静かなる捕食者のサメ、実は音を発する種も 新研究で判明
(CNN) 海洋における最強クラスの捕食者として君臨するサメには、静かなる殺し屋という評価が定着している。音もなく獲物に忍び寄る習性を指してのものだが、他の多くの魚類と異なり、サメには音を発する器官がないこともそうした評価につながっている。
ところがここへ来て、画期的な新研究によりある種のサメは従来考えられていたよりも音を発している可能性があることが分かった。風船の破裂音に匹敵する大きな音を発しているとされる。
科学者は史上初めて、ニュージーランドホシザメが歯を鳴らすことで積極的に音を発している証拠を記録した。研究結果は25日、英科学誌ロイヤル・ソサエティー・オープン・サイエンスで発表された。
「サメによる社会集団の維持や意思疎通の方法は、主としてボディーランゲージ、または化学的な信号を介している可能性があると考えられているが、大半は謎に包まれたままだった」。サメの保護、研究に取り組むアトランティック・シャーク・エクスペディションズの会長で、サメ調査の財団の責任者も務めるニール・ハマーシュラッグ氏はそう述べた。同氏は今回の研究に携わっていないが、「論文を通じて音による全く新しいコミュニケーションの可能性が開けた」との見解を示す。
ニュージーランドホシザメは小型の種類で、ニュージーランド沿岸の海域に生息する。通常は海底付近で暮らし、地域の漁業にとって重要な役割を果たしている。
多くの魚は鰾(ひょう)と呼ばれる気体の詰まった袋状の器官を有し、この働きにより浮力を得る他、音の発出や探知も行っている。サメにはこの器官がないため、音を発する公算は小さく思える。
論文筆頭著者のカロリン・ニーダー博士は、オークランド大学の博士課程で学んでいた2021年、サメの行動実験中に思いがけずカチカチと鳴る音を耳にした。ニーダー氏は現在、米マサチューセッツ州にあるウッズホール海洋研究所の博士研究員。
当時は謎の音の正体を突き止められなかったものの、現在同氏とそのチームは魅力的な研究結果を報告した。研究対象はニュージーランド沖で捕まえた雄5匹、雌5匹の若いニュージーランドホシザメ10匹だ。
研究者はサメたちを巨大な海洋研究所のタンクで飼育。適切な海水と餌の条件を維持しながら、21年5月から22年4月まで観察した。
あらゆる音を注意深く記録するため、チームはサメたちを個別のタンクに移した。各タンクには水中マイクが仕込まれている。タンク間を移動させる際やそっと抱えられる際に、サメたちはカチカチと音を鳴らし始める。以前ニーダー氏が気付いたのと同様の音だ。
個々のカチカチ音は極度に短く、平均48ミリ秒。これは人間のまばたきよりも短い。
研究者はまた、カチカチ音の周波数を2.4~18.5キロヘルツの広帯域に属すると特定。中には人間に感知できる音もあると述べている。音量は約156デシベルに達する。
論文ではカチカチ音の大半が、手で扱われてから最初の10秒間に発せられるとしている。時間が経過すると、音の頻度は低下する。扱われている最初の10秒間の平均が7音なのに対し、最後の10秒間は同2音のみだという。
ニーダー氏が電子メールで明らかにしたところによると、サメたちは日々の実験形式に慣れるにつれ、音を鳴らすのを一切止めた。

硬く、平らな形状のニュージーランドホシザメの歯/Eric Parmentier
これらのサメには音の発生に特化した器官は備わっていないことから、研究者はカチカチ音について歯を鳴らすことで出しているとみている。ニュージーランドホシザメの歯は硬く平らで、甲殻類を獲物とするのに適する。一部の魚は歯をこすり合わせて音を出すが、ニュージーランドホシザメのカチカチ音もそれに似ている。
音のパターンや周波数が一定であることは、カチカチ音が偶然ではなく意図的に発せられていることを示唆すると、ニーダー氏は指摘する。
ニュージーランドホシザメがこのような音を発する正確な理由は現在も調査中だ。一つの可能性としては、カチカチ音をストレスの合図として使っていると考えられる。その場合は、実験中に触れられることへの反応なのかもしれない。
論文によれば、カチカチ音の大半はニュージーランドホシザメ自身の聴覚範囲から外れている。ニュージーランドホシザメの聴覚範囲は最大で約800ヘルツ。サメが互いの意思疎通の手段としてカチカチ音を使っていないとすれば、これらの音は獲物の周囲や危険な状況に対する警告信号もしくは侵入の形式としての役割を果たしている可能性があると、研究者は記述している。
全世界に生息するサメの種類は500種を超えるが、ニュージーランドホシザメ以外のサメで音を発する能力を持つものがいるのかどうかは不明。