
しかし、16eはXRの後継機に近い。XRは「XS」とともに、同じ品質を多く備え、より手頃な価格の端末を求めていた人たちに向けて18年に発売された。アップルはXRや今回の16eで、ディスプレーの大きさやバッテリー寿命、性能を優先し、代わりに、コスト削減のためにカメラについては妥協した。
この戦略はXRでは成功をおさめたようだった。カウンターポイント・リサーチによれば、XRは19年7~9月期に世界で最も売れた携帯電話となった。
アップルは19年、XRの新機種を発表しなかった。しかし、アップルの当時の次世代iPhoneである「11」はデザインや価格の面でXRから多くのヒントを得ていた。

iPhone SE(左)とiPhone mini=2022年3月撮影/Melina Mara/The Washington Post/Getty Images
16eは発売前だが、一部のアナリストはSEよりも人気が出る可能性があると考えている。カウンターポイント・リサーチのスマートフォン部門の上級アナリスト、ゲリット・シュニーマン氏は、その理由の一つとして、より大きなディスプレーを挙げる。16eのディスプレーの大きさは「16」と同じ6.1インチだが、SEは4.7インチだ。
「(アップルは)そうしたより小型の形態の要素をあきらめ、人々がより大型のディスプレーに興味を持っていることに気が付いた。たとえそれがエントリー価格の400ドルを放棄することになっても」(シュニーマン氏)
16eの発表前、アップルのサプライチェーン(供給網)に詳しいTF国際証券のミンチ・クオ氏は、次の低価格帯の端末は以前のSEよりも「わずかによく」売れるだろうとの見通しを示していた。
懐疑的な見方にも理由はある。16eの価格は599ドルと、特に一部の「アンドロイド」のスマートフォンと比較すると、依然として参入障壁は高い。米金融バンク・オブ・アメリカのアナリスト、ワムシ・モハン氏は投資家へのメモで、16eが16の売り上げを損ねるのではないかとの疑問を呈した。
調査会社フューチュラム・グループのダニエル・ニューマン最高経営責任者(CEO)はCNNの取材に対し、「この端末で、購入者にとって600ドルの価値があるものを十分に提供できるよう細心の注意を払う必要がある。だが、1300ドルあるいは1000ドルさえ費やす人たちが16eを選ぶほど多くのものは提供しないようにしなければならない」と語った。

米カリフォルニア州のアップルの施設でストレステストを受ける「16e」の端末/Stephen Nellis/Reuters
アップルの旗艦製品であるiPhoneは通常、注目を集めるが、それには十分な理由がある。調査会社カンターのデータによれば、より高額な「プロ」や「プロマックス」が世界的に最も人気がある傾向があり、この傾向がiPhoneの販売価格を押し上げることでウォール街を満足させている可能性が高い。
しかし、16eは、中古のiPhoneやアンドロイド端末を選ぶ利用者をアップルが取り込むのに役立つ可能性がある。16eはまた、アップルが中国市場での競争力を高めることにつながる可能性がある。アップルは中国市場で、華為技術(ファーウェイ)や小米科技(シャオミ)といった地元ブランドとの激しい競争に直面している。
だが、おそらく最も重要なことは、iPhoneの売り上げへの依存を減らすためにサービス部門を成長させようとしているアップルにとって、同社の科学技術とアプリを普及させるうえで、16eが重要なカギを握る可能性があることだ。同社の生成AI(人工知能)「アップルインテリジェンス」が16eに搭載されるということは、新しい携帯電話に800ドル以上を支払いたくない人でもアップルのAIツールを利用できるようになることを意味する。そして、グーグルやマイクロソフト、サムスンなどの競合企業がAIに注力するなか、アップルインテリジェンスをより多くの消費者の手に届けることはアップルにとって極めて重要だ。
ニューマン氏は、アンドロイド端末のファンや低価格携帯の購入者を取り込むことを念頭に、「アップルは本当に勝ち取る必要がある」と指摘。アップルの将来に向けたAI戦略全体やアプリの戦略にとって最大の成長の機会がこれから訪れるとの見通しを示した。
◇
本稿はCNNのリサ・エディチコ記者の分析記事です。