米フィラデルフィアのスタジオ・アーティスト、シェリル・エルジースミス氏(29)のような一般人にとって、ポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルのオリジナル作品は、通常であれば手の届かない代物だ。
しかし、エルジースミス氏は今、ブロックチェーンを利用した新たな投資プラットホームのおかげで、わずか200ドル(約2万2000円)でウォーホルの有名なマリリン・モンローの絵を手に入れようとしている。ただし、エルジースミス氏が手にするのは約0.01%の所有権だ。
1979年に制作されたこの「単色のマリリン(リバーサルシリーズ)」は、昨年競売にかけられ、182万ドル(約2億円)で落札された。この絵は1300人以上のオーナーが共同所有することになっており、エルジースミス氏もその1人だ。この共同購入を支援しているのがマスターワークスという米国のベンチャー企業だ。同社は資金の乏しい投資家に、数百万ドルもの値が付く美術品の「シェア(分け前)」をわずか20ドル(約2200円)という少額で購入する機会を提供している。
投資家らの目的は、美術史の1ページを購入することに加え、最終的に美術品が生み出す利益の「分け前」を得ることにある。元投資顧問のエルジースミス氏は、将来、購入した絵の価値が上昇する可能性にも着目している。
エルジースミス氏は、質の高い美術品はほぼ無限の価値上昇の可能性を秘めているとし、さらに「絵画は時代に左右されず、極めて安全な投資対象であり、その意味で不動産投資に似ている」と主張する。
美術の民主化
マスターワークスのような、美術収集というエリートの世界に入りやすくすることを目的とした新しい投資プラットホームは、ほんの一握りしか存在しない。同社は、競売で競り落とした絵画の所有権を「共同所有者」たちに移転し、管理手数料(保管料、輸送費、保険料を含む)や美術品が売れた時に発生する利益の一定割合を受け取る。
絵画を売却できるのは、共同所有者の過半数が合意に達した時だけだ。そのため、なるべく多くのオーナーが意思決定に参加できるよう、個人が取得できる所有権は10%以下に制限されている。
ポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルの作品も20ドルから「所有」できる/ Credit: Masterworks
マスターワークスの創業者スコット・リン氏(38)によると、現在同社の市場を主に構成しているのは2000年以降に成人した、いわゆるミレニアル世代だという。彼らの投資額は数百ドル程度だ。
自身も美術収集家であるリン氏は「アートの世界は複雑で、アクセスしやすいわけではない。業界内部にいなければ理解することが難しい慣習や物事もたくさんある」としながらも、絵画への投資は、ネット上で特定の絵を見つけ、その絵の価値がこれまでどれだけ上昇したかを調べればよく、株式投資よりもはるかに簡単だと主張する。
マスターワークスの場合、取引はすべてブロックチェーン技術を使って行われている。将来は投資家らがイーサリアムのトークンを使ってシェアの売却や取引をできるようにしたい考えだ。
リン氏は、「美術は非常に大きな産業だが、ごく少数の人々によって支配されている」とし、「今後、美術界が成長するために、われわれと関わりを持つ人々の数を増やす必要がある」と付け加えた。
新たなモデル
美術品の共同所有というアイデアは、新進の芸術家たちにもメリットがありそうだ。
ロンドン出身の芸術家ヘンリー・ヤン氏(24)は、最近、「分割所有権」を販売するデジタル市場「フェラル・ホーシーズ」を通じて自分の絵を3000ポンド(約45万円)で売却した。売却後も、ヤン氏はその絵の10%の所有権を保持する。
ヘンリー・ヤン氏の作品。90%を売却した/ Credit: Henry Yang
フェラル・ホーシーズのモデルを利用することにより、芸術家と共同所有者は、同社が美術品を貸し出すとその収入の一部を受け取れる。つまり、ヤン氏は自身の絵を売却しても、将来その絵の価値が上がった時に利益を得ることができるともいえる。
ヤン氏は「分配金など、金銭的条件の観点から考えるだけでなく、共同所有によって(芸術が)共同プロジェクトになるという点も忘れるべきではない」と付け加えた。