航空機の翼は伝統的に強じんで分厚く、頑丈な作りになっている。だが、米航空宇宙局(NASA)を中心とする研究チームはこのほど、飛行中に変形する柔軟な翼を開発した。
報告書の執筆者の1人であるNASAの技術者、ニック・クラマー氏によると、新たな翼の幅は約4.2メートル。数千個の構成ユニットが組み合わさって鳥の羽に似た機能を持つという。
クラマー氏は電話インタビューで「コンドルのような動物は滑空飛行中に関節を固定し、翼を調節して滑空に適した形状に持っていく。より大胆な動きを取ろうと思えば肩の関節を外すという仕組みだ。この流れは我々の取り組みに似ている」と語った。
ただ、研究チームによると、新しい翼独自の特徴はその機能だけではない。将来的には、機体製造や整備の効率性の大幅な向上につながる可能性もある。
試験目的のため最初の翼は手作業で組み立てたが、将来はミニチュアロボットが製造する可能性もある/Kenny Cheung, NASA Ames Research Center
NASAエイムズ研究センターの研究者、ケネス・チュン氏が例として挙げるのはボーイング787「ドリームライナー」だ。787型機の部品は非常に大きく、製造には巨大な鋳型や炉が必要となる。同じことはエアバスのA380型機についても言える。
チュン氏は電話インタビューで「こうした新規設計の実現に企業が投入するコストやインフラは膨大だ」と指摘。「今回のプロジェクトには、これらを全て軽減する狙いがある。素材面で同様の性能を維持しつつ、現在必要とされているインフラを全て整備しなくても製造できるようにするのが目的だ」と話した。
新たな翼の製造ではまず、繊維強化ポリエーテルイミドを3D鋳型に射出して個々の部品をつくりだす。そして部品を組み合わせるのだが、この過程は将来的には組み立てロボットの群れが担う可能性がある。
チュン氏は「これまでは製造物よりも大きな工場が必要だったが、今回のようにユニットを組み合わせるやり方なら、どの部品をいくつ組み合わせるのかということを基にするだけで、どのような形に出来上がるのか正確に予測することができるようになる」と語る。
部品は超軽量のモジュール構造で、輸送のための梱包(こんぽう)も簡単だ。宇宙に送り込むというもう一つの目的にとっても理想的なパッケージとなる可能性がある。
クラマー氏は「これらの部品はどれも軌道投入して巨大な宇宙構造物を組み立てるのに非常に適している」と説明。「とても魅力的な応用例であり、鋭意調査中だ」と話した。
翼の組み立ての様子。数百の同一のサブユニットから構成されている/Courtesy of NASA
こうした安価で柔軟性の高い航空機のコンセプトは商用航空業界にとって魅力的かもしれないが、空港周辺で目にするまでには越えるべき大きな課題が残されている。
特に問題となるのは現行システムへの統合で、従来の設計方法の全面的な見直しが求められそうだ。時間や研究に加え、もちろん資金も必要になる。
「従来の製造工程の見直しの正当性を主張したければ、説得力のある理由が必要だ」「正当化に足る十分な性能向上が必要になる。可能かどうかではなく、採算が取れるかどうかの問題だ」(クラマー氏)
空力的な条件に合わせて主翼の形が自動的に変化するようシステムをプログラムすることもできる/Eli Gershenfeld, NASA Ames Research Center
この技術が商用機に活用されれば、機体の製造だけでなく整備のあり方も変える可能性があるという。
クラマー氏はさらに「製造システムのモジュール化を押し進めることに成功すれば、効率的な部品交換により機体を継続運用できる可能性が高まり、機体のあらゆる構成品を取り換えることも可能になる。船舶では既にそうなっている」と指摘した。
そのうえで「今回のプロジェクトで重要なのは、こうした材料の性能を引き出すのに現時点でモジュール方式が最善だと示したことだ」と語っている。