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【分析】米中のデカップリングは泥沼の離婚劇に

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このまま行けば米中貿易はデカップリング同然の状態にまで縮小するとWTOはみている/Damir Sagolj/Reuters

このまま行けば米中貿易はデカップリング同然の状態にまで縮小するとWTOはみている/Damir Sagolj/Reuters

ニューヨーク(CNN) たとえそうなる兆しが何年も前から明らかだったとしても、いざ関係を解消するのは至難の業だ。

中国と米国の意見が一致することはあまりないが、それでも数十年間、両国は大部分で同意してきた。貿易ではお互い提携する方が、敵対するよりもいいと。

この連携が今や危機に瀕(ひん)している。そして現実世界では、それによる巻き添え被害が既に積み上がっている。

何らかの抑制を掛けなければ、米中間の貿易は80%以上の縮小が見込まれる。その規模は「デカップリング(切り離し)に相当する」と、世界貿易機関(WTO)のオコンジョイウェアラ事務局長は指摘した。WTOは16日に発表した報告書の中で、世界貿易について同様に厳しい観測を示した(トランプ米大統領の関税前なら世界貿易は今年2.7%拡大する予定だったが、現状では0.2%縮小するだろうというのがその結論だ)。

トランプ氏の仕掛ける貿易戦争が、経済に対して既にどれだけの影響を及ぼしているかを以下に挙げよう。

●3月、米国の小売り販売は1.4%上昇。主に自動車と自動車部品によって押し上げられた。米国民が今後予想される値上がりに先んじようとしたことが背景にある。

●航空機メーカー大手のボーイングが、中国の航空会社への納入を停止されたとの報道が流れた。同社は米国最大の輸出企業にして主要な雇用主。

●中国政府は最近、7種のレアアース(希土類)に対して輸出規制を掛けた。レアアースはアップルの「iPhone(アイフォーン)」 から電気自動車(EV)に至るまであらゆる製品にとって不可欠の素材だ。EV市場は中国の独占に近い状態にある。

●米半導体大手エヌビディアは、今後55億ドル(約7800億円)の財務上の打撃を受ける見通しを明らかにした。米政府がこの半導体メーカーに対し、中国への販売停止を命じたことを受けての発表。

●ファストファッションの小売りを手掛ける中国の「SHEIN(シーイン)」やネット通販の「Temu(テム)」は来週値上げに踏み切る。ロイター通信が報じた。

16日の米国株は急落した。エヌビディアの中国からの締め出しとWTOによる厳しい予測に加え、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長のコメントも株価を押し下げる要因となった。パウエル氏が警告した「困難なシナリオ」によれば、関税が経済成長の鈍化、高い失業率、インフレの加速からなる三重苦を全く同じタイミングでもたらすという。

16日にシカゴの経済団体が主催したイベントで同氏は、「現代史上想定されたことがない事態」が起きていると述べた。

読者は「ディールの達人」の大統領が何らかの協定を中国との間で結ぼうとするだろうと考えるかもしれない。しかしトランプ氏がこれまで世界に伝えた教訓が何か一つでもあるとすれば、それは予想外の事態を予想しておけということだ。

「ここへ来て、別のゲームプランが存在するのかもしれない」。ベテラン投資家でコンサルティング会社ヤルデニ・リサーチを率いるエド・ヤルデニ氏は今週、ポッドキャスト番組で投資家のルイス・ナベリア氏にそう告げた。「考えられるのは、彼(トランプ氏)には中国との取り引きへの関心など全くないということだ。米国は既に中国を地政学的脅威と見なし、(中略)我々が目指すべきなのは彼らの経済を破壊することだとの結論に達したと考えられる」

ブルームバーグ通信による新たな複数の報道が、この理論に説得力を持たせている。

匿名の情報筋数人を引用したこの報道によれば、トランプ政権は現在「複数の国々に対し、中国との貿易を縮小するよう圧力を掛ける準備を整えている」という。検討されている一つの選択肢は、実質的な金融制裁だとブルームバーグ通信は伝える。その中で米国は他国に向け、中国との結びつきが強い特定の国々への関税の実施を要求する方針だという。

貿易協定がゴールであろうとなかろうと、「政策の見た目は良くない」とヤルデニ氏は指摘する。「彼(トランプ氏)は米国の経済力を使って他国を威圧しようとしている。(中略)しかし中国を威圧するのは至難の業だろう」

多くの識者が既に言及しているように、中国は米国に対する優位を占め、貿易戦争の応酬に持ちこたえる可能性がある。自国経済のあらゆる面において権威主義的な統制を維持しているというのが理由の一つだ。

しかし恐らくもっと重要なのは、中国政府がトランプ政権1期目の2017年に教訓を学んでいるという点だろう。同国は既に、先の貿易戦争を特徴付けた措置を上回る行動に出ている。

中国によるボーイング機の納入停止とレアアースの輸出規制は、同国が既に「新たな手法での輸入の武器化を学んだ」ことを示す。ピーターソン国際経済研究所の上級研究員、メアリー・E・ラブリー氏は、あるインタビューでそう分析した。

中国は依然、オーストラリアや欧州連合(EU)、東南アジアなどの貿易相手国にとって「尊重すべきステークホルダー(利害関係者)と見られたがっている」とラブリー氏。中国の習近平(シーチンピン)国家主席は今週、東南アジアへの外遊を行った。「彼らはこう言いたい。『扉は開かれている。我々は筋を通し、米国の攻撃に対抗しているだけだ』と。しかも今や彼らの対抗手段は、以前より格段に増えている」(ラブリー氏)

本稿はCNNのアリソン・モロー記者による分析記事です。

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