ANALYSIS

iPhone16発表会、「あの言葉」をアップルが口にしなかった理由

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アップルのプレゼンに登場するティム・クック最高経営責任者(CEO)

アップルのプレゼンに登場するティム・クック最高経営責任者(CEO)

ニューヨーク(CNN) アップルがiPhoneに人工知能(AI)機能を組み込んだ。誰も求めていなかったU2の新アルバムのように。

「 iPhone16 Pro Max」のために1200ドル(約17万円)を取っておいたアップルファンであろうと、メッセージアプリでグループチャットばかりを長年使い続けている普通のユーザーであろうと、間もなくどこかの時点で自分のiPhoneに人工知能機能が組み込まれる。

これまでに実用化されたAI製品の大半が、期待外れで信頼できない状態にあることは、ほとんど問題ではない。ほかに目立った革新性がない中でアップルは、たとえ初歩的なAIツールであっても、ユーザーの買い替えを促し、来年の売り上げが増大する「スーパーサイクル」につながることに賭けている。

だが6月にプレビューが披露され、今月9日に正式発表された「アップル・インテリジェンス」を前提とすると、投資家の期待もユーザーの期待も多少しぼむかもしれない。アップルでさえやや自制気味で、「artificial intelligence(人工知能)」という言葉は一度も使わなかった。

新しいツールは、良さそうには見える。キュートでさえある。私たちがまさにアップルに期待した通りだ。直感的で馴染みやすく、何よりも薄気味悪さがない。iPhone16の「Siri」はさらに賢く、人間的になる。例えば「ピザを食べて目がハートのゾンビ」と入力すれば言葉通りの絵文字を生成できる。公園でカメラを犬に向けるとその犬の(だいたいの)犬種をiPhoneが教えてくれる。

だが現時点で提供されるAIツールは「あったらいい」という類のもので、「必須」ではなく、1000ドルも投じて買い換えようとまでは思わせない。

「機能のタイミングやグローバル展開が不明でも、消費者はそうしたAI機能に興奮すると思う」。iPhoneの正式発表を前にディープウォーター・アセット・マネジメントのマネジングパートナー、ジーン・マンスター氏はSNSにそう投稿した。iPhoneの売り上げは、この先の四半期でウォール街の予測を上回ると同氏は見る。

当然ながら、iPhoneの買い替えサイクルを前提として、古いiPhoneを使い続けてとにかく買い替えなければならないユーザーの多さを考えると、たとえ退屈なiPhone16だったとしても、それなりには売れるだろう。それもプラス要因ではある。愛着心の強さはアップルの最大級の強みであり、アップルが時間をかけて徐々に、意識させずにAIを導入する一因でもある(2014年のU2アルバム無料配信をめぐる失態から学んだ教訓)。

AIとは呼ばない理由

アップル初のAI搭載iPhone発表会で注目すべきは、2時間に及んだプレゼンの中であの言葉が欠落していたことだった。「artificial intelligence」という言葉だ。

代わりにティム・クック最高経営責任者(CEO)以下アップルの関係者は、同社の「インテリジェント」機能に言及した。

ちなみに「アップル・インテリジェンス」とはアップル独自のAIのこと。だが世界一ブランド意識が高いアップルは、AIバブルに沸くシリコンバレーで見過ごされがちな事実、すなわち「普通の人々はAIを信用しない」という事実を認識している。

シリコンバレーの開発者やウォール街の投資家は、AIや自働化が牽引(けんいん)する未来に夢中だ。だがそうしたAI搭載端末を買う人々は、もう少し納得できる理由を必要とする(ウォール街で熱狂していた投資家さえも、この技術の投資対効果にしびれを切らしつつある)。

業界紙に掲載された調査によると、商品を「AI搭載」と形容すると、消費者の購買意欲が低下する傾向があることが分かった。

理由はそれほど難しくない。生成AIやAI画像生成ツールとのやり取りを通じて私たちはすぐに、その杓子(しゃくし)定規で、時には平然と間違えたりする解釈に対して疑問を持つようになった。私たちは今、本物らしく見えないものに遭遇するとAIで生成されたようだと言い、政治家のたどたどしい演説を聞くとチャットGPTに書かせたに違いないと面白がる。

常にイメージを意識するアップルは、そのことをよく知っていて、「AI」のわなに落ちたりはしない。たとえ新しいiPhoneの売りはAIが全てだったとしても。

本稿はCNNのアリソン・モロー記者の分析記事です。

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