(CNN) 米連邦政府職員の大量解雇に踏み切る前、トランプ氏は職員らを悪者扱いし、大半は職場に足を踏み入れたこともないと発言した。実際はそれとは正反対だったにもかかわらず。
対外支援を打ち切るに当たり、トランプ氏と起業家のイーロン・マスク氏は浪費や悪用が蔓延(まんえん)していると主張したが、それを裏付ける証拠はほとんど示さなかった。実際は単に資金の使途に同意できないだけなのかもしれない。
そうしたことを念頭に置きつつ、トランプ政権が現在社会保障に対して講じている施策について検証してみよう。政権は既知の事実に基づかない考えを広めている。数百万人もの死者に給付金が支払われているという考えを。
米社会保障庁のキング長官代行の辞任も考慮に入れよう。辞任に先立ちキング氏は、マスク氏率いる政府効率化省(DOGE)と受益者情報を巡って対立していた。一体今何が起きているのか、注意を払う価値はある。
トランプ氏は昨年の大統領選を通じ、社会保障の支払いやメディケア(高齢者向けの医療保険)の給付は削減しないと約束していた。しかしマスク氏が政府機関全体での削減を模索する中、トランプ氏は米国人が社会のセーフティーネットに費やす資金にも目を向けざるを得なくなっている。まるで財政を気にして、国の赤字を懸念する多くの議員たちのように。
SNSのX(旧ツイッター)でマスク氏は、「100%確実なのは、連邦政府の給付金制度(社会保障、メディケア、メディケイド<低所得層向け医療保険>、福祉、障害者向けなど)における不正の規模は、これまで耳にした民間の詐欺事件の被害総額を圧倒的に上回るということだ」と述べた。
マスク氏はまた、出どころ不明の表の画像も投稿。そこには数百歳の年齢の人物が社会保障の給付金を受け取っているかのような記載がみられる。
According to the Social Security database, these are the numbers of people in each age bucket with the death field set to FALSE!
— Elon Musk (@elonmusk) February 17, 2025
Maybe Twilight is real and there are a lot of vampires collecting Social Securitypic.twitter.com/ltb06VX98Z
トランプ氏も18日、フロリダ州の邸宅「マール・ア・ラーゴ」でこの表に目を通したようだ。
FOXニュースの番組に17日夜出演したホワイトハウスのレビット報道官は、大規模な不正に関してトランプ氏がマスク氏に調査を指示していることを示唆した。
「詳しい調査はまだこれからだが、彼らは既に亡くなった数千万人に対して社会保障費が不正に支払われているのではないかと疑っている」(レビット氏)
証拠はどこに?
マスク氏が何について言及し、共有した表がどこから来たのかといった説明について、社会保障庁に詳しい情報を求めたが返答はなかった。
死者が絡む不正な請求が数千万件あるとの何らかの証拠をマスク氏らが提示するまで、そもそもそのような請求は数千万件も存在しないという大量の証拠に目を通しておこう。
不適切な支給は全体の1%未満、それでも多過ぎるが
社会保障に不正が存在しないとは言わない。実際それは存在する。一つの機関が年間1兆ドル(約150兆円)を超える給付金を7000万人以上の米国人に支払う場合、数値計算上の誤差であってもそれは大金となる。社会保障庁は給付金全体の1%弱は不適切に支払われ、その大半は払い過ぎであることを認める。これは社会保障庁の監察総監が2024年の報告書で明らかにした内容だ。トランプ氏は大統領に就任すると、多数の連邦機関の監察総監を一斉に解任した。そこには当時、社会保障庁の監察総監代行を務めていた人物も含まれていた。
1月、トランプ氏の大統領就任直前に、財務省は5カ月間で死亡した個人に支払われていた3100万ドルの給付金を回収したと発表した。社会保障庁の所有する数億人の死亡者を記録したマスターファイルのデータを活用したという。このファイルは同庁の支払い情報とは別の資料となる。
「これらの結果は、氷山の一角に過ぎない」と、デービッド・ルブリク財務次官(当時)は指摘した。同氏は後に、財務省の支払いシステムへのアクセスを巡ってDOGE当局者らと対立、辞任している。
社会保障費を受け取っている100歳台は何人? 10万人に満たず
ということで、やるべきことはまだある。それは明白だ。過去10年間で寄せられた数多くの報告から、数百万件の社会保障番号が100年以上前の生年月日と結びついていることが分かっている。しかし100歳超で給付金を受け取っている人が数千万人いるという証拠は一切ない。
実のところ、社会保障庁は給付金の支給先を常に把握している。そして直近のデータによれば、99歳以上の受益者の数は人口3億3000万人のこの国で9万人に満たない。この数字は100歳以上の米国人を10万1000人とするピュー・リサーチ・センターの調査と符合する。
「ゾンビ映画のような状況が存在するわけではない。死体が走り回って社会保障小切手をポケットから出すことはない」。元社会保障庁長官のマーティン・オマリー氏は、CNNの取材にそう答えた。どちらかと言えば誤って給付が打ち切られ、社会保障庁の側が支払いを再開しなくてはならない場合の方がよくあるという。
不正疑惑無しの現実は相当恐ろしいものに
トランプ氏は社会保障給付金を所得税から控除すると約束している。実現すれば社会保障プログラムにとって10年間で2兆3000億ドルの損失となる。国内で高齢化が進む中、プログラムはただでさえ財政基盤が不安定な状況だ。新たな減税が施行できた場合、これらの減収の穴埋めをどのように行うのか、トランプ氏は現時点で説明していない。
財政タカ派は、社会保障プログラムが維持不可能だと主張するだろう。維持には今後も人々がシステムに支払い続けることが必要だが、現実問題として出生率は低下しており、トランプ氏は移民の抑制にも取り組んでいる。米国人は今後約10年で社会保障を立て直さなくてはならない。トランプ氏の減税案以前に、現状の想定では社会保障給付金の満額支給は早ければ35年にも不可能になるからだ。連邦議会が行動を起こさなければ、そのような現実が待っている。
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本稿はCNNのザカリー・B・ウルフ記者の分析記事です。