Architecture

映画に登場するヴィランがモダンな建築物に住みたがる理由

Columbia Pictures

1974年公開の映画「007/黄金銃を持つ男」でジェームズ・ボンドと敵対した殺し屋のフランシスコ・スカラマンガは、そびえ立つ石灰岩のカルストの中にアジトを構えていた。

米フロリダ州マイアミに拠点を置く建築家チャド・オッペンハイム氏は、7歳の時にこの映画とスカラマンガのアジトを見たのをきっかけに、「究極の隠れ家」のとりこになった。

「007/黄金銃を持つ男」の殺し屋フランシスコ・スカラマンガの隠れ家/Eon Productions
「007/黄金銃を持つ男」の殺し屋フランシスコ・スカラマンガの隠れ家/Eon Productions

「悪役(ヴィラン)になってこのような隠れ家を建てるか、あるいは建築家になるか、の2つの選択肢があった」とオッペンハイム氏は言う。

オッペンハイム氏は、著書「Lair(隠れ家)」の中で、15軒の「究極の隠れ家」の白黒の建築図面を紹介している。その中には映画「エクス・マキナ」で使われた北欧の高山の中にある隠れ家や、「007/私を愛したスパイ」のクモのような形をした海中基地、さらに「北北西に進路を取れ」で使われたラシュモア山中のしゃれた邸宅や「ブレードランナー2049」に出てくる不気味なウォレス社本社などが含まれている。

一般に、隠れ家には共通の特徴がある。それは、新築のようにピカピカで、荘厳で、ハイテクで、異世界的で、しばしば非現実的で、モダニズムの教義を大いに活用しているという点だ。

「ブレードランナー2049」の一場面/Columbia Pictures
「ブレードランナー2049」の一場面/Columbia Pictures

オッペンハイム氏は、最終的に15軒の隠れ家を選んだ根拠について、「第一に、隠れ家は野心的である必要があった。また、建築的に見て驚くほどの美しさを備えている必要があった」と説明した。

またオッペンハイム氏らは、映画「羊たちの沈黙」に登場するハンニバル・レクターのような連続殺人犯の残忍な性格の持ち主ではなく、人類のための壮大なビジョンを持つ悪党を選んだ。

「彼らは、大半の誇大妄想狂の人がそうであるように、自分は実際に正しいことをしていると信じており、その点では夢想家だ」とオッペンハイム氏は言う。

オッペンハイム氏らが選んだ建築には、悪党たちの個性的な人柄や性格が表れている。「これらの悪党たちの多くは、一昔前の紳士になりたいか、極度の超近代派になりたいかのどちらかで、その中間はあまりいない」(オッペンハイム氏)

「Lair」は、現代主義的、未来的、夢想的な建築が、長きにわたり、いかに非道徳性と関連付けられてきたかを検証している。20世紀から21世紀にわたり、ガラスやスチール、コンクリートで造られた、豪華でありながらミニマルでしゃれた家屋は、卑劣な野望を持つ理想主義の孤独な悪党にとっての典型的な住居となっている。

テレビでの家庭生活は、居心地の良さそうな伝統的な設定で描かれることが非常に多いのに対し、わがままな独身男性の住居はモダンな部屋と相場が決まっている。米テレビドラマシリーズ「マッドメン」のドン・ドレイパーも妻ベティと住む郊外の家を出て、マンハッタンの小奇麗なマンションで一人暮らしをする。

「マッドメン」のドン・ドレイパーの家/AMC
「マッドメン」のドン・ドレイパーの家/AMC

しかし、悪役の中には自然界にも魅力を感じる者も多い。そしてその影響は、環境との共生を目指す「有機的建築」を推進した米国の建築家フランク・ロイド・ライトにも見られる。

ハリウッドは、ライトの弟子だった建築家ジョン・ロートナーのデザインの中に好みの隠れ家を見いだすことが多い。例えば、映画「ボディ・ダブル」や「リーサル・ウェポン2/炎の約束」で使われたハリウッドヒルズの高台に立つ邸宅や、「007/ダイヤモンドは永遠に」で使われた砂漠の中の隠れ家が挙げられる。

映画監督のアルフレッド・ヒッチコックは、映画「北北西に進路を取れ」の撮影に使用する、ラシュモア山の頂上に立つ邸宅の建築をライトに依頼したが、報酬が高すぎたため断念し、代わりにライトの建築からヒントを得たセットを建てた。

「北北西に進路を取れ」/Metro-Goldwyn-Mayer
「北北西に進路を取れ」/Metro-Goldwyn-Mayer

自然の力そのものの活用は、野心のなせる究極の業だ。

アニメ映画「Mr.インクレディブル」で、ボブの敵バディ・パインが住む火山島の施設には溶岩で作られた壁がある。また「スター・ウォーズ」に登場するデス・スターは月に似ているが、世界全体を破壊する力がある。このアイデアは、米国、ソ連、ナチスドイツが、かつて破壊力のある周回軌道衛星の可能性を検討したという歴史から生まれた。

「スター・ウォーズ」に登場するデス・スター/Lucasfilm
「スター・ウォーズ」に登場するデス・スター/Lucasfilm

オッペンハイム氏は、われわれ自身の破壊的行動と、自然を支配したいという悪党の衝動との間につながりがあると見ている。「人類は本当に地球を征服しようとしてきた。(われわれの)文明は、自分たちに都合よく自然を操作し、今もさらに多くの建物を作り続けている」とオッペンハイム氏は言う。

悪党たちは、壮大かつ破壊的なビジョンでわれわれの最悪な傾向を体現している。彼らは、人類を避けるために隠れ家を利用し、清潔な空間や複雑な防衛システム、さらにプライバシーが守られた秘密の部屋や遠方の火山のクレーター湖に身を隠す。

しかし、彼らの欲求は、突き詰めると非常に人間的だ。

映画評論家クリス・ナシャワティ氏は、「これらの隠れ家は、家庭に関する全体的な考えをあざ笑っているようなものだ。なぜなら、ある意味、それこそが彼らの望みだからだ」とし、「彼らはこれらの大邸宅を欲しがる。彼らは誰もが欲しいものを欲しがるのだ」と付け加えた。

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