絶滅の縁から復活した珍獣サイガ、中央アジアの草原を闊歩

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カザフスタンの草原を駆けるサイガ/Albert Salemgareyev/ACBK

カザフスタンの草原を駆けるサイガ/Albert Salemgareyev/ACBK

(CNN) かつては毎年春と秋になると、サイガ(サイガアンテロープ)の大群が中央アジアの草原を川の流れのように移動していた。遊牧性のこの動物は20万頭規模の群れをなし、新鮮な草と澄んだ天気を求めて数千キロを旅した。

サイガの歴史は氷河期にまでさかのぼり、一時は現在の英国からカナダに至る広大な範囲をケブカサイやマンモスと並んで闊歩(かっぽ)していた。仏マルセイユ近郊の約1万9000年前の洞窟壁画にもその姿が描かれている。

現在では、病気と密猟により個体数が激減し、生息域は大幅に縮小した。サイガの大半はカザフスタンに生息し、より少数の個体がウズベキスタンとロシアに生息する。モンゴルにも孤立した個体群が存在する。

しかし、アルティン・ダラ自然保護イニシアチブのような団体による近年の保護活動が一助となり、サイガの個体数は回復しつつある。そのかいあって、氷河期のアンテロープは今も中央アジアの広大な草原を闊歩し続けているのだ。

サイガの最も際だった特徴はその鼻だ。鼻孔が非常に大きいことから、古代ギリシャの歴史家ストラボンは、水を飲むために鼻孔が使われていると考えていた。彼の考えは誤りだったが、その大きな鼻孔には確かに役割がある。夏には埃(ほこり)をフィルターし、冬にはマイナス45度にもなる極寒のステップの空気を温める/Albert Salemgareyev/ACBK
サイガの最も際だった特徴はその鼻だ。鼻孔が非常に大きいことから、古代ギリシャの歴史家ストラボンは、水を飲むために鼻孔が使われていると考えていた。彼の考えは誤りだったが、その大きな鼻孔には確かに役割がある。夏には埃(ほこり)をフィルターし、冬にはマイナス45度にもなる極寒のステップの空気を温める/Albert Salemgareyev/ACBK
春と秋の移動の時期、サイガが数百キロを旅する様子/Rob Field/RSPB
春と秋の移動の時期、サイガが数百キロを旅する様子/Rob Field/RSPB
サイガにとって、狩猟と密猟は長年の脅威となってきた。旧ソ連時代には肉や毛皮を目当てに乱獲され、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストによると、1957年から62年にかけて「合法的な採取」で最大15万頭が殺された。オスの角は漢方薬として用いられており、ソ連崩壊と国境開放に伴いオスの密猟が急増。個体数は激減した/FotoSoyuz/Hulton Archive/Getty Images
サイガにとって、狩猟と密猟は長年の脅威となってきた。旧ソ連時代には肉や毛皮を目当てに乱獲され、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストによると、1957年から62年にかけて「合法的な採取」で最大15万頭が殺された。オスの角は漢方薬として用いられており、ソ連崩壊と国境開放に伴いオスの密猟が急増。個体数は激減した/FotoSoyuz/Hulton Archive/Getty Images
カザフスタン政府は1999年に狩猟を禁止した。国境警備隊員への教育プログラムと訓練が密輸取り締まりに役立っている。この2017年の写真では、警官がロンドン・ヒースロー空港で英国境警備隊員によって押収されたサイガの角を手にしている。こうした対策はおおむね成功し、サイガの個体数は約280万頭に回復。IUCNは23年、サイガの分類を「近危急種」に引き下げた/Simon Dawson/Reuters
カザフスタン政府は1999年に狩猟を禁止した。国境警備隊員への教育プログラムと訓練が密輸取り締まりに役立っている。この2017年の写真では、警官がロンドン・ヒースロー空港で英国境警備隊員によって押収されたサイガの角を手にしている。こうした対策はおおむね成功し、サイガの個体数は約280万頭に回復。IUCNは23年、サイガの分類を「近危急種」に引き下げた/Simon Dawson/Reuters
「アルティン・ダラ(カザフスタン語で「黄金のステップ」を意味する)保全イニシアチブ」は、サイガやモウコノウマ、野生ロバの一種であるクーランなど、ステップの野生生物を保護するため2006年に設立されたもので、国連から世界自然保護旗艦事業に指定されている。イニシアチブの開始以来、デンマークの国土面積と同等の500万ヘクタールの土地が保護区に指定された/Abduaziz Madyarov/AFP/Getty Images
「アルティン・ダラ(カザフスタン語で「黄金のステップ」を意味する)保全イニシアチブ」は、サイガやモウコノウマ、野生ロバの一種であるクーランなど、ステップの野生生物を保護するため2006年に設立されたもので、国連から世界自然保護旗艦事業に指定されている。イニシアチブの開始以来、デンマークの国土面積と同等の500万ヘクタールの土地が保護区に指定された/Abduaziz Madyarov/AFP/Getty Images
個体数回復の取り組みや密猟の取り締まりにもかかわらず、サイガは完全に安全にはなっていない。病気にかかりやすく、大量死も珍しくない。2020年以降、サイガは4度にわたり大規模な疫病に見舞われており、15年には3週間で少なくとも20万頭、当時の世界の個体数の半数超が死んだ/Kazakhstan's Ministry of Agriculture/Reuters
個体数回復の取り組みや密猟の取り締まりにもかかわらず、サイガは完全に安全にはなっていない。病気にかかりやすく、大量死も珍しくない。2020年以降、サイガは4度にわたり大規模な疫病に見舞われており、15年には3週間で少なくとも20万頭、当時の世界の個体数の半数超が死んだ/Kazakhstan's Ministry of Agriculture/Reuters
保全の取り組みでは、定期的なモニタリングによって病気のまん延を食い止めたい考えだ。サイガは病気に弱いが、約6割が双子を出産するため、個体数の回復は早い。この高い出生率に保全活動や意識の高まりも相まって、中央アジアのステップ地帯は以前ほど寂しい空間ではなくなっている/Albert Salemgareyev/ACBK
保全の取り組みでは、定期的なモニタリングによって病気のまん延を食い止めたい考えだ。サイガは病気に弱いが、約6割が双子を出産するため、個体数の回復は早い。この高い出生率に保全活動や意識の高まりも相まって、中央アジアのステップ地帯は以前ほど寂しい空間ではなくなっている/Albert Salemgareyev/ACBK
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