月裏側の探査はほんの始まり 中国が宇宙にかける野望
香港(CNN) あなたがこの記事を読んでいるころ、パラボラアンテナを付けたきゃしゃな銀色の探査車は人類未踏の地の調査を始めているだろう。
中国神話の月の女神「嫦娥」が飼っていたウサギにちなんで名付けられた探査車「玉兎2号」は、月の裏側から画像などのデータ送信を始め、歴史を塗り替えようとしている。
同機は無人探査機「嫦娥4号」によって月面に運ばれ、3日に地面に降ろされた。月の裏側への着陸は人類史上初という歴史的な出来事であると同時に、中国の宇宙計画でも大きな成功となった。
4日付の国営英字紙チャイナデイリーの1面には、着陸時の北京航天飛行制御センターの様子が月の裏側の画像とともに大きく掲載された。
米航空宇宙局(NASA)のブライデンスタイン長官はツイッターで、「人類初のすばらしい偉業だ」とたたえた。
中国は宇宙競争の後発国だ。初めて人工衛星を送り込んだ1970年までには、米国は既に宇宙飛行士の月面着陸を成功させていた。ただ、中国は今、速いペースで追い付こうとしている。
2003年以来、中国は6人の宇宙飛行士、2つの実験室を軌道上に送り込み、13年には探査車「玉兎1号」を擁する探査機を月面に着陸させた。探査機の月面着陸成功は世界で3カ国目となる。
今月3日の着陸に対する国内の反応は1回目と比較すると穏やかだったが、「嫦娥4号」の成功と国際社会から得られた称賛は中国の宇宙計画の大きな後押しとなる。
この宇宙計画は今後数年間、得られる限り多くの支援を必要としている。なぜなら、その野望は成層圏にも届く高いものだからだ。
天宮2号の打ち上げ/AFP/Getty Images
宇宙への夢
習近平(シーチンピン)国家主席は13年、有人宇宙船「神舟10号」の乗組員との交信の中で、「宇宙への夢は中国をより偉大にするという夢の一部だ」「中国人民は宇宙をより深く探査しようとさらに大きな一歩を踏み出す」と述べた。習主席の主導で、宇宙計画に数十億ドル規模の資金が投じられてきた。
中国の夢の第一歩は、地球の周辺領域を主な対象とする。
20年には次の探査機「嫦娥5号」が月面に着陸し、サンプルを収集し地球に持ち帰る計画だ。30年代の月への有人飛行計画の準備も進めている。もし成功すれば、米国に次いで2番目の成功国となる。
中国は「天宮計画」にも大金を投じている。これは近い将来打ち上げが予定される永続的な宇宙ステーションの前段階と位置付けられている。天宮2号は軌道上に2年以上とどまっており、今年7月には制御された状態で地球に落下する予定だ。
国家航天局の幹部は16年に、「我々の大きな目標は、2030年までに世界の主要な宇宙強国の仲間入りをすることだ」と述べた。だが、中国が宇宙競争に追い付くにはまだ長い道のりがある。
嫦娥4号が月面着陸を準備していたころ、NASAの探査機は冥王星よりも外側にある小惑星などが集まるカイパーベルトで天体への接近通過に初めて成功した。その際に撮影された天体「ウルティマトゥーレ」の画像も受信した。
だが、中国がたった一つの成功で米国を出し抜く可能性がある。火星への人類着陸だ。
制御不能のまま落下した天宮1号。2号機は制御された状態で落下予定だという/AP
赤い惑星
今月3日の着陸成功後、探査ミッションの主任計画者は国営テレビで、「未知の世界を冒険するのは人間の本性だ」と語った。
1972年以来、探査は主にロボットが担ってきた。NASAのアポロ17号にジーン・サーナンが搭乗して以来、地球以外の天体に足跡を残した人類はいない。
これには十分な理由がある。ロボットの方が安く、長持ちし、宇宙飛行士と同じ観察や実験を行えるからだ。そして一番重要なのは、死なないことだ。どの国も月面に死体を残す最初の国にはなりたくない。
だからといって、月への有人ミッションに意味がないわけではない。有人ミッションは宇宙で人間がどう生き延びるか、潜在的な危険や試練は何かを探るのに重要な情報をもたらし、科学の進歩に大いに役立つ。
こうした進歩は人類を火星に送り込むという、はるかに困難な課題への取り組みで重要となる。
中国は今、同国初となる無人火星探査機の打ち上げを来年末に予定し、その後2回目のミッションでは火星からサンプルの回収も狙っている。
2016年に完成した世界最大の電波望遠鏡/Xinhua News Agency/Xinhua News Agency/Xinhua News Agency/Getty Images
中国の発進
中国は最初の宇宙競争では遅れをとっていたとしても、火星や月への野望では新たな競争を開始する側に回るかもしれない。
トランプ米大統領は火星に宇宙飛行士を送り込みたいと公言し、NASAに宇宙探査の中核ミッションへの集中を求めている。
NASAのブライデンスタイン長官は3日、米海軍大学校の教授が「月から次に聞こえてくる声は中国語の可能性が高い」と発言したと報じたCNNの記事を引用し、「ふむ、我々の宇宙飛行士は英語を話すのだが」とツイッター上で反応した。
ロシアのプーチン大統領はロシア人宇宙飛行士の火星着陸を呼び掛け、インドも2019年には月探査を計画するなど宇宙計画への投資を進めている。
中国は別の面でもライバルを押しつつある。2016年には世界最大の電波望遠鏡を完成させ、遠くの天体からの電波の探知が可能になる。地球外生命体の兆候を探知する可能性もある。
もっと近くの宇宙でも、中国はすぐに主導者となる可能性がある。中国の宇宙ステーションは数年以内に打ち上げが予定されているが、各国が運用する国際宇宙ステーション(ISS)は資金不足の問題に直面し、2025年には予算が打ち切られる可能性がある。
月を周回し地球に無事に戻ってきた初めての有人宇宙船アポロ8号/NASA
月の鉱物資源を掘る
中国の宇宙計画は北京政府に自慢させるためだけのものではない。
月にはスマートフォンや電子製品に使われる希少金属(レアメタル)など鉱物資源が豊富に眠る。中国はレアメタル供給で既に世界で独占的な地位にあるが、月の埋蔵資源も独占的に利用できれば、極めて大きな経済的強みとなる。
レアメタルのほかにも、月には大量のヘリウム3がある。核融合反応に利用可能なへリウム3だが、地球上では希少な存在だ。欧州宇宙機関(ESA)によると、この同位体は非放射性であり、危険な廃棄物を出さないので、核融合炉でより安全な核エネルギーを提供することが可能と考えられている。
中国の宇宙科学者で月計画の推進者でもある人物は、ヘリウム3の獲得が月ミッションの根拠になると長年主張している。2006年には国営メディアに「年に3回のスペースシャトルのミッションで、世界中の全人類に十分な量の燃料をもたらすことができる」と語った。
インドの防衛研究分析所のナムラタ・ゴスワミ氏によれば、中国は最終的に、宇宙での米国の独占的地位に対抗するだけでなく、中国が主導する宇宙秩序を確立するための代替的な組織、投資メカニズム、能力の確立を狙っている。