米中貿易戦争、中国が圧倒的優位を持つ強力な「切り札」とは

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レアアース企業を視察する中国の習近平(シーチンピン)国家主席=2019年5月、江西省贛州市/Xie Huanchi/Xinhua News Agency/Getty Images

レアアース企業を視察する中国の習近平(シーチンピン)国家主席=2019年5月、江西省贛州市/Xie Huanchi/Xinhua News Agency/Getty Images

香港(CNN) トランプ米大統領が政権1期目に中国との貿易戦争を仕掛けてから1年足らずだった2019年、中国の習近平(シーチンピン)国家主席は中国南東部の工業都市、贛州市にひっそりと立つ工場を訪れた。

習氏は工場の展示室を視察し、何列にも並んだ金属の塊を念入りにチェックした末、同行した共産党幹部らにこう宣言した。「レアアース(希土類)は極めて重要な戦略資源である」

それからほぼ6年が過ぎた今、レアアースの供給網における中国の優位性は、トランプ氏との新たな貿易戦争に使える最強のツールのひとつとして浮上している。レアアースは17種類の元素からなり、スマートフォンから電気自動車(EV)、戦闘機や原子力潜水艦まで、あらゆる製品に使われる。米国など多くの国はこの数十年、中国からのレアアース供給に依存してきた。

しかも関税と違ってこちらの戦線では、トランプ氏が報復として同じことをやり返す余地はほとんどない。

中国政府は4月4日、希少性の高い重希土を中心とするレアアース7種類の輸出制限を発表した。トランプ氏が中国からの輸入品に課した34%の相互関税に対する報復措置だ。対象となるレアアースや磁石などの関連製品を輸出する企業はすべて、政府の許可を得ることが新たに義務付けられた。

「中国は戦略的になることによって、また米国産業の弱点を精密に突くことによって、驚くべき経済的影響力が発揮できるという事実を見せつけている」――米ミシガン大学で経済学と公共政策学を研究するジャスティン・ウォルファーズ教授は、そう指摘した。

米国は1期目のトランプ政権以降、国内のレアアース供給網を構築しようと躍起になってきた。米レアアース業界の企業3社はCNNとのインタビューで、生産能力の拡大と、同盟国や提携国からの素材調達を図っているところだと述べた。

だが米主要産業の膨大な需要に応えるには、まだ何年もかかることが予想される。

停止された出荷

中国の輸出規制による影響は、すぐさま現場に及んでいる。

レアアース磁石のコンサルティング会社JOCの創業者、ジョン・オーメロッド氏がCNNに語ったところによると、中国では輸出規制の発動以降、欧米企業少なくとも5社が購入したレアアース磁石の出荷が停止している。

同氏によると、現場も不意打ちを受けて混乱し、輸出許可を得るための条件を当局に確認する必要が生じた。

レアアースそのものだけでなく、合金や少量のレアアースを含む製品も規制の対象になり、輸出品の多くに許可制が適用されるという。

輸入物資を降ろす貨物船=3月6日、山東省青島市/Costfoto/NurPhoto/Getty Images
輸入物資を降ろす貨物船=3月6日、山東省青島市/Costfoto/NurPhoto/Getty Images

過去数十年の経緯

中国の国営メディアによると、同国は1950年代にいち早くレアアースの抽出に乗り出したが、業界が本格的に発展し始めたのは70年代の末だった。

専門家によれば、中国は当時、安い労働力と比較的緩やかな環境基準に加え、米国や日本、欧州で開発された技術を導入。やがてレアアースの生産量が増えるにつれ、次第にその戦略的重要性を認識するようになった。

オーメロッド氏によると、中国の労働コストはその後上昇したものの、技術や研究開発への投資を惜しまない政策により、レアアース業界での中国の優位は固まった。

米国でもかつては複数の企業がレアアース磁石を製造していたが、より安価な中国製が登場すると、次第に手を引いていったという。

「米国はノウハウを失い、人材も失った。しかもレアアースは大きな資本を必要とする事業だ」と、同氏は指摘する。

米国にとっての課題とチャンス

中国がレアアースでの優位性を利用した例は、今回の輸入規制が初めてではない。2010年には尖閣諸島の領有権問題をめぐり、日本へのレアアース輸出を2カ月近く停止した。23年末にはレアアースを抽出、分離する技術の輸出禁止を発表した。

諸外国が対応に苦慮するなかで、米国は何とか穴を埋めようと努めてきた。

米国防総省は20年以降、国内のレアアース供給網に4億3900万ドル(現在のレートで約630億円)を投入。採鉱から磁石製造まで、国防需要を満たす持続可能な供給網を27年までに確立するとの目標を掲げる。

一部の米企業は中国の輸出規制をチャンスととらえ、国内生産の推進や中国以外の供給網の強化に取り組んでいる。

マサチューセッツ州の新興企業、フェニックス・テーリングスのニコラス・マイヤーズ最高経営責任者(CEO)によると、同社は米国内やカナダ、オーストラリアから調達したレアアース鉱石を「廃棄物ゼロ、排出ゼロ」で精製する技術を開発した。「中国には一切依存していない」と主張する。

もうひとつの新興企業、USAレアアースはテキサス州にレアアース磁石の工場を建設中。同州西部にレアアース鉱山も所有している。ジョシュア・バラードCEOによれば、この鉱山は重希土が豊富で、中国の輸出規制リストにあるレアアースがすべて採掘される。ただし、鉱石からの抽出技術は現在開発中だという。

米企業にとって、中国とのハイテク競争に勝つカギとなるレアアースを抽出、精製する産業の再建という困難な事業に取り組むには、動き出す弾みが必要だった。長い年月を経て、その弾みがついに得られたのかもしれない。

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