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ノーベル文学賞にアブドゥルラザク・グルナ氏 植民地主義テーマに妥協なき作風

ノーベル文学賞を受賞したアブドゥルラザク・グルナ氏

ノーベル文学賞を受賞したアブドゥルラザク・グルナ氏/Simone Padovani/Awakening/Getty Images

今年のノーベル文学賞は、小説家のアブドゥルラザク・グルナ氏が受賞した。植民地主義のもたらす影響を「妥協なく、情熱的に」描写した点が評価された。

グルナ氏は1948年にタンザニアで生まれたが、若い時に英国へ移り住んだ。これまで10作の小説を執筆し、その多くは難民としての経験に焦点を当てている。

94年の「パラダイス」が伝えるのは、20世紀初頭にタンザニアで育った少年の物語だ。同作はブッカー賞を受賞し、グルナ氏は小説家として一躍脚光を浴びた。

選考委員会は声明で「グルナ氏は真実に対するひたむきさと単純化を忌避する姿勢が際立つ」「こうした要素こそが同氏の荒涼とした、妥協のない作風を可能にする。加えて、個々の人物の運命をたどる時には、大いなる慈悲の心と断固たる献身とが表れる」と述べた。

2001年の「海辺にて」では、英国の海辺の町に暮らす1人の難民の姿を追った。そして最新作「Afterlives」は「パラダイス」の物語を引き取りつつ、ドイツの植民地だった頃のアフリカが舞台となっている。

登場人物たちは「気が付けば文化や大陸の裂け目の中にいる。かつての人生と、これから立ち現れてくる人生の狭間にいる。その不安な状態は決して解消され得ない」と、選考委員会は指摘する。

すでに退職したが、73歳のグルナ氏は、英イングランドのケント大学で英語とポストコロニアル文学の教授も務めた。

今回選考委員会が授与を決めた作家の作品は強制退去や亡命、移住といったテーマに立ち向かうものだが、ここ数年の欧州は移民がもたらす危機のただ中にある。状況は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、一段と厳しさを増した。

選考委員会のアンダース・オルソン委員長は7日の授賞発表の後、記者団に対し「欧州と地中海沿岸の深刻な現状が今回の授賞に影響を及ぼしたとは思わない。国を追われて移住を余儀なくされる事象はそれらの地域で何年も続いているものだからだ」と説明した。

「とはいえグルナ氏の著作が、現在の欧州と世界において極めて興味深く、説得力を持つのははっきりしている」「我々は世界で起きている現象から影響を受けるし、そうでないとすればそれは非常に奇妙な話だろう」(オルソン氏)

タンザニア生まれのグルナ氏の著作。7日、ストックホルムのスウェーデン・アカデミーで/JONATHAN NACKSTRAND/AFP via Getty Images
タンザニア生まれのグルナ氏の著作。7日、ストックホルムのスウェーデン・アカデミーで/JONATHAN NACKSTRAND/AFP via Getty Images

ノーベル文学賞の過去の受賞者にはフランスの哲学者、ジャンポール・サルトルやアルベール・カミュ、英国の劇作家、ハロルド・ピンターらがいる。小説家ではジョン・スタインベック、トニ・モリスン、カズオ・イシグロなどが名を連ねる。

16年には米歌手のボブ・ディランが受賞し、例年よりも物議をかもした。19年にオーストリアの作家ペーター・ハントケが受賞した際には、選考委員会に批判の声が寄せられた。1990年代のユーゴ紛争をめぐる作家自身の過去の発言で、議論が巻き起こっていたためだ。

1901年にノーベル文学賞の初の受賞者となったのは、フランスの詩人、シュリ・プリュドムだった。

科学系の3賞に続き、今週授与されたノーベル賞は文学賞で4つ目。8日にはノーベル平和賞の受賞者が発表される。

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